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20年ぶりの元学生との再会

今週金曜日は、うちの文学部と、インドネシア、スラバヤのDr. Soetomo大学の文学部との学部間協定の調印式をした。日本への入国が比較的容易になって、先月はタイ、カセサート大学から4人の先生を迎え、今月はインドネシアから9名。どちらも学部長がいらしていたが、大変気さくで和やかな方々だった。

うちの学部長も気さくで陽気な方だと思う。そして、国際交流に対して積極的であるとも思う。これまでの学部長で、国際交流に後ろ向きだった人はいなかったけれど、いまの学部長は特に前向きなのではないかと思う。そのおかげで? 若干、仕事が増えたと言えなくもないけれど。ま、なんとかなっている。

この協定は僕にとって特別なものだった。僕が企画して書類を書いて、提携にまでこぎ着けたということもそうだけれど、相手方の中に、昔の学生がいたからだ。Dr. Soetomo大学文学部の日本語学科の学科長、D.I. 氏である。Dさんは僕が岡山大学に就職して3年目、2003年目に日研生(日本語・日本文化研修留学生)として岡大にやってきた。当時は(昨日、本人から聞いて思いだしたのだが)、ポーランドのJさん、トルコのEさん、メキシコのAさんが、日研生として留学していて、DさんはJさんといつも一緒に行動していたように記憶している。今回は、協定締結の記念として、そのDさんが講演をしてくれることになっていた。

講演が始まった。Dさんが話し始める。

「まず、この場をお借りして、岡山大学文学部に対して、このような機会を作っていただいたことを感謝します」

立派な日本語である。

「私は、2003年から日研生として一年間、岡山大学で勉強しました。…………」

と、ここで氏の発話が途切れた。途切れながら話している。その声は、こみ上げてくる何かを抑えようとしているようにも聞こえる。

2003年といえばほぼ20年前である。Dさんは20年前の自分の姿を、岡山大学に帰ってきて見ているのだろうか。良いことも、きっと辛いこともあった留学時代を思い出し、こみ上げるものがあるのだろうか。

落ち着きを取り戻したD氏が、どのような挨拶をしたかは覚えていない。僕自身が、Dさんの姿を見て、うるっとしていたからだ。数年前から涙腺がゆるんでいかんぜ。

挨拶の最後にDさんはこう言った。
「堤先生の前で発表するのは緊張しますが、それでは発表させていただきます」

Dさんにとっては、まだ僕は「堤先生」なのだ。それは、なんというか、とても「良いこと」であるように思えた。こんなに立派になった人の、先生でいられるというのは、「良いこと」なのだ。多分。

岡山大学にお世話になって、僕自身は23年目になる。最初の数年間は、留学生担当教員として、留学生の日本語教育を主に担当した。今でも留学生に日本語を教えてはいるが、授業の数は少なくなって、その代わりに学部生のゼミや講義、大学院生の授業が入った。その分、指導しなければならない学生の数は爆発的に増えた。こないだ、今年度の学生で、僕が指導教員になっている人の数を数えたら、50名くらいいた。小学校の担任より多い。

いまの学生の何人かが、講演を聴きに来ていた。博士後期課程の学生Gさんと、学部の4年生、Mさんがそれぞれ、「堤先生の学生です」と言いながら、Dさんに質問する。

一体、いままで何人の学生と関わってきただろう。
もう真面目に数えるだけの具体的な資料が残っていないけれど、20年もやってくると、それなりにたくさんの学生を、世界中に送り出したように思う。そしてその中の何人かと、まだ連絡が取れていることは、この上ない僥倖であると思う。世界中どこに行っても、会うべき誰かがいる。

講演後は先生方を、大学の食堂に連れて行った。岡大も、この20年の間にハラルフードを提供するようになった。Dさんがいた当時は、外の業者が留学生の寮に、ハラルの食材を売りに来ていたと聞いたことがある。次はお祈りの場所を作ることが必要だろう。もうあるのかも。

そのあとはキャンパスを案内。今週はとてもいい天気でしたね。紅葉もなんとか残っていて、気持ちのいい散歩でした。

↓なかなかいい写真です。Dさんと僕。

帰宅したら、10年前に日研生だったブラジルの学生から、推薦状を書いてほしいという依頼が来ていた。タイが終わって、インドネシア、インドネシアの次は、ブラジル。日本語を教える仕事は、味がある。

今回のトップの写真は大学のキャンパスの中にある銀杏並木です。「イチョウ並木」の看板が立っていて、外部の人も散策をしていました。インスタグラムに載せるのでしょう、学生さん達が大勢いて、みんな後ろ姿でポージングをしたり、思い思いにカメラに収まっていました。

岡山独特の? ほんとに「雲ひとつない」快晴。空の青さも、僕が育ってきた地域とは違う、底抜けの青。Dさん、天気が良くて良かったね。気をつけて、残りの日本滞在を過ごしてね。




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