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ひとりドライブ@県道沿いの一軒家

仕事で、長距離をひとりで運転している。
いつも思うのだけど、日本てすごいなと思う。
どんな田舎の山道を走っていても、
数キロ走ると、視界のどこかに必ず住宅が見えて、
あ、誰かが住んでいるんだなとわかる。

その日夕方は、県道を走っていた。

村の外れの街灯が無くなって、対向車もなく4kmほど走った時、
車のハイビームの灯りのずっーと向こうに、
大きく緩やかな右カーブが見え、その出口辺りに家の光があった。

うわぁ、こんな人里離れたところに、住んでる人がいるんだ?
どうして、こんなに人里離れたところに家を?

昔の地元農家さんの末息子だから、
遺産分配で、こんな山中の土地しか譲ってもらえなくて、
地元を出て暮らせるほど、勉強も仕事も頑張ってなかったから、
両親からは、ずーっと地元で一所懸命やれ!と言われていて
その家所有の飛び地の山中の雑木林の土地をもらった。

最初は、こんな痩せた土地、畑にもできねえ!と怒っていたが、
譲る側の両親は、その土地と他の人の所有地の境目あたりに、
県道が通る計画を知っていてのことだった。

末息子は可愛いのだ。

それから数年経った頃、
本当にその山林の土地をかすめて県道が通る工事が始まり、
同時に、年頃になった彼は、親戚のおせっかいおばちゃんの縁で、
自分の好みの姿、格好、性格からは、遠くかけ離れてはいたけど、
お嫁さんを紹介してもらい、なんとか結婚することになったのに、
家もないのは不憫だ!と、優秀な兄や姉たちがお金を出し合って
彼の土地に本当に小さな小さな家を建ててあげた・・・

という感じかな?と想像しながら、
カーブの手前で、大きく必要以上に減速して、
後続車もいないから、本当にゆっくりとカーブに入った。

その時、その家の道路に面しているのが、台所だとわかった。
プロパンガスのボンベが2本、見えたからというのと、
少し、窓が開いていて、台所の中がちらっと見えているからだ。

女性が、料理をしながら、テーブルに向かって何か話をしている。
誰か、お子さんとか、ご主人とかと話をしているのだろうか。

なんか一瞬ではあったけど、すっごく暖かいムードを感じた。
蛍光灯の色が昼白色でなけりゃ、もっと暖かかったのに。

次に、その家の庭が、視覚の左片隅に見えた。
車が、軽自動車の1台しか見えなかった。
あ、あの軽自動車は、きっと奥さん専用の車だな。
こんなに人里離れた家には、奥さん専用車があってしかるべきだ。

ということは、
旦那さんは、まだ帰宅してないんだな。とも思った。
すると、あの女性、
多分、奥さんは、お子さんと話をしていたのか。

おおお、お子さんがいらっしゃるんだぁ。

この家のご主人は、親戚のおばちゃんのおせっかいで、
自分の好みの姿、格好、性格から遠くかけ離れていた女性と
無理やり結婚させられたくせに、子作りの魅力には負けたと見える。

こんなにも人里から離れたところじゃ、呑みにも行けないから、
ご飯食べて、テレビ見て、風呂入ったら、もうやることと言ったら
セックスしかないんだろうなあ・・・。
とかゲスな勘ぐりをしてる自分を笑ってしまった。

大きな緩やかなカーブを出る時、アクセルを踏み、加速した。
バックミラーの中の台所の光は、
ゆっくりゆらゆらしながら小さくなって見えなくなった。

それから再び、
車のハイビームの灯りの向こうに注意しながら車を走らせた。

10分も走ったところで、一台の白っぽい車とすれ違った。
あ、もしかすると、今の車、あの家の旦那さんのかもしれない。

それから、また10分後くらいに、今度は赤の車とすれ違った。
あ、もしかすると、この赤の車こそが旦那さんの車かもしれない。

以後、すれ違う車があるたびに、
そのドライバーがあの家の旦那さんかもしれない!
と勝手に想像しまっくった。

結局、次の大きな町に着くまで、
あの家の旦那さんは、総勢、8人にもなってしまった。

8人の旦那さん
曜日替わりにしても、一人余ってしまう旦那さん。
奥さん!
気にいらない旦那さんは、ハブっちゃってください。

しかし、あの台所のテーブルに
毎日毎日違う旦那さんが座っているというのを想像したら、
とってもイヤ〜な気分になってきたw。

だから、
あのお家は・・・、
勤勉でステキな旦那様がいたのだけど・・・、
突然、病気で亡くなってしまい、
今は、お母さんとお子さんが慎ましく、
でも明るく暮らしているんだ!と勝手に思い直して、

ゆっくりと、ファミレスの駐車場に、車を停めた。

「さて、何を食べようかな?
 あの奥さん、オムライスを作ってたような気がするんだ。」



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