ランデヴー

 そのテディベアは川上から流れてきた。茶色くて、小学校に上がりたての子供が抱きかかえて眠るのにちょうど良い大きさで、腕の付け根の縫い目が心許なくなっている。そのくたびれ方から、愛されていたのだな、というのがよく分かった。それまで川底を漁っていた私は唯一の収穫物であるテディベアを拾い上げると、その首に掛けられていたネックレスを手に取った。その反射がなければきっとテディベアにも気付かなかっただろうと思う。布に包んでポケットに収めたネックレスはそんなに上等なものではなかった。むしろ、テディベアの方が心に引っかかるくらいだった。私はその小さな体を脇に抱えて歩き始める。家に帰って腕の付け根を綺麗に縫い合わせてやろう。そしてきちんと川に流してやるのだ。
 風上からは数日前の砲撃の名残のような焦げた臭いが流れてくる。生きるということは、なかなか簡単なものではない。

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