あるレズビアンの失恋について
この春(春といっても、自粛生活の中でそれを感じることはほとんどなかったが)、大きな存在をうしなった。
彼女はわたしの友達であり、わたしが一方的に好きな相手であった。わたしは彼女に恋をしていた。
正しさを正しいままに主張する彼女が好きだった。黒い髪が風になびくのがきれいだった。優しいけれど正しさを優先するところが大好きだった。全部わたしに欠けていたから。
わたしは彼女に想いを告げなかった。彼女も何も言わなかった。ただ一言、「彼氏ができた」とだけ教えてくれた。
彼女は他の友達にはそれを伝えなかった。わたししか知らない彼女の秘密が、わたしにとって一番つらい内容だった。ばかみたいに失恋ソングばかり聞いては、歩きながら泣いていた。マスクをしていたから誰にも不審な目で見られることはなかった(はずだ)。
カメラロールから彼女の写真を消した(1000枚くらいはあった)。ラインを非表示にした(でも、今までと同じくらいの頻度で連絡をくれた)。ぜんぶ自分がつらかったからだ。何の気なしに目に入る彼女の断片が、喪失を突き付けたから。
彼女に想いを告げなかったことは、間違ってなかった。彼女は「そういうタイプ」ではない。優しさをもって拒絶されるのが一番傷つくことを知っていたから、わたしは親友のふりをした。
ありきたりな話だ。
異性愛者でもきっと同じ構造が世の中には溢れていて、だからこれは単に失恋の話である。ただ少し違いがあるとすれば、わたしはこれからも彼女のそばにいられる。親友のふりをして。彼氏の話を聞いていられる。聞きたくない気持ちをこらえて、嫌なアドバイスをしてしまいそうな自分を抑えて。
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