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1ヶ月間スマホをなくしていた僕の話

 スマホをなくしたとき、皆さんはどうするだろうか?

 探す? 新しいのを買う? そもそもなくしたりなんかしない?

 ・・・・・・。

 現代社会を生きるうえで、あの光る板はもはやなくてはならないシロモノだ。世の中の実にさまざまなシステムが、「人はみなスマホを持っている」という前提で駆動している。


 そんな大切なスマホを、僕は何度かなくした。ついこの間も、電車の中にスマホを置いたまま横浜駅で降りてしまい、小田原駅まで取りに行くハメになった。

 スマホをなくすとこういうことになるのだ皆さん。

 せっかくなので今回は、今までのスマホなくしエピソードのなかでもとくに大変だったときの体験を備忘録と忠告を兼ねて書き留めようと思う。もしあなたが僕と同じようにスマホなしで生活せねばならなくなったとき、この記録が少しでも参考になれば幸いに思う。


発端➖7月1日、夜

 今からおよそ1年前。きっかけは、本当につまらない出来事だった。

 その夜、野毛のガールズバーでしこたま呑んだ末に終電を逃した僕は、駅前でタクシーを拾った。

 そのタクシーの車内にスマホを置いたまま降りてしまったのだ。

ひさびさに絵を描いた。線がガッタガタ。

 ベロベロに酔っていたので、どこの会社のタクシーかはわからない。もちろん、領収書もない。

 警察に遺失物届けは出したものの、神奈川県警の仕事ぶりには不安が拭えない。

スマホ中毒。

自力での捜索は不可能

 警察が信頼できないとなると、自分でできることをやるしかない。が、ここでさっそく大きな壁が立ち塞がる。

 僕の自宅にはネット回線がないのだ。今までは5G通信が使えたので、わざわざ面倒な手続きをしてまでWi-Fiを引く必要を感じていなかった。

 有効な対応策を調べようにも、インターネットが使えない。おまけに、自宅には固定電話がないのでスマホ無しでは外部と連絡ができず、そもそも契約の類ができない。

 このピンチを僕がどうやって切り抜けたかというと・・・・・・。

コレです、コレ。

量販店のスマホ売り場のデモ機だ。

 誰かにこの話をするたびに

「こういうのってだいたいネットに繋がってないんじゃないの?」

と聞かれるが、どの店でもよく探せば1台はネットが使えるのだ。

 小学生の頃、スマホを持っていなかった僕は近所のヤマダ電機でネットサーフィンに興じていた。まさかあの時の記憶がここで役に立つとは。人生ってわからない。

 みなさんもコレ、覚えとくといいですよ。

店員さんに声をかけられてとっさに嘘をついてごまかした。ものすごく丁寧に話を聞いてくれるのでこっちも10分ぐらい芝居を続けなければならず心苦しかった。


 とりあえず、「スマホ なくしたとき」みたいなワードで検索しまくった結果、以下の事実が判明した。

  1. 神奈川県内のタクシー会社の元締めであるタクシー協会では落とし物を預かっておらず、各社でしばらく保管したのち警察に直接引き渡すらしい。

  2. それぞれのタクシー会社に個別に問い合わせようにも、事業所の数が多すぎる。公衆電話から連絡するのはダルい。

  3. 県警が遺失物のデータをネットで公開している(https://www.police.pref.kanagawa.jp/tetsuzuki/otoshimono/mesa1913.html)ので調べてみたが、それらしいものは見つかっていない。警察からの連絡を待つしかない。

  4. Apple IDが思い出せないので、iCloud+の「iPhoneを探す」機能は使えない。

 八方塞がりであった。とくに4が痛い。よく「Apple製品はGPSでデバイスを探せるから便利」なんて話を聞くが、あんなのは嘘だ。

 最大の望みを初手から断たれてしまったので、自分から能動的に探すのは早い段階で諦めた。ひとまず神と神奈川県警に祈りつつ、この状況を乗り切る方法を考えなければならない。


切札は部屋の中

 とりあえず、自宅でインターネットが使えないのはあまりにも不便だ。僕はネット中毒なので1日のうち32時間ぐらいはTwitterを見ているし、YouTubeは1日に68時間ぐらい見ている。寝るときはずっとポッドキャストを流し続ける習慣がついているので、静かな部屋だと眠れない気がするし。とにかく、このままではまずい。

最新機種が使えなくなって昔の愛機を引っ張り出す展開は『トップガン マーヴェリック』でも『ガンダムSEED FREEDOM』でもやってたので、はからずも昨今の流行りに乗る形に。


