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【春休み世界史講座#006】合衆国憲法の制定

*前回https://note.com/akshs/n/n33be53cbb69bからの続きです。

合衆国憲法の制定


セカコ:独立が認められたのは良かったのですが、連合規約のままだと、アメリカ合衆国はEUや国連みたいな組織になってしまいますよね。

先生:そうなんです。独立当初の合衆国は、連合規約のもとで一応まとまった13の「ステート」のゆるい連合体にすぎず、中央政府は弱体でした。そこで1787年、フィラデルフィアで憲法制定会議をひらき、各州の上に徴税権、通商規制権、軍隊保持権などをもつ連邦政府をおく連邦主義を採用した(1)合衆国憲法を制定しました。

セカイシシ:合衆国憲法は、世界で初めて制定された成文憲法で、以後の憲法のモデルとなった。モンテスキューの権力分立を取り入れ、立法権をもつ二院制の連邦議会と行政権をもつ大統領、それに司法権をもつ連邦裁判所の(2)三権分立を導入したことが大きな特徴じゃ。連邦議会のうち上院議員(Senator)は各州2名、任期6年の議員で、下院議員は人口比率で選出された任期2年の議員で構成されておった。

セカコ:私たちが今いるコングレス・ホールは、この時の連邦議会の議事堂でしたね。上院がニ階で、下院が一階を使っていたんですよね。

先生:そうでしたね。

セカコ:でも、この憲法制定は、相当揉めたでしょうね。連邦派と反連邦派で、対立があったのではないでしょうか。

先生:その通りです。連邦政府に強力な権限を与えるべきだと考える(3)アレクサンダー=ハミルトンら連邦派に対し,州権の維持を主張する(4)トマス=ジェファソンら反連邦派の勢いは強く,連邦政府の権限は、かなり限定的なものになりました。

セカコ:今でも各州が独自に教育や福祉、刑法などを制定しているのは、そのためなんですね。

先生:そうです。各州での憲法批准も難航しましたが、88年に憲法が発効しました。

資料 アメリカ合衆国憲法

前文
われら合衆国の人民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫の上に自由のもたらす恵沢を確保する目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する。

第1条
第1節 この憲法によって付与されるすべての立法権は、合衆国連邦議会に帰属する。連邦議会は上院と下院で構成される。
(以下略)

第2条
第1節 行政権は、アメリカ合衆国大統領に帰属する。大統領の任期は4年とし、同一任期で選任される副大統領とともに、以下の方法で選挙される。
(以下略)

第3条
第1節 合衆国の司法権は、一つの最高裁判所、並びに連邦議会が随時制定、設置する下級裁判所に帰属する。最高裁判所及び下級裁判所の判事は、善行を保持する限り、その職を保ち、またその役務に対し定時に報酬を受ける。その額は在職中減ぜられることはない。
(以下略)

第4条
第1節 各州は、他州の法令、記録及び司法上の手続に対して十分の信頼及び信用を与えなくてはならない。連邦議会は、これらの法令、記録及び手続を証明する方法とその効力につき、一般の法律で規定することができる。
(以下略)

第5条
連邦議会は、両議院の3分の2が必要と認めるときは、この憲法に対する修正を発議しなければならず、また全州の3分の2の議会の請求があるときは、修正発議のための憲法会議を招集しなければならない。
(以下略)

第6条
この憲法の確定以前に契約されたすべての債務及び締結されたすべての約定は、連合規約の下におけると同じく、この憲法の下においても合衆国に対して有効である。
(以下略)

第7条
九つの州の憲法会議による承認があるときは、本憲法を承認した諸州の間において同憲法が確定発効するに十分であるものとする。
(以下略)

(Wikisource)

ワシントンとアダムズの時代

先生:1789年にワシントンを初代大統領とし、連邦政府が発足しました。

セカコ:フランス革命と同じ年ですね。

先生:そうですね。さらに、1792年にフランス革命戦争が勃発します。これはグレートブリテンが参戦し、対仏大同盟を結成して、第二次英仏百年戦争の第六ラウンドとなります。次回以降詳しく学習しましょう。

