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8月八日


午後、公園に行く。蝉しぐれ。ツクツクボウシの鳴き声が、鳥の鳴き声に聞こえる。ツクツク、「ボウシ」と音程があがってさがるところ。何年か前から、鳥たちが鳴き交わす声にしか思えなくなった。わたしの耳とあたまの、わたしだけの聞こえかた。


蓮の花が咲いていた。午後でも見れるなんて、思いもしなかった。池に渡された橋を行くとき、蓮の森のなかだと思った。葉っぱは大きくて、花はわたしのあたまを越えて咲いている。ここは別世界。ちがう世界。ひとが生きているつもりの世界とは、ぜんぜん違う理でできている世界。

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清涼ないい香りがしていた。雨の名残りの気配が、ずっとあった。葉っぱにたまったしずく、花びらに落ちたしずく。幾時間か前に雨が降っていたと、蓮たちが言っている。濃い湿り気がたちこめる。雨をうけた池の水。雨が乾いていこうとする橋の木目。髪の生え際に汗がにじんでくるわたし。どこにいても、わたしはひとのままだった。そのことがかなしい。字を当てるなら、愛しい。




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