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モテるために大学にいく、ということが選択肢としてアリなのか問題ともっと根の深い問題。

ネットで話題になっている「京都光華女子大学健康栄養学科 オープンキャンパス特設サイト」がいろんなことを示唆しているので、ちょっとご紹介してみよう。

このサイトを開くと、謎の帽子をかぶった謎の少女(大学生?)が、「大学は「楽しい」でえらぼう!」と叫んでおり、その隣で大学ヒエラルヒーを根こそぎ破壊する文言が白抜きで浮かぶという、大変インパクトあふれる構成でのっけから人を破壊しにかかってきている。

モテるかどうかで\大学を選ぶ時代到来!!\モテ偏差値75\究極にモテる京都光華女子大学健康栄養学科

僕はこれをみて感動した。

いま、各地の大学はどこも大学ランキングとかいうわけのわからない指標を軸に動かされており、その「大学ランキング」もまったくもって意味不明というか、無意味であることに気づいていない人はいない。

そのランキングの、もっとも端的な指標として「偏差値」がある。偏差値というのは点数分布を偏差でマッピングしたものだから、偏差値75というと上位0.62%。東大の理2ぐらいのトップエンドグループに入る可能性があるスーパーエリートだ。

でもって、京都光華女子大学の普通の偏差値は学部によるけど39~45ぐらい。京都精華大学と同じぐらいか少し後塵を拝してしまっているところで、京都の中心から離れていることもあって少し不利を感じているかもしれない。ただ、看護や栄養学など医療や家政にかかわる専門性の高い学校なので、偏差値そのものに深い意味はないだろう。それなりに将来を考えたそれなりの子の学校という立ち位置とみた。(それなり、というのは悪口ではなくて、チャンスをちゃんとつかめるけど高望みをしすぎて自爆したりしないという意味)。

このグループの大学が「一発逆転」を狙うためにはどうしたらいいか。

偏差値や将来就職率などのKPIを根こそぎひっくり返せばいいのである。

それがこのモテ偏差値というわけだ。看護や栄養士をめぐる他大学との競合も考えた上で「(男に)モテるんだから、うちの大学に来い」という売り文句は、このクラスの大学が生き残りをかけたネタとしてもマジとしてもそれなりの根拠を認めてもいいと思う。

実際、このサイトはオープンキャンパス用の特設サイトだ。

つまり勉強が苦手だけど一応将来を考えている高校生と、「うちの子は勉強だめだから」とあきらめ顔の父兄とを、「少なくとも楽しい学生生活は送れますよ」&「あわよくばあなたの娘さんを幸せにしてくれる男が捕まえられますよ」という二段構えで籠絡しようとしているのだ。すごい。

で、もうちょっと続ける。

下にスクロールしていくとモテ偏差値についての説明がある。偏差値40だと「恋愛は基本二次元」で、75になると「ディーン藤岡が本気になる」らしい。40と75の間では恋愛の質的転換が起こっている。40では「自分が愛するしかない(相手はふりむいてくれない)」のに対して、75では「誰かが愛してくれる」という受動的な立ち場に逆転している。これは注意される質的な転換だ。

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さらに下にスクロールをするとなぜ光華にくるとモテるのかが書いてある。「京女」になれ「女子大生」になれ「管理栄養士」になれるからだ。

注目すべき女子大生のところの売りはこうだ。

・女子大生は遊び慣れていないイメージがある
・女子大生はお嬢様のイメージがある
・女子大生は、インカレサークルで出会いが豊富

「インカレサークルで出会いが豊富」なのは、自学では部活はあってもサークルはないということを示しているのだろう。では具体的にどこの大学のインカレを意識しているのだろうか。はっきり書いていない。

まだまだ面白い(それらしい京都弁が身につく、とか)所があるので、ぜひ各自で見て欲しいところはいろいろあるけれど、一番僕がすごいと思ったのは、このサイトが全力で発している「自立しなくていい」という強烈なメッセージだ。

楽しい大学生活をおくったモテ女子になり、そしてモテたらインカレサークルで高学歴な彼氏を見つけてバイアウト。これがこのサイトが出しているメッセージの本質であって、それを隠そうともしない。

もうはっきり云ってしまえば、この一見「頭のゆるい女子高生向け」のサイトは、人が生きて行くための地舗を与えるという大学ーーあるいは専門・資格系学校ーーの役割を完全に放棄していることを認めている。もちろん、その生き方はあっていいと思う。僕だって、その生き方を許す力(財力など)があれば許してあげたいと思う。

でもはっきりいえば、このサイトを見た「将来の花婿さま」が光華の女を積極的にお姫さまとして迎えたくなるかは疑問だ。彼氏の胃袋を満足させてあげる程度では、最後のバイアウト(結婚→専業主婦)という夢は手に入れられない。モテることも難しいだろう。バイアウトを前提にしたプランで最後に問われるの女子の「人間力」であって、他にはない。冷たいことをいう。「料理ができて美人でもそれだけじゃ幸せになれない」。以上だ。

以前、お茶ノ水女子大だったか日本女子大が、「年収400万円の男なんてほとんどいません」という紙をばらまいて「将来はかわいいお嫁さん!」とか思ってる学生たちを皆殺しにしたことは記憶に新しい。

光華女子のサイトはそうした現実から目をそむけ、曖昧な「モテ」で塗りつぶした将来の安易なスケッチである。僕はそこの潔さにすさまじさを感じた。

僕もファッション誌で少し働いたことがある身だ。この手の「潔さ」は簡単には身につかない。思い切りというだけではなく、学問、資格、栄養、大学にいくこと、生きるための力を身につけること、思考すること、夢見ること。すなわち倫理。すなわち人倫。すなわち道。それらを全てドブにぶち込んで、「大学生活」という淡い空間に、淡い期待を抱かせることに特化してきたこのサイトは、大学史上に名前を残していい。

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でも、このサイトからにじみ出ているいやらしさの本質は、高校生に対して何も期待をしていないという冷笑的な感じだ、といえばそうなのかもしれない。勉強が好きな子はもっといい大学にいくだろう、看護師になりたい子も、管理栄養士になりたい子も、もっといいところはいくらでもある、といった諦念。自学にプライドをもてない悲しみや、他のいいところを夢見る夢。

でもね、本サイトは大学HPから飛んでいくことができない孤立的なサイトでなんだけど、実はオープンキャンパスは別のサイトが用意されていて、そこには学生ボランティアスタッフたちの動画も準備されている。

vモテとはぜんぜん縁遠い感を感じる(失礼)。でも、これはこれでいいじゃない? そう思いませんか?

ちなみにオープンキャンパスは5月21日(日)。父兄や学校の先生や高校生のご来場をおまちしているそうですよ。

【追記】2017/05/20

サイトがなくなっちゃいました。公式に「本サイトは関係ありません」という声明が出されました。ただ、大学広報とは何か、大学を選ぶ理由は何か。専門教育や資格教育(つまり他でも取れる)ものを軸にすえた大学教育の魅力とはなにか、とか、いろんな問題は残っていると思いますので、記事はそのままにしておきます。こういう夜もあった。それがネットという場所です。

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