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嘘つき不動産

最近、NHKでヒットしたドラマで、山ピーが主演の「正直不動産」というのがあった。
番組の公式サイトの説明には、

登坂不動産の営業マン・永瀬財地、“嘘(うそ)もいとわない”やり手の営業マン。ある日ほこらを壊し、たたりで嘘がつけない体に。果たして正直すぎる不動産屋となった永瀬は生き残れるのか!?

とある。とにかく不動産業界の人間の言うことは嘘が多いということに皮肉を込めて作られたドラマらしい。そして、この話は僕が経験した嘘にまみれた嘘つき不動産とのやり取りである。

東京テレビサービス(仮名)をやめて、北海道苫小牧市にある地元紙のT民報への転職が決まった僕。

まずは住むところを決めなくてはと物件サイトを眺めていた。
人は人生で平均3回の引越しを経験するそうである。1回目は進学、2回目は就職、3回目は結婚だそうだ。
そう考えると僕は今回の引越しでもう5回目か。(まだ結婚もしていないのに、、)

僕の父も仕事の都合で経験した引越しは数多い。(たぶん20回ぐらい、、)。 父の父つまり僕の祖父も国鉄の駅員をしていたので、新潟中を2〜3年おきに移動していたそうだ。
どうやら、僕は北方の遊牧民のように常に移動し続けなくてはならない笹川家の遺伝子を受け継いでいるらしい。

話を苫小牧の物件探しに戻そう。サイトを見ていると苫小牧の物件の相場の安さに驚いた。
1Kだと家賃2万円台、2LDKでも3万円〜4万円で優良物件がゴロゴロ転がっているではないか。
その中でも、僕の目を引いたのはFアパートという物件だった。そこは2LDKで中もかなりキレイにリフォームされており、僕が働く予定の会社から歩いて15分の好立地である。
それでいて家賃は3万8千円という破格の安さ。もし仮に東京で同じ条件の物件を借りるとなれば、おそらく倍以上はするだろう。

その物件を取り扱っているA社に空きがあるか問い合わせてみると、すぐに担当者の石田さん(仮名)から返信があった。

「お問い合わせの物件は現在空きがあります。そこでなのですが、今後のやりとりはLINEでできればお願いいたします。」

(LINEでやりとり? なんか最近話題のSNS詐欺みたいで怪しいな、、)とは思ったが石田さんとLINEを交換した僕。
すると頼んでもいないのに、すぐにその物件の動画が送られてきた。

他にも2,3件の物件を問い合わせたが、それもすぐに動画を撮ってきて送ってくれるのである。さらに、「一階が車庫の物件は寒いからやめた方がいい」とか、「昨日行ってきた物件は笹川さんの会社から遠い気がした」とか色々アドバイスもくれるので、僕もすっかり石田さんを信用し、手続きその他をこのA社にお任せしようと決めた。

それから2週間ほど経った。
内定先の会社に挨拶に行くことになったので、そのついでに目をつけていたFアパートとその他の物件を見て回ることにしたのである。このことをA社の石田さんに伝えると、車で駅まで迎えにきてくれるという。

7月某日。東京から飛行機、電車と乗り継いで苫小牧駅に着いた僕。
駅の改札を出ると、石田さんらしき車が停まっていた。運転席の男性は窓を開けて

「ササガワさんかね?待ってたよー」

と随分フレンドリーである。
石田さんは俳優の甲本雅裕に似ていた。甲本雅裕を知らない人は映画perfect daysを観てください。ラーメン屋の店主役ででてます。
ブーンと車を発進させると彼は出し抜けに、

「ところでさ、ササガワさんの転職先ってミンポウかい?」

と聞いてきた

「そうです、、なんで分かったんですか?」

「いやー送ってくれた住所みたらさ、ミンポウのとこだもん。ミンポウって言ったら地元じゃ有名だよー ササガワさんすごいんだねー」

ありがとうございます。別にそんなにすごくありません。
その日は事前に問い合わせていた物件も含めて3件案内してもらった。
実は同じような条件でKアパートというのもあり、そこにしようかとも迷っていたのだが、
Kアパートは最近近所トラブルで1人が退去し、もう一部屋も退去する予定らしいのだ。

「ササガワさん、ここはやめときましょ。トラブルも大変だし、海近いと寒いんだよー」

と言ってくるので僕はFアパートに決断した。

不動産でもろもろの手続きを済ませ、初期費用の見積もりを出してくれた。

どこか値引きしてもらえそうなところはないかな?と探してみる。(火災保険が少し高いな、ネットで加入したらもっと安く入れるのに)と思い

「この火災保険は自分で別なのに加入したらダメなんですか?」  と聞いてみた

「それ管理会社の指定なんだわ。自分で入ったら安くできるんだけどねぇー」 
と向こうもこっちの考えはお見通しのようである。そして続けて、

「あと仲介手数料安くしてあげたいんだけどさ、それやると会社にバレちゃうから僕の口座に初期費用振り込んでよ。あとはうまくやっとくから」

ん?なんか急に雲行きが怪しくなってきた。これまでに経験したことのない大雨が降りそうな感じだ。
それに安くしてくれるといってもわずか3000円である。なにか裏がある気がする、、
(そして、この予感は的中する)


それから2週間後。
管理会社から審査に通ったとの連絡がきた。ちなみに管理会社の立場は大家さんの代理である。ダメでもともとと思いつつ、諦めきれない僕はまた聞いてみる。

「この火災保険は自分で選んだ安いのにしたらダメなんですか?」

すると

「そこは初期費用無料キャンペーン中なので、火災保険を自分で選ぶと笹川ささんの負担になりますよ」

(どういうことだ? 最初から火災保険も清掃代も保証料も払う必要がなかったということなのか?)
そう相手に聞くと、

「そうです。笹川さんの初期費用の負担はゼロです。」

(えー!やっぱり石田さん僕を騙してたんだ!)

