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耐える姉と母の死…今週の『らんまん』

江戸時代末期、土佐の裕福な商家に生まれた、後の天才植物学者・槙野万太郎(森優理斗さん→小林優仁さん→神木隆之介さん)。東京帝国大学植物学教室の助手として研究に没頭。理不尽な目に合うも、夢のために情熱を失わず突き進んでいく、朝ドラ『らんまん』の第1週「バイカオウレン」。

大人になった万太郎(神木さん)の姿から始まった月曜日。あいみょんの主題歌&OPを挟んで、子役パート(森さん)がスタート。森さんは『鎌倉殿の13人』では金剛役、小林さんは『青天を衝け』では渋沢栄一役と、大河から朝ドラへシフト。

発熱しがちな万太郎は裕福な酒蔵の跡取りですが、祖父と父は亡くなっており、母ヒサ(広末涼子さん)も病弱。祖母タキ(松坂慶子さん)が、番頭の力を借りながら、何とか仕切っているものの、分家に陰口を言われるなど家運が傾いていることをうかがわせました。

分家の豊治(菅原大吉さん)の陰口を聴き、ショックを受けた万太郎は、ヒサに泣きつきますが、なだめる言葉に反発。裏山の神社で、天狗らしき男・(ディーン・フジオカさん)と出会う展開。

その頃、自身と万太郎が病弱であることをタキにヒサが謝罪した火曜日。タキは三回も流産しながら、男の跡取りである万太郎を産んでくれたヒサに感謝。現在の価値観からすると、ずいぶん酷い話ではありますが、そういう時代であったと。

天狗の正体が坂本龍馬と判明した水曜日。万太郎の「わし、生まれてこん方が良かったがじゃと」との言葉に、「生まれてこん方が良かった人らあ、一人もおらんぜよ。いらん命らあ一つもない。この世に同じ命らあ一つもない。みんな自分の務めを持って生まれてくるがじゃき」と今後の万太郎の人生の指針になるような言葉をくれました。「草木国土悉皆成仏」ですね。

帰宅した万太郎は、訪ねてきた深尾家の家臣・塚田昭徳(榎木孝明さん)から、学問所への進学をすすめられました。「この年の十月、土佐藩が幕府に提出した建白書が歴史を大きく動かします。世に言う大政奉還です。徳川の終わり。その頃、峰屋にも大きな別れが近づいていました」と宮崎あおいさんのナレーション。

万太郎が、お目付け役の竹雄(井上涼太さん)に八つ当たりした木曜日。それを咎めた綾(太田結乃さん)は、酒蔵に逃げ込んだ万太郎を追いかけて中に入るも、そこは女人禁制の場所。親方の寅松(嶋尾康史さん)から排除され、罰として夕飯抜きに。今なら児童虐待ですけどね。

一方、ヒサは目を覚まさない状態が続き、綾はその死期を悟るも、まだ幼い万太郎にはそれが理解できず、母の好きなバイカオウレンの花を探しに、裏山の神社に向かいました。

万太郎が花を探して、禁じられた奥山を彷徨った金曜日。雪も降り始め、遭難しそうになった万太郎を、探しに来た綾と竹雄が救いました。帰宅した万太郎たちに目を覚ましたヒサでしたが、「春になったら、お母ちゃん、あそこにおるきね。また会おうね」の言葉を残し、亡くなってしまいました。

朝ドラ『あまちゃん』再放送が同時期にスタートしたため、ネットトレンドでもあまり話題にならず。ストーリー的にも、毎話不穏だったり、暗かったりと、『あさイチ』朝ドラ受けも苦労しているようでした。

主人公・万太郎は5歳設定と朝ドラでは珍しい!?ため、分別のまだつかない甘やかされた「駄目坊」に見えましたが、対照的に姉の綾は愛情深い上に賢く、行儀作法も身についていながら、時代背景の中で女ということで「穢れ」と言われたする理不尽さをじっと耐える姿が印象的でした。

第一週だけ見ると、万太郎は龍馬との出会いや母との別れなど、生涯の原体験は描かれたものの、共感するキャラではまだなく。むしろ、綾の方にフォーカスされた週だったような気がします。

以下、ネタバレするかも知れない予想あります。

本作は、日本の植物学の父を言われる牧野富太郎をモデルに、ある植物学者の波乱万丈の物語として大胆に再構成。登場人物名や団体名などは一部改称して、フィクションとして描かれています。

ということで、Wikipediaの牧野富太郎の記事を参考に、フィクションの部分に注目すると(龍馬との出会いはもちろんですが)、富太郎には姉はいなかったということが一番大きいのかなと。では、本作の綾はどうして創作されたのか、なぜ第一週で主人公以上に印象深く描かれたのか。Wikipediaの牧野富太郎の記事を参照しましょう。

「牧野は研究費を湯水の如く使ったこともあり、実家の経営も傾いていった」「31歳で、東京帝国大学理科大学の助手となったが、その時には生家は完全に没落していた」「造り酒屋であった実家の財産を使ったが、東京に出る際に親戚に譲った」

詩のイメージとは違い、石川啄木が借金踏み倒し王だったように、牧野も金銭感覚が普通の人とは違っていたようで。これは拙い。人によっては「道楽で裕福な実家を潰した。奉公人などを路頭に迷わせた」と捉えられかねません。

そこで登場させたのがフィクションとしての綾だったのでしょう。万太郎は家業を継がずに植物学の道へ進むけれど、しっかり者の姉が酒蔵を守る。後顧の憂いがなければ、視聴者も万太郎と妻・寿恵子(浜辺美波さん)の“冒険”を応援しやすくなるのかなと。

綾自身、酒造りに興味津々で、日テレ風に言えば、女「だが、情熱はある」。今時としては強い表現「穢れ」というセリフがあり、綾が理不尽な目に遭ったのも、後に困難を乗り越えて、酒屋を継ぐ伏線なのかなと。

視聴者は万太郎のメインストーリーと共に、綾の『夏子の酒』的サイドストーリーも楽しめるのではないかと期待しています。ただ、時代は明治初頭。さすがに、綾一人では難しいでしょうから、婿養子を取ることにはなるでしょう。第一週ですでに二人の候補が登場しています。

一人は竹雄。万太郎の雪山捜索の際に、綾の手を握っていました。もう一人は蔵人の幸吉(番家一路さん)。酒蔵に綾が落としたかんざしを拾って、意味ありげな表情。

長じて竹雄は志尊淳さん、幸吉は笠松将さんが演じます。志尊さんはNHKドラマ『女子的生活』に主演、笠松さんは大河ドラマ『青天を衝け』で、主人公の息子・渋沢敬三を演じるなど、共にNHK御用達俳優。どちらが婿になってもおかしくありません。綾を巡る三角関係も楽しみです。


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