IMW「火の道」見てきました(ネタバレ有り感想)
はじめに
インディアンムービーウィーク「火の道/原題:Agneepath(アグニーパト)」を見てきました。
東京国際映画祭で2012年に上映された作品で、日本での一般公開はなし。今回は日本語のDVDも存在なし。
ここからネタバレ含む感想
つい1時間前に見終わったばかりですが。
壮絶な復讐譚でした。
小さな島の学校で教師をしている父が、島の権力者の反感を買い、邪魔者とされていた。権力者の息子カーンチャーが島に戻ってきたタイミングで、父は罠にはめられ、殺される。
これが権力者から闇討ちされるとかでなく、島の少女を殺した罪をなすりつけられ、弁明の余地なく、数十分後には首をくくられて気に吊るされるんですよ。悪役の非道は当然ながら、島の人間がついさっきまで教育者として尊敬していた人間を、状況証拠だけで犯人と信じ切って、全員が殺せと言い放つ。本当に胸糞悪い展開でした。日々、島の為に尽くしてきた恩師に対し、何故、一旦とらえて閉じ込めるとかでなく、その場で絞首刑にするのか。
閉鎖空間の陰鬱な村社会。
その教師を見せしめにすることで、権力者の息子は一気に支持を集め(※半ば暴力で逆らえない状況を見せつけ)この島を牛耳ることに。
一方、その妻と子供(主人公ヴィジャイ)は、家に火を放たれるがなんとか逃げ切って、父親の殺される現場を目の当たりに。
やがて二人は島を去り(この状況で殺されなかっただけでも救い……なのか?いや充分に非道なんだが)、ムンバイへ。
行く当てもなく街中を彷徨う内に、産気づく主人公の母親。その場にいた住民たちが赤ちゃんを取り上げ、彼らはそこへ住み着く。
ムンバイでは(※東京国際映画祭のあらすじでは、ボンベイとあるが、日本語字幕がムンバイになっていたので、ムンバイとしておく)マフィアのボス・ラーラーが辺りを牛耳っていた。
少年ヴィジャイは、ラーラーが少女の人身売買の場に訪ねてきたカーンチャーとは敵対関係にあることを知り、ラーラーの一派としての道を歩み始める。
簡単にいうと、ラーラーを利用してムンバイでのしあがり、最終的にカーンチャーに取引を持ち掛けて接近するという話なんですが、ラーラーのところでのしあがるまでの時間が長くて、肝心のカーンチャーとの対決は、割と最後の方にちょっとだけでした。あれれ?
踏み台とはいえ、ラーラーを親父として約15年間傍にいたから、多少の情は映ったのか、彼の息子をはめたり、最終的に自分の妹に手を出してきたラーラー自身を止める時も、すぐには殺さないで、割ともたもたしている印象。
ムンバイのマフィア一掃を考えている警察の副総監?も少年の頃からのヴィジャイを知っていて、彼が何を目標にのし上がってきているのか気にしている様子。
ヴィジャイと母がムンバイに辿り着いて、最初に助けてくれた母娘がいて、その娘カーリーが成長して、ヒロインポジション。それを演じているのが、プリヤンカー・チョープラー。度々名前は見るも、出演作をちゃんとまともに見たのは今回が初めて。凄い可愛いし、下町の芯の強い娘さん感が凄くいい!
