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オキナグサ:秋吉台の花

万葉集の巻十四の読み人知らずの東歌に「芝付乃 御宇良佐伎奈流 根都古具佐 安比見受安良婆 安礼古非米夜母(芝付の三浦崎なる根っ子草相見ずあらば我れ恋ひめやも)」とあり、この根都古具佐(ねつこ草、ねっこ草)はオキナグサだという説があります。
ただ、少なくとも現在の三浦半島では絶滅しています。

漢方薬として古くは1~2世紀に後漢で編纂された神農本草経に「白頭翁(ハクトウオウ)」と見えるのですが「鶏卵ほどの実がなる」などと記述が怪しくなります。平安中期の格式(法の施行規則)である延喜式にも「白頭公(ヲキナグサ)」と出てきます。
中国のヒロハオキナグサの場合は乾燥した根が効用として消炎・収斂・止血・止瀉薬に用いられます。

台上では稀な大株

オキナグサはキンポウゲ科の多年草で秋吉台ではソメイヨシノの開花時期に咲きます。
台上は貧栄養土壌なので多くの株は精々2輪咲きです。
全体にビロードのような産毛で覆われ、赤紫の大きめな花は山焼き後の枯れ色の台上では稀有な存在です。
開花期間は1週間ほどと短く、台上の日当たりが良い場所に点在します。
盛夏にはススキに覆われる秋吉台では南向きの限られた遊歩道脇で開花するので踏まれないように石で囲ってあります。
遊歩道以外でも開花しますが株数がそもそも少ない(絶滅危惧Ⅱ類)ので見つければ運がよいレベルです。

花を見るかぎり、爺呼ばわりは失礼ですが花が終わるとタンポポの綿毛を思わせる白く長い毛の生えた痩果で白髭の翁の姿に変わり「オキナグサ」の名の通りになります。
面白い花なのですが古い和歌にはほとんど現れないし、季節を誤って詠まれるのは実際にこの花を見た人があまりいなかったからかもしれません。
神農本草経の「鶏卵ほどの実がなる」というのも現物ではなく痩果の図を見て思い込んだものかもしれません。

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