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認知症の人と入院環境

高齢者の身体機能の低下は
生活上で様々な障害をもたらします。

ここで注目してほしいのは
物理的環境

この物理的環境とは何か?
音、光、温度、匂いなどです。

入院すると、個別性がなくなった環境で
同じ色のベッド
全室同じ色のカーテン
同じ入り口が画一的に並ぶ廊下
大部屋で各ベッドのカーテンを閉め切ると、
どこが入り口なのか、わからない

音は聞き慣れないモニター音や、ナースコール
忙しない足音や、機械音、人の話し声

生活する上で、線引きしている排泄の匂いが強くしたり、薬品の匂いが鼻につく方もいることでしょう。

温度調整も、体調不良の場合、人に委ねることしかできず、調整も難しくなります。

光も、自由にはならず決められた時間にしかつかない電気、決められた時間にしか消えない照明
その人の視力や、差明感とは関係なく。
照度も調節は出来にくい状況です。

こと、昨今のCOVID-19 の流行で
認知症の人には安心材料になる
「なじみのもの・人」とは疎遠な状況になり
患者さんには生活しにくい場所となっています。

患者さんは、時として、自分よりも周りの人への配慮を重んじ、見えないのに夜中に電気をつけたら悪いから…、朝早くに悪いから…などの理由で
転倒されることもあります。

すみ慣れた我が家ならば
電気をつけていようと、朝早くから物音を出そうと、気にすることはないのですが、入院となるとそうはいきません。

環境はなぜ重要なのか
🟰環境のように、お互いに影響し合います。

私たちも、
少し外の空気を吸えば気分が晴れる
好きな匂いを嗅げばすぐに眠れる…などといったように、環境から受ける身体的影響も
大きいです。


認知症の人は
  環境の変化に弱い?

これは、研修をする上で、よく受ける質問です。

答えはYESです。

認知症の人は、この物理的環境に大きく左右されます。画一的な環境では、自分の居場所や現状認識ができないことがあります。
主に、この様な方は、記憶障害が強い方に多く見られますが、アルツハイマー型認知症のように
空間認知に問題がある方にも影響します。

また、失行や失認がある場合
ベッドの上で歯磨きは出来ない方が、
洗面所に行き、鏡を見たら自分で行えた、
はたまた、口に溜め込んでうがい用の水を飲み込んでしまう方も、すんなりと、うがいができた…
などのケースも多く見ます。

普段の生活にはないナースコールも認知症の人には意識することができず、看護師の頭を悩ませる要因の一つではないでしょうか。

私達看護師は、
ナースコールを鳴らせない人🟰危ない人
と考えますが、物理的環境を整えることで、
この問題も少し解決に近づきます。

身体機能が高く、一人で歩ける方であれば
場所がわからずに迷ってしまうからという理由で押してもらうナースコールも、
一人でトイレから部屋まで帰ることが出来るように環境を整える…という様に
少し考え方を変えれば、要らないかもしれません。

簡単な例を一つご紹介します。
入院時から、部屋とトイレのの行き来で
他の部屋に入り込んでしまい、付き添いでトイレに行かれていた方ですが、付き添いに強いストレスを感じているかたです。

部屋とトイレの間をビニールテープで印をつけている

この方は、このテープのみで部屋とトイレの行き来が一人で行える様になりました。

数日経つと、テープを剥がしても問題なく迷わずに部屋に戻れます。

この様に、認知症の人でも環境に慣れることはできます。これはスタッフの思いやりから生まれたケアであり、「排泄を待たせないで一人で行ってもらうには?」から生まれた方法な訳です。
いちいちトイレのたびに、看護師がついてくるストレス、勝手にトイレに行かないでください…とナースコールを押せないことを咎められるストレス…こういった不安にもつながるケアではなく、なるべく自分でセルフケアを満たすための環境設定は重要です。

もう一つ、ここでお話ししておきたいのは
音についてです。

騒音は、皆さんにとっては、どの様な音でしょうか。私は、ゲラゲラとした甲高い笑い声が苦手です。人の足音は気になりませんし、機械の音がしても、仮眠ではすぐに眠れます。

しかし、入院している患者さんからすると、人の足音がいや、モニター音がして眠れない…などのお話はよくあることです。
この様に、騒音は、人によって捉え方がちがうという事を覚えておいてください。

こと、この騒音。
認知症の人にとっての騒音は、
行動心理症状につながることがわかっています。
ベットサイドでモニター音が絶え間なくなっている場合、後としては、何dBぐらいあるか、測定されたことはありますか?

私が測定器を使った結果、
60〜80dBはあります。

この60〜80dBとは、どの程度の音なのか。

なんと、洗濯機や、掃除機がそばでなっているのと同じぐらいだということがわかります。
せん妄やBPSDをおこしたいるかたが、
この音を聞いて
「誰か来てるから…玄関に行かなくちゃ」
「ほら、電話だよ」などと、幻覚や幻聴につながるケースも少なくありませんし、
何よりも、不眠につながります。

全身状態の管理上、必要な事は、入院生活では重視され、この物理的な環境への配慮は二の次になっていくわけです。

アラーム設定をこまめに見直し、なるべくギリギリの所で観察をする…、疾患によっては症状出現時や訪室時に計測する…
このぐらいしか私には具体策は浮かびませんが、
長期に漫然と音をさせておかない…という事にも尽力できるかもしれません。

この人の中核症状が何か、それがどの様な障害を引き起こすのか…をまずはアセスメントし、
その人に必要な環境整備をチームで考える事。

認知症の人の不安をなるべく軽減することが、
自分達のケアを、スムーズにすることにもつながっていくのです。

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