ヴィジャイの妹と一緒に笑い合っているシーンは微笑ましいし、ヴィジャイがほぼ親子の縁を切られている状況で、母との対面シーンの際に傍に寄り添って、でも余計なことは言わないでちゃんと見守っているところも良かった。(インドの映画のヒロイン、たまに余計な事しかしないパターンもあるから、今回のヒロインはしっかり者で出しゃばり過ぎないし好印象だった)
復讐を誓っている主人公だから、彼女がなんど気持ちをちらつかせても結婚はしないと決めていて、彼女もそれを理解しているという関係性がいい。
最終的に、カーンチャーの元へ乗り込む前に、覚悟を決めたヴィジャイがカーリーとの結婚を決意するんだけど。でもそのその結婚を祝う街中に、敵の急襲が……。
いや、普通にこれ予想できましたね。だってそれまで妹や母の存在がばれたり、度々いろんな目にあっているんだから、結婚式だけ敵が何もしてこない保証はないわけで。
完全にヴィジャイの危機感のなさの結果だと思ってしまったんですが。
それによって、街の人も結構殺されてしまったし、何よりカーリーが……。
結婚の前のシーンで、カーンチャーと顔合わせのため、一度ヴィジャイが島に戻ってくる(建前としては「ムンバイからやってくる」なんだけど)ところで、カーンチャーが彼のために歓迎の宴をするところで、特別出演として踊り子としてカトリーナ・カイフが出演。急に出てきて、誰?と思っちゃった。完全なるゲスト出演ですわ。
彼女が踊っている曲、聞き覚えがあるなと思ったら、ブラフマーストラでアーリヤ・バットが踊っていて、更にいうとその元ネタが今回の火の道のカトリーナ・カイフのこの曲だと。ふぅ、やっとつながった……。
※余談ですが、この映画の後に同じ映画館でマサラ上映される「バンバン!」が、リティク・ローシャンとカトリーナ・カイフの映画なんで、これはもう狙っての連続上映ですよね。
(自分はそのチケット争奪戦に参加も出来ず、鑑賞は見送りました……)
結婚式を襲撃されたヴィジャイ。この時点で、自分の母親と妹の心配をするシーンが無いのが気になったんだけど(というか、カーリーとの結婚決める時点でも、一旦は母と妹のことを思い出せよというツッコミを内心していた)。
カーンチャーへの反撃として、島のあちこちを爆破し、彼の気付かぬうちに忍び込んでいたヴィジャイ。
カーンチャーとの一騎打ち。
いやいや、どうみてもカーンチャーみたいな大男との対決で丸腰っておかしくないかい?爆破仕掛ける余裕があったら、敵の本拠地に乗り込む時に武器は持てるだけ持っていくのが王道でしょうに。
ヴィジャイ、もうちょっと考えてくれ。
案の定、パワーで負けて殴られ、隣の部屋には囚われた母と妹が。
ほらほら、予想通り過ぎて泣けてきた。
母と妹の前でめった刺しに。
そして父親と同じ様に、島の小高い丘の上の木へと引きずられていくヴィジャイ。いやもうこれ、主人公の微塵も勝ち目がないんですけど。
母と妹の目の前で絞首刑寸前の状態に。
村人たちは集まっているが、母親の「誰か助けて」の声に、誰も反応せず、ヴィジャイだけが「父を見殺しにした人たちに助けを求めるな」と正論すぎた。
どうやって終わるのと心配していたら、父親が吊るされた気を見て、当時を思い出して奮起するという……。
え、今までさんざんボコられて、立ち上がることも出来なかったのに無理がないか。
どう考えても死にかけている状態で、カーンチャーを重量挙げのように持ち上げたり、首に縄をつけた彼を気に吊るすってのは無理があるんだけど、まぁそこは映画なので?最後は復讐と果たして、母の胸で息を引き取る……。
母が頑なにヴィジャイの暴力を認めなかったのは、やはり夫が教師だったからなんだろうな、と。それでも最後にカーンチャーに復讐を成し遂げた彼に、もう何も言わなかったのは彼女なりの息子への精一杯の意思表示だったかと。
ようやく復讐を成し遂げた良かったね……というよりも、もうちょっと入念に準備してから、周りの人達を犠牲にしないでくれという気持ちに若干モヤモヤしてしまったものの、最後の最後で一番可哀想だったのは、やはり教師だった父親だよな……と。
島から逃れた時点で、ひっそりと母子で暮らすことも出来たはずなのにと思うとやり切れないが、それはまぁ物語がなりたたなくなるので。
ちなみに、90年代?にアミターブ・バッチャンが演じた元の映画は、当時としては観客動員数はふるわなかったものの、役者としては評価されたという記事を見ました。
どこまで元作品に忠実なリメイクだったのか、見比べたいものです。
↑映画祭での上映の際に、監督さんが来日されている?みたいですね。
この記事によると、バッチャンジーの元映画の方だとヴィジャイは復讐まで35年かかっている(?!)らしいので、先人ヴィジャイはだいぶ長く苦労しているな……と。
ちょっとツッコミどころはあったものの、復讐劇の映画、しっかり堪能しました。