 とりあえず、長らく使っていなかったノートパソコンを久しぶりにひっぱり出した。うっすらとホコリをかぶっていたパソコンだったが、充電ケーブルを挿して電源を入れると問題なく起動した。

 しかし、これだけではどうしようもない。Wi-Fiを使えるようにしなければ。

 とりあえず、近所でポケットWi-Fiを借りられる場所を探してヨドバシカメラのスマホ売り場からレンタルを申し込んだ。ときおり広告を見かけるので存在は知っていたが、利用するのは初めてだった。

 どうにかインターネット環境を整えて、ひとまず安心・・・・・・かと思えば、ぜんぜんそんなことはなかった。

あれもできないし、これもできない

1.連絡できない

 スマホがなくなっていちばんストレスだったのは、LINEが使えないことだ。

「え、パソコンでもLINEってできるでしょ?」と思う人もいるかもしれないし、実際に僕もそのつもりでいた。僕のパソコンにはすでにLINEのアプリがインストール済みで、前に何度か使ったこともあったのですっかり安心しきっていた。いや、油断と言うべきか。

 パソコンをネットに繋いだ僕は、まず真っ先にLINEを開いてメッセージを確認しようとしたのだが、ここで非情な現実を突き付けられる。


 パソコンからLINEを使うとき、前回のログインから時間がたっているとスマホを使ってナントカ認証だかをしなければならないのだ。

声出た。

 そして、LINEが使えない問題がのちのち面倒な事態をまねくのだが、それはのちほど。

 電話もない、LINEも使えないとなると残りの連絡手段はメールかSNSだが、僕のパソコンはどういうわけかずっと前からGmailが使えない(理由は不明だが、同期とやらが終わらないのでメールが読めない)。よって、夏のあいだ僕はずっとTwitterのDMで知り合いとやりとりしていた。

 ちなみに、Instagramもパソコンでは見られない。なぜだ。

2.アマプラが見られない

 スマホをなくしているあいだ、世の中ではいろいろなことがあった。いちばん大きな事件はTwitterが「X」に変わったことだが、僕にとってそれより重要だったのは『シン・仮面ライダー』の配信が始まったことだった。

 前にも書いたが、僕は『シン・仮面ライダー』を映画館で4回観た。それぐらいハマった映画を、これからは好きなときに好きな場所で観られるという。

 これはもう、劇場ではわからなかった部分を一時停止やコマ送りでじっくりねっぷりチェックするしかねぇよなァァァーーーッッッ!!!

・・・・・・と思っていたのだが、

 パソコンからアマプラにログインしようとすると、「スマホに認証メッセージを送った」旨の表示が。

 スマホがないからパソコンから見ようとしてるのに、パソコンから見るためにはスマホが必要というパラドックス。誰だ、こんなシステムにしたのは。僕は叫び、勢いよくパソコンを閉じた。

3.かさばるし重い

 ネット中毒者の僕としては、外出先でも常にインターネットが使えていないとなんとなく居心地が悪い。のみならず、たとえば慣れない場所へ行くときにサッと道順を調べられないなど、ネットがないことによる実害は枚挙にいとまがない。僕はインターネットに生かされている。

 そんなわけなので、スマホがないあいだ僕はパソコンとポケットWi-Fiをリュックサックに入れて持ち歩いていた。

 僕のパソコンは親戚からおさがりでもらったもので、あんまり新しくない。割と大きくて重さもあるので、ずっと持ち運ぼうとするとけっこう邪魔くさい。

 おまけに僕は遅刻魔なので、待ち合わせの時間がギリギリになったりして全力疾走するとき、パソコンが入ったリュックがとにかく負担になる。時期がちょうど夏だったこともあり、少し走っただけで息があがって汗でべしょべしょになっていた。

 そんなわけで、僕はそうそうにパソコンを持ち歩くのをやめた。おかげで読書の時間が増えた。


仕事を辞めたことが家族にバレる

 弟とDMでやりとりしていたら、「お前、会社辞めただろ」と言われた。

 なぜそれを・・・・・・?

 確かに僕は、新卒で入った会社を6月に退職していた。が、そのことは家族や親戚には伝えていなかった。いったいどのルートから情報が漏れたんだ・・・・・・?