セカコ:グレートブリテンとしては、フランスに反撃したいところですよね。第5ラウンドで負けましたからね。

先生:その通りです。合衆国では、対応が割れます。共和政を重んじる反連邦派は革命政府のフランス側を支援するよう主張し、いっぽう通商を重んじる連邦派は対仏大同盟のグレートブリテン側に配慮し中立を主張して対立しました。

セカコ:またその対立かぁ。懲りない面々ですね。

先生:1793年にはホイットニーが(5)綿繰り機を発明しています。

セカコ:前回の産業革命で学びましたね。

先生:こののちヴァージニア以南の南部諸州では、綿花プランテーションが拡大されて綿花の生産量が増大し、奴隷人口が大幅に増加していきます。

セカコ:アメリカ合衆国には、奴隷制が残ったんですよね。残ったどころか、綿繰り機の発明で、かえって綿花の生産量が増大し、奴隷人口が増えたというわけですね。

先生:その通りです。ワシントンら建国の父たちの中にも、奴隷制プランテーションのオーナーがたくさんいたんですよ。

セカコ:え、そうなんですか。

先生:ワシントン自身も奴隷制プランテーションの経営者の家に生まれています。彼自身300人ほどの奴隷を所有する奴隷制プランテーションのオーナーでした。

セカコ:そうだったんですか。ワシントンが奴隷制プランテーションのオーナーだったというのは本当ですか。ちょっと信じられない話です。教科書に載っていませんよね。

先生:そうですよね。建国の父が奴隷制プランテーションを経営していたというのは、今からは信じられないかもしれませんが、そもそもヴァージニアなどの南部諸州は奴隷制プランテーションで発展した植民地ですので、有力者はプランテーションのオーナーだったということになります。

セカコ:何だか悲しいお話ですね。

先生:この問題の解決は、半世紀後のリンカーンまで待たなければなりません。話題を変えましょう。

セカコ:首都が、ここフィラデルフィアからワシントンにうつったのはいつですか。

先生:第二代大統領(6)アダムズ(任1797-1801)の時代、首都ワシントンD.C.が完成し、1800年、ここペンシルヴェニア州フィラデルフィアから遷都されました。

セカコ:ここチェスナットストリートの、インディペンデンス・ホールやコングレス・ホールがアメリカ合衆国の中枢だった時代は短かったんですね。

先生:ですが、ここフィラデルフィアで、ワシントンが大陸軍司令官に任命され、独立宣言が出され、憲法が制定され、合衆国連邦政府が発足したのです。

セカコ:歴史の大きなうねりをチェスナットストリートは見ていたわけですね。

アメリカ独立の意義と問題点

先生:最後に、アメリカ独立の意義と問題点を確認して、今回の講義は終わりにしましょう。セカイシシさん、お願いします。

セカイシシ:合衆国の独立は、史上初めて近代的な(7)成文憲法をもつ国家を成立させ、商工業者や自営農民などの(8)市民が中心となる社会をつくりあげた点において、世界史上に重要な意義を持つことから、とくに「アメリカ革命(アメリカ独立革命)American Revolution」とばれる。ただし、これは白人市民にとっての独立であり、アフリカ系奴隷や先住民には市民権が与えられず、奴隷制や差別が残されたことは、大きな課題となった。アメリカ独立は、1848年のフランス二月革命にいたるまで、その後半世紀にわたり大西洋の両側で引きおこされる一連の革命の出発点となった。これらの革命の連鎖を、総称して(9)大西洋革命(Atlantic Revolution、あるいは環大西洋革命)とよぶ。

セカコ:史上初めて近代的な成文憲法をもつ国家を成立させ、商工業者や自営農民などの市民が中心となる社会をつくりあげたわけですね。

先生:ただし、これは白人市民にとっての独立でした。アフリカ系奴隷や先住民には市民権が与えられず、奴隷制や差別が残されたことは、大きな課題となりました。

セカコ:次回は、いよいよフランス革命ですね。楽しみです。

先生:セカコさんは、ベルサイユのばらが好きですからね、フランス革命の学習は楽しみでしょう。アメリカ独立の影響を受けて、フランス革命が起きたと考えられています。アメリカ独立は、その後、ラテンアメリカ諸国の独立や、1848年のフランス二月革命にいたるヨーロッパの一連の革命運動など、その後半世紀にわたり大西洋の両側で引きおこされる一連の革命の出発点となりました。これらの革命の連鎖を、総称して大西洋革命(Atlantic Revolution、あるいは環大西洋革命)と呼ぶので、覚えておいて下さい。

