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短歌

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過去の短歌応募作品に詞書を添えて
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連作 仕掛かりの歌

ロビーより先は手狭き棟ごとの エレベーターに高き天井 制服を脱ぎ捨て見えぬ心なぞ 気持ち寄せたるオフィスカジュアル 黒ずんだ床の輪ゴムが拾われて 細い手首に仮置かれたり 手順書で手取り足取り体幹の バランス感ず足癖で立ち 人へふり工夫の余地を残したる 作業机は整然として 起伏富む急な加速で立場上 ミス無き事を黄色い声で 空席のグラスを運ぶ塩梅に 振り向く手にはパソコンが乗り 弁当を小さな口で懸命に 子ほどの若き上司が席で 水分の補給で随時ロッカーで 嗜好の知れ

連作 四つ葉

降る雪の白いレースの付け襟を 頬には何も朝はパン食 夏早々おろす傍ら事無きは オフショルダーの生白い肌 一口の蜜に満ち足る遠目から 蓮華畑をドライブスルー からからと声を響かせラムネって キッチンカーで売ってないって お団子の帯に短しおくれ毛を はしかのようなものと云うけど 見つめられ軟着陸に踏む拍の 頷くようにロック聴いてる 含ませる指で空気を編むように 仕舞ってすぐのチョコを取り出し 成り行きの同じメニューと顔を見て グラスに立てる長いストロー 鏡越し踊り

連作 男子禁制

いろ鬼でルール違反も憂いなく 膝を交えて触れる黒髪 新しい遊びも尽きてブランコに 座り今更好きなアニメは 他の人先に行ったし植え込みの ショートカットで抱き留めてよね 長椅子に眩しい膝は体育で 君を横目に抱えれたけど 新館の広い廊下ですれ違う 君との距離は少し遠くて 憧れて見上げる階はテラスから 隣のクラス探れないかも 遠足は行き先の他お菓子とか 悩ましいかなバスで隣に スキップでリュックサックの肩紐を 繕ったけど君が気になる 散漫な視線を手繰り首筋の インタ

連作 戯れ言

御留山弓引くなかれ蛍なす ほのかに君を狩る月は満ち 弱冷に付かず離れずうなじから 手持ち無沙汰に風を入れたり 縁側で君とお茶した去り際に 零す欠片は庭へ掃えば 甘たるい遊び心にそつなくも 一期一会の食器洗剤 雪柳さぞや冷たしつんでれと 日向ばかりに真白く咲いて 裏漉しに果肉恋しと我儘を 飲ませてつぶは缶の底かな 箱入りの躑躅そ差し出がましくも 四角四面に匂ふや乙女 大根を漬け込む間あずまやで 散策がてら触れるのは惜し 靴紐を解かずで緩く打ち解けて 親しき仲に結

連作 魚の記憶

 ピュアでおバカな二人の織り成す連作相聞歌。情景に恋心を詠み込んだストーリー仕立ての短歌五十首。 (一) 花びらを君が箒で撫でる音 聞いて私の頭にも降る 素っ気なくしてるわけでは ただ何時もアーチ繋がるビルの窓辺に 求めても圧倒的な便利さに 声は空しくこだまするから 袖の擦る郵便受けに慎ましく 染めた臙脂が紅くなるかも ちきちきと響くペダルに気後れし 先に行ってと言ったけど坂 お目当ては次の階なの振り向いて エスカレーター二人きりだよ 朝顔の種はあるからひと夏に

潮目

 君からの連絡。どうやら今駅ビルにいるらしい。  涼むなら風の潮目へ駅ビルで入れ食いみたい指を咥える  「第24回ことばの祭典」応募作品。

自由の女神

1973年、飛騨市神岡町に建立された「立ち達磨」。 彼はずっとニューヨークの自由の女神像を見つめています。 しかし、残念ながら彼女は彼に気付いていません。 そして彼はとてもシャイで口下手なので、声をかけることもできません。 そんな彼の代わりにラブレターを書いて、二人の恋を応援しませんか?  焦がる身に分け隔てなき七つ海泳げど消えぬ恋の炎は  「第3回 飛騨・神岡短歌コンクール ~女神へ贈るラブレター」応募作品。

タマノカンザシ

 一度くらいは目が合っただろうか相変わらず進展なし。咲きかけの蕾を横目に一人自宅へ戻る。  夜会巻き寝間着に解き咲く頃に君は見たかな玉のかんざし  「第12回 タマノカンザシ(恋の花)にちなんだ恋文募集」応募作品。

郵便

 道に郵便のバイクが停まっている。エンジンはかかったまま、ドライバーの姿が見当たらない。横を擦り抜ける。  郵便のバイクへ期待控えめに幅を残して寄るのうちにも  「第26回 「はがき歌」全国コンテスト」応募作品。

 五月雨にゆるふわと花のみならず葉も甘く、植物とは大体そういうものだが、ふと融通の利かない凛とした香りに袖を引かれる。  薄化粧なりに願うの短冊で飾った笹は不躾ですか  「第2回令和相聞歌」応募作品。

正倉院

 食品を長期保存するのは難しい。ましてや冷蔵庫や缶詰などの無い時代ともなれば如何程のことだろう。正倉院は東大寺の倉庫であると同時に食糧の貯蔵庫でもあった。このような建物は宝物を保管するにも適していたのだ。我々だって大切な品をクッキーの缶に入れたりする。  千三百年という年月はさすがに長く使わずしてまた手入れなくしては正に宝の持ち腐れとなる。それは宝物の価値を保つのみならず新たな歴史を刻むことでもある。  クッキーの缶に芽吹くし想い出はいっそ海ごと正倉院へ  令和二年「正倉