「LINEにずっと既読がつかなかったから、心配して社員寮に電話した」

 なんで電話すんだよそこで。ったく、面倒なことになっちまったなァほんとによー。家族の仲が良すぎるのも考えものだ。

 みんなも、スマホをなくすとバタフライエフェクト的に面倒なことがおきるかもしれないから気をつけたほうがいい。マジで。ホント。


決めた、買うわもう

 スマホが見つからないまま時は流れ、8月になった。

 当初から「我慢できるのは1ヶ月が限度だろう」と思っていたので、とうとうその期限が来たことになる。

 もう1ヶ月我慢しようか、とチラッと頭をよぎったりもしたのだが、さすがにそれは厳しいかと思ったし、家族からも「私たちも不便だから買ってくれ」と催促された。「これも授業料だと思いなさい」と。

 ・・・・・・とはいっても、スマホってやっぱ高いのよ。中古で買ったとしてもまぁまぁいいお値段するし。ひょっとしたら、明日にも警察から連絡が来るかもしれないし。

 それに、前のスマホは高校生の時に買ってかれこれ2年半近く使っていたので、それなりに思い入れもある。

 慣れ親しんだあのスマホから違うスマホに乗り換えることに心理的な抵抗があったのだ。前のデータを移植できるならともかく、Apple IDを忘れていてはそれもかなわない。完全にまっさらな状態のスマホを受け入れて、以前と同じように使っていけるだろうか。


「ようは、昔の女と同じですよ」

そう話す僕に、知り合いの女性はこう言った。

「あはは、じゃあ戻ってこないね」

身も蓋もない。


 しばし逡巡したのち、僕は携帯屋を訪ねた。ちょうどiPhone15の発売を1ヶ月後に控えたタイミングだったが、僕は最新機種とかにはあんま興味ないので、購入を先延ばしにする理由にはならない。


 とはいえ、どの機種に買い替えるかまったく迷っていないわけではない。むしろ、かなり悩んでいた。

 以前使っていたスマホと全く同じ機種・カラーリングにするか、もしくは全然違うやつにしてしまうか。

 この悩みをわかりやすく(?)例えるなら、ようは「清楚系の彼女と別れたあと、また同じようなタイプと付き合うか思い切ってギャルに手を出すか」みたいなことだ。どちらを取ったとしても、「元カノへの未練ありきで選んだ」という後ろめたさが発生してしまう。それって相手の女性に対して不誠実だと思うし、自分の中にもモヤモヤが残る。誰も幸せになれない。

 あるいは、『鉄腕アトム』の天馬博士になぞらえてみてもいいかもしれない。

 亡き息子・トビオのコピーとしてアトムを造り出した天馬博士だったが、結局は「姿形は同じでもトビオとアトムは別物」であるという現実に直面し、絶望してしまう。

 なくしたスマホと全く同じ色・形でも、それは僕がずっと使っていたスマホとは別物でしかない。

 博士がアトムを愛せなかったように、僕も新しいスマホを受け入れることができないのではないかという不安があったのだ。

 こんなことを考えてしまうのは、道具への思い入れが強すぎるからか。思えば昔から、遊ばなくなったおもちゃなどを処分するのが苦手だった。おそらく、幼少期に観た『トイ・ストーリー』が原体験として脳裏に強く焼き付いているせいだろう。



 ソファーに身を沈めてそんなことを考えているうちに、店員がやってきた。


苦労はつづく

 結論から述べると、スマホは先代とは違うやつにした。

 そもそも、前に使ってたのと同じやつ(iPhone12 mini)は店頭に在庫がなかったのだ。

 なので、黒いiPhone13 miniを買った。

 理由はふたつ。

  • 値段が比較的安い。他のやつは10万以上する。

  • 14以降のモデルはminiが存在しない。デカくても持て余すし、ちっちゃいほうがかわいい。

 カラーリングを黒にしたのも、在庫が黒と白しかなかったからだ。

 購入のさい、店員から「なくしたスマホのローンがあと16回残っている」という残酷な事実を告げられたが、ようやくスマホなし生活から解放されるという安堵感のほうがスレスレでダメージを上回った。

 手続きとかプランとかはよくわからないので、店員に言われるがまま契約をすませる。

 電話番号は前のやつを引き継ぐことができたので、LINEの連絡先は消えずにすんだ。これまでのやりとりの記録は残らなかったが、なに、思い出はまた作っていけばいいさ。

「本体代金が実質値下げになる」という店員の助言により、android端末を1円で追加購入(なんかそういうキャンペーンをやってたらしい)。ついでに画面に塗るコーティング剤も買った・・・・・・が、両方ともその日のうちになくした。昨日の今日すぎて探す気もおきなかった。