セカコ:今回はここまでですね。リバティベル(自由の鐘)を見に行きましょう。

先生:セカイシシさん、リバティベルについて教えてくれますか。

セカイシシ:リバティベルは、1752年にグレートブリテンで製造され、ペンシルヴェニア植民地の議事堂に設置された。そして、1776年にここペンシルヴェニア州フィラデルフィアで独立宣言が採択された際に、この鐘が鐘楼に掲げられ、独立宣言の採択を知らせるために鳴らされたとされておる。リバティベルは、アメリカ合衆国の象徴的存在として、多くの重要なイベントで使用されてきた。例えば、エイブラハム・リンカーン大統領が奴隷制度廃止を宣言した際にも、リバティベルが鳴らされたとされておる。

セカコ:あ、あれですね。

先生;それでは、今回はこのへんで。次回はフランス革命について学びます。パリでお会いしましょう!

重要語句まとめ

セカコ:この節で学んだ重要語句をまとめておきましょう。

1 合衆国憲法 
2 三権分立 
3 アレクサンダー=ハミルトン 
4 トマス=ジェファソン 
5 綿繰り機 
6 アダムズ 
7 成文憲法 
8 市民 
9 大西洋革命

セカコの世界史マイノート 重要語句メモ


合衆国憲法
アメリカ合衆国の憲法であり、1787年に制定されました。アメリカ合衆国の政治体制の基礎となる法律であり、アメリカの政治文化や価値観を示す重要な文書です。


三権分立
立法、行政、司法の3つの権力を分立させ、それぞれがバランスを保ち合いながら政治を運営する制度です。フランスの啓蒙思想家モンテスキューが『法の精神』で提唱しました。アメリカ合衆国憲法は三権分立制を採用しています。


アレクサンダー=ハミルトン
アメリカ独立戦争後に政治家、経済学者として活躍し、アメリカ合衆国財務長官として財政改革を行った人物です。連邦派の中心でしたが、決闘に敗れて銃殺されました。


トマス=ジェファーソン
アメリカ独立宣言の起草者の一人であり、アメリカ合衆国第3代大統領として活躍しました。反連邦派の中心的人物でした。アメリカ合衆国の民主主義の基礎を築き、農業や科学、文学の分野でも多大な業績を残しました。


綿繰り機
ホイットニーが発明した綿繰り機は、綿花の種子を除去するための機械で、手作業で行われていた作業を大幅に効率化しました。これによって、アメリカ南部での綿花栽培がさらに発展し、南北戦争に至るまでアメリカ経済の中心となりました。同時に、奴隷制度が一層拡大する結果も招きました。


アダムズ
アメリカ合衆国第2代大統領。ワシントンD.C.で執務した初めての大統領です。アメリカ合衆国の建国期に政治的リーダーとして活躍した人物です。


成文憲法
明文化された憲法のことを指します。アメリカ合衆国は、世界初の成文憲法を持つ国家として知られています。


市民
国や地域の市民として法的に認められた人々のことを指します。アメリカ合衆国では、市民権はアメリカ合衆国憲法に保障されており、自由や平等の権利を持ちます。


大西洋革命
18世紀後半から19世紀初頭にかけて、大西洋を中心に起こった革命のことを指します。アメリカ独立革命、フランス革命、ハイチ革命などが含まれます。これらの革命は相互に影響し合い、自由主義や民主主義の思想が広がる契機となりました。また、フランス革命によるナポレオン戦争は、ヨーロッパ全域に広がる戦乱を引き起こす一因となりました。大西洋革命は、現代の世界秩序の形成に大きな影響を与えた出来事の一つです。


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