連作 四つ葉

降る雪の白いレースの付け襟を
頬には何も朝はパン食

夏早々おろす傍ら事無きは
オフショルダーの生白い肌

一口の蜜に満ち足る遠目から
蓮華畑をドライブスルー

からからと声を響かせラムネって
キッチンカーで売ってないって

お団子の帯に短しおくれ毛を
はしかのようなものと云うけど

見つめられ軟着陸に踏む拍の
頷くようにロック聴いてる

含ませる指で空気を編むように
仕舞ってすぐのチョコを取り出し

成り行きの同じメニューと顔を見て
グラスに立てる長いストロー

鏡越し踊りの態を取り留めて
吐息が近い仮想現実

水鏡将又池に沈む葉か
戯れ泳ぐ鯉のみぞ知る

茹だる日に真偽問おうかサンプルの
涼味メニューはガラスの向こう

買い足しの文具をレジに翻り
小指で浚う吊り下げの菓子

遠つ人松の林はふかふかに
燃やすあてなき葉が積もりけり

襟ぐりを通し涼しく自転車で
膨らむワンピ気持ち押さえつ

手鏡を仰ぎ見るよう一息に
立ち漕ぎ上る駅前の坂

窄まって滑らかに置く太腿に
纏わり伸びるジャージスカート

道なりにテコの原理で駐めてから
ぞんざいに引き寄せる自転車

骨のあるデニムありなんへその下
ベルトループへ指通しつつ

首に下げここにあらずや看板は
引っ切り無しに画面撫でつつ

満を辞し必要ならば警笛は
ホームへ寄せて可愛くも鳴る

私服にて俄然いぶかし待ち人は
顔が合うなり隣を歩き

駆けずとも髪を靡かせ風車
昨日充電してたのですね

車窓越し見慣れたはずの景色から
換気で聞ゆ風の轟音

香しき畳思しき芝生こそ
胸まで迫る草枕なり

選り好み巣へ持ち帰る蜂と似て
花弁の上に眠る花虻

木のベンチ伝導率は低いかと
変わらず熱い端っこの影

ブラインド高さは漫ろまちまちの
スモーク色に西日射すカフェ

映画観てまだ日の高い大通り
ポップコーンを摘まむ狐と

いさなとり海を見ずして実感は
混み入る陸に日々埋もれつつ

靴下を脱ぎつ水着の足元が
砂にまみれて夏コレクション

連れ立って濡れず戻れるぎりぎりの
ショートデニムに膝上の波

カラフルな人の溢れる砂浜に
あながち白く打ち寄せる波

シャンパンやケーキに口をつけながら
たった一人の貴方だと知る

薄葉や折に包んでほくほくと
顔に湯気立つ紅い蜜芋

手を引かれ仰け反るぐらい見上げたら
淡く瞬く駅の天井

活けようとやっと開いた包み紙に
水の滴る花の切り口

汗引かず木々は地肌を見せながら
オーガンジーの背に朽ちていく

屋形船ぽつりと浮いて立つ鳥は
後を濁さずもう渡りけり

サンダルでそろりと潮に浸かったら
溜まるは海の砂ばかりかな

銀色のレールもやがて錆び付いて
ホームの上でまた出会える日

露霜の秋に大気は入れ替わり
未だ眩しい空を引きずる

桂の葉ときに儚い焼き菓子の
ハートに寄せる甘い香りは

信号の青を知らせる閑古鳥
ほんとはもっとグルーヴしてた

長見えはセーターの裾がインだから
括れの位置で腑に落ちまいか

もぞもぞと布団ありきのスタイルで
肩から吊るすオーバーオール

背に腹はダウンジャケット脱ぎながら
顎を埋めて隣席は空き

お洒落着を重ねて温い筈の身は
活気に満ちた寒空の下

濃紺のセーラー服はありふれて
赤い四つ葉がまた然りけり

萌え袖をよもや枕に紐解いて
綻び知らぬ春休み前

封をしてあとは野となれ万緑の
部屋着で向かう郵便ポスト

 「第68回角川短歌賞」応募作品。

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