 その後は、前に入れていたアプリを思い出してひとつずつダウンロードしなおしたり、


ソシャゲのデータを復旧するために奔走した。

 壁紙を先代と同じやつにしたり、

フリッパーズのシングルジャケット。8cmだとスマホの画面にほぼジャストフィットする。


 以前のものと似た形のケースを買って以前と同じステッカーを貼った。

ついさっき、この文章を書きながら撮った写真。何度か床に落としているのでケースはすでにバキバキ、ステッカーもフチがボロボロ。


 このようにして順調に“染め上げ”ていき、現在に至る。

 新しいスマホとの生活にもすっかり慣れてしまった。なんだか、さんざん葛藤したりしてたのが馬鹿みたいだ。まったく、人の心というものは都合のいいようにできているのだなぁ。


 その後も先述のとおり何度かスマホをなくしそうになったりはしたが、決定的な別れはまだまだ先になりそうだ。

 そんな僕はいま部屋の鍵をなくし、常時無施錠で生活している。僕が電車に乗りながらスマホでこの文章を書いているあいだも自宅のドアは開いているのだ。

 まぁ、スマホと財布さえ持ち歩いてりゃ部屋にはたいしたもんないので(洗濯機と冷蔵庫ぐらい)、別に侵入されたところであまりダメージはない。


今の僕だから伝えたいこと

 この文章も7000文字を超えたことだし、そろそろ風呂敷を畳もう。

 この記事をとおして僕がみんなに伝えたいことを箇条書きにして締めたいと思う。以下のまとめを肝に銘じて、みんなは俺みたいにならずに生きてほしい。

  1. Apple IDは必ず控えておくこと

  2. 契約のときはオプション料金をケチらずにちゃんと補償をつけること

  3. フリーWi-Fiが使える場所を普段から探しておくこと。いつでもレンタルWi-Fiが借りられるとは限らない

  4. なんならもう、いっそ首からぶらさげとくぐらいでもいい

 お兄さんとの約束だぞ。


ボーナストラック

 ここから先は、スマホをなくしていたあいだの僕のツイートを時系列順に貼り付けておく(ときどき解説付き)。あとから振り返ってまとめた本文とはまた味わいが異なる、ナマの感情が保存されていると思う。

結局、スマホがあったところでパソコンのメールは使えないことが後に判明する。理由は不明。
神奈川県警にたいする不信感は初期の頃から見られる。

 子供の頃から、「神奈川県警はほぼヤクザみたいなもんだから」とハマっ子の母から教えられていた。

Twitterの行末について、このときはまだいくらか楽観的だった。まさか名前まで変わるとはみんな思ってなかっただろう。

 当時はちょうどAPI制限がTwitterユーザーのあいだで波紋を呼んでいた。夜になるとツイートが見られなくなっていたのも今となっては懐かしい。


 ややこしくなるので本文では触れなかったが、じつはスマホをなくしているあいだ同時並行で財布もスられていた。

しかも、よりによって歌舞伎町で。

 警察への不信感がすごい。

ウソでした。
noteの記事もパソコンで更新していた。

 よりによって財布をなくしているときに通帳が磁気不良で使えなくなる。電車の切符とかはクレジットカードでは買えないのでものすごく不便だった。


 2023年のTwitterを代表するムーブメントのひとつ。これも僕はパソコンから眺めていた。


 財布はおよそ1週間後に発見された。このときはスマホ生還にも希望が見えたかに思われた。

自転車を盗まれた知り合いにクソリプを投げつけるぐらいには心が荒んでいた。
掌返し

 このへんから徐々に焦り始める。

 このころはとにかくイライラしていた。

高校を出て以来キーボードで文章を書くことがほとんどなかったので、ただでさえ拙かった僕のタイピング技術はかなり後退していた。
文章がこうなっちゃうのがイヤだった。


厳密には、スマホがないことと僕のパソコンでメールが見られないことの間に因果関係はない。僕のパソコンがポンコツなだけだろう。

神奈川県警への怨嗟がピークに達する。

けっこうドライな店員さんなのだ。
この記事のことだね。

 一連の出来事をまともに振り返れるようになるまでだいぶ時間がかかってしまった。


 こうして読み返してみると、ずいぶん饒舌にツイートしているな。


追記

 部屋の鍵は見つかった。ずっとカバンの中にあった。なくすのがいやなので物置に封印した。

 僕の部屋のドアはまだ無施錠のままだ。

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