「でも不動産会社が作成してくれた、見積もりにはしっかり、火災保険とか諸々の初期費用書いてありますけど、」

「それはおかしいですね、、私からそこの不動産屋に確認してみますね」

と電話でのやりとりを終えた。

その数分後、

ピロン♪とLINEの着信が
例の不動産屋の石田さんからだ

「管理会社から連絡が入りました。
そこで火災保険料なのですが大家さんが払ってくれるとのことです(初回だけ)。すいません確認不足でした。それ以外は見積もり通りとなります。改めて正式な見積もりを近日中にメールします。」

すぐに石田さんから電話もかかってきて

「あー、ごめんごめん。火災保険は大家さんが払ってくれるらしいんだわ。僕もこの件、初耳でさぁーいやー良かったねぇー」

良かったねじゃねーよ!!

「そうみたいですね。管理会社から聞きました。でもタダになるのは火災保険だけですか?他の初期費用も大家さんが負担してくれるって管理会社から聞きましたけど、」

「あーそれね、なんかそれは別の物件だったみたいだわ。タダになるのは火災保険だけだね」

(うーん、この人まだ嘘つくつもりなのか、でも流石にここまで嘘つく人もヤバくないか、
だって僕が確認すればすぐわかる話なのに、、管理会社に確認するよ、確認しちゃうけどいいのね!)

わかりました!とバカのフリをして電話を切る。そしてすぐに管理会社に連絡。

「不動産の人がこんなこと言ってますけど、合ってますか?」

「えー?それ本当に不動産屋が言ったんですか? 向こうが言ってるの嘘ですよ、ちょっとまた向こうに電話してみますね」

するとまた数分後に、
ピロン♪とLINEの着信があり

「何度もすいません。
よく分からないので改めて管理会社に確認したら先程、笹川さんが言ったとおり火災保険料、清掃料、初回保証料も大家さんが負担してくれるみたいです。何やらキャンペーン中だったらしく私も知らなかったです。
申し訳ございませんでした。初期費用がかなり安く入れますね。良かったです。」

良かったですじゃねーよ!!!!
ここまで開き直れる面の皮の厚さにむしろ尊敬すら感じる。日常的に嘘をつき慣れてる常習犯に違いない。ちなみに両親の故郷の新潟では「嘘つき」のことを「テンポこき」という。例えば、

「おら、この前不動産屋いって家さ借りようと思ったろも、そこの担当者がばーか(すごい)テンポこきらったんだわー」

「あらまーあ! どぉーーいんだてーー」(新潟弁は言葉を伸ば伸ばすほどネイティブに聞こえます)

なんて使い方をする。それはさておき、このままこの嘘つき不動産にやられっぱなしも悔しいので僕も反撃を試みた。仲介手数料をタダにしてもららおうと考えたのである。
そして、以下のメールを送った。

石田さんにはお世話になったので、こういうことは失礼かと思いますが、今回の初期費用のゴタゴタで少しだけ御社への不信感もあり、今別な不動産会社の仲介を検討しています。

試しに他社さんに同物件のお見積りをお願いしたところ仲介手数料は半額でいいよとのことでした。
もし、石田さんの方でも仲介手数料をそのぐらいにしていただけるなら、色々よくしていただいた会社さんなので、石田さんに引き続きお願いしようかと思っていますが、いかがでしょうか?ご検討よろしくお願いいたします。

他社に見積もりをお願いしているというのはハッタリで、実際にはしていない。
これを読んだ石田さんは、「まずい!せっかく来てくれたカモが逃げてしまう!よし仲介手数料はタダにしよう」という展開になると思っていた。しかし、予想外の返事が返ってきたのだ。

そうですよね。不信感ありますよね
大変申し訳ございませんでした。
仲介手数料云々よりも当社及び私にご不満を抱かれてるようですので他社様で仲介をお願いしていただいて下さい。
それは当然のことと思います。
この度は本当に申し訳ございませんでした。


あれ?引き留めないの?仲介手数料タダにしてくれたら許してあげるよ。
そう思ったが向こうにはもう未練はないようだ。しかし仲介してくれる不動産会社がいなければ契約することができない。今から新しい不動産会社を探すのも厳しかろう。困った僕は管理会社に相談した。

「これこれこういう事情で、新しく仲介してくれる会社ないですかね?」

「それならこちらで仲介手数料も無料で対応してくれるところ紹介しますよ」

なんと!!最初から管理会社に相談すればよかった。これで嘘つき不動産が出した最初の見積もりより10万近く安くなった!
そして、この後嘘つき不動産に正式なキャンセル申込みをLINEで送った。

「正式にキャンセルします。キャンセル手続きお願いします」

「はいそうします」とだけ返事があった。

嘘つき不動産に告ぐ
これ以上人を騙したら、T民報で記事にするぞ!

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笹川アキオ
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