「ぼくと彼の夏休み(11)」

  それから1時間ほどして、祐人も目を覚ました。今度こそ、ちゃんと。
「フミ、おはよう……」
「うん、2回目のおはよう!」
 祐人はまだ眠そうな目をこすりながら、大きなあくびをしている。普段、仕事のある日はかなり早朝から働いているのに、休日ともなるとこんな感じなんだな。
「とりあえず、シャワーでも浴びて来たら?」
「そうする……」
 祐人はよろよろと、部屋を出て行った。ぼくは足音を立てないようにそっと、食堂へ向かう。
 さすがはトウコさん。お酒を飲んでても、抜かりはない。リビングルームは散らかったままだけど、お料理だけはしっかり片づけられている。冷蔵庫の保存容器に入ったいくつかの惣菜をお皿に盛り、トーストを焼いた。ミルクをふたつのグラスに注ぎ、トウコさんお手製のマーマレードも。それらを銀色の大きなお盆に載せたら、やっぱり足音を立てないようそっと自室に戻る。
 シャワーから戻った祐人は、自分の部屋ではなくぼくの部屋で髪を乾かしていた。
「朝ごはん!」
 祐人は髪を乾かすのもそこそこに、サイドテーブルの朝食に飛びついた。
「昨日の残りものを適当に見つくろって来たから、食べよう。」
 言うが早いか、もう惣菜をつついている。あれだけ飲んで食べたというのに、ダンスは全部を消化させてしまったらしい。ぼくも祐人も、すっかりお腹を空かせていた。用意した朝食は、ふたりであっという間に平らげた。
「今日はお休み…なんだよね?」
ぼくは祐人にたずねた。
「じいちゃんも今日は1日寝て過ごすと思うし……俺は散歩がてら、すこしだけ見回りに行くけど、休む時は休めって逆にじいちゃんに叱られるんだよね。」
「じゃあ、一緒に遊ぼう。」
祐人は「もちろん!」と叫ぶように言うと、ぼくの髪をくしゃくしゃっとかき回した。ぼくも負けずに祐人をベッドの上に押し倒す。「やったなぁー」と祐人が応戦したので、しばらくふたりで押し合いへし合いして転がり回った。
「楽しいなあ、フミと居ると!」
 祐人と、全く同じことを考えていた。それをまっすぐ言葉にできる祐人がうらやましい。でも、彼といるとそれでもいいような気がする。言葉じゃないところで、お互いがつながれているような感覚がある。こんな友情は、ぼくにとっても初めてだ。
 触れている身体から、祐人の体温が伝わってくる。ぼくは心底安心して、彼の腕の中に居る。そんな時間がしばらく続いた。それは一瞬のような気もしたし、永遠のような気もした。時間の感覚すら麻痺している。もう、気恥ずかしさもない。このままずっとこうして居られたら、どんなにいいだろうか。

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