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62号:行動規範

≣ はじめに

ASTERセミナー標準テキスト」の44~47ページについてです。

キャッチイメージにあるようにJSTQBのサイトにある「行動規範」ページを読めばよいスライドです。

全部で、700文字程度です。アナウンサーは、1分間に300~350文字のスピードでニュース原稿を読むといいますので、2~3分程度で読める量です。「当たり前のことしか書いてないから」と言わず、一度は読んでみることをお勧めします。

もっとも、今回のnoteでは全文引用していますので、これを読んだらOKです。


≣ 行動規範の目的

JSTQBの「行動規範」ページの先頭に下記の記載があります。

ソフトウェアテストに関与することで、重要な機密情報を知る場合がある。特に、このような情報が不適切に使用されないようにするために行動規範が必要になる。
ISTQBでは、ACM および IEEE が制定したエンジニアのための行動規範を基に以下の行動規範を示す。

行動規範が必要な理由として「機密情報を知る場合がある」ことが書かれています。機密情報を知ったときにどういう行動をとるべきなのか、その行動の基準となる原理・原則がまとまったものが「行動規範」です。(読むとそれだけではないのですが)

大きく一言で言うなら、「ISTQBで、認証されたテスト技術者は、いわゆる「真・善・美」という普遍的な価値観に則った行動をしましょう、具体的にはこういうことですよ」ということが書いてあるのだと思っています。

・ 真:学問や知性として正しいこと
・ 善:道徳的に正しいこと
・ 美:芸術や感性の理想の姿

だれでも、「真・善・美」の反対である「偽物、悪者、醜い者」にはなりたくないですよね。
※ なお「真・善・美」のなかで、最も重要なものと言われているのは「真」です。


≣ 行動規範

以下、ISTQB(JSTQB)が定めたテスト担当者、テストマネージャーの行動規範を一つずつ見ていきます。

公人 - 認定されたソフトウェアテスト担当者は、常に公人として行動しなければならない。

こちら、「公人」(こうじん)の説明がないので、分かりにくい気がしています。公人は、「社会を構成する立場を意識した個人」といった意味です。これでも、「社会を構成する立場を意識」ってどういうこと? と思うかもしれません。「社会全体の利益を考えること」です。「公益」とかそういうものです。
ちなみに「原文」は、“PUBLIC - Certified software testers shall act consistently with the public interest.”なので、“public person (=public figure:公人)”とは書いていないんですよね。意味的にはそういうことだからいいけど。
※ ”public interest”は、公益(公共の利益)の意味です。


顧客と雇用主 - 認定されたソフトウェアテスト担当者は、常に公人として行動しつつ、顧客や雇用主に最大限の利益をもたらさなければならない。

これ、会社が不正をしているときには、どうしたらいいの? という問いにストレートに答えていないんですよね。ちょっとズルい感じがします。
現実的には、「公共の利益と一致する方法」が「雇用主の利益と一致するはず」という信念に基づいて行動するしかないのですが。

プロダクト - 認定されたソフトウェアテスト担当者による成果物(自身がテストしたプロダクトやシステムに関するもの) は、プロフェッショナルとして高いレベルのものでなければならない。

state of the art”という言葉があります。日本語にすれば、「ある時点における最高の科学技術水準」でしょうか。
製造物責任法(いわゆるPL法)においては、”state of the art”(その時点のベストの知見)を持ってしても製品の欠陥を認識できなかった場合は免責となると規定されています。大事な点なので、繰り返しますが、「その時の最高の科学技術を使っても失敗したものに責任はない」ということです。
逆に言うと、この行動指針のように、「プロフェッショナルとして高いレベルのものでなければならない」となります。
※ こちらの原文は“PRODUCT - Certified software testers shall ensure that the deliverables they provide (on the products and systems they test) meet the highest professional standards possible.”です。
“the highest”ですから、厳密には「最も高いレベル」ですね。“state of the art”を実現できるように日々研鑽し行動しなさいとのことです。


判断 - 認定されたソフトウェアテスト担当者によるプロフェッショナルとしての判断は、誠実なものであり、かつ自身でなしたものでなければならない。

ちょっと意訳しすぎかなあ? 原文は、“JUDGMENT - Certified software testers shall maintain integrity and independence in their professional judgment.”ですので、「判断 - 認定されたソフトウェアテスト担当者は、自身の専門的な判断に対して、完全性と独立性を維持する必要があります」かもしれません。

マネジメント - 認定されたソフトウェアテストマネージャおよびリーダは、ソフトウェアテストのマネジメントに対する倫理的なアプローチに同意した上で、これを推進しなければならない。

マネジメントが行動規範に則った行動をメンバーが実現する鍵ですよね。現実問題として、高い倫理感を持たないマネージャーの下ではメンバーは行動規範に則った行動ができないものです。

専門職としての地位 - 認定されたソフトウェアテスト担当者は、公共の利益に寄与することで、専門職としての地位向上に努めなければならない。

「専門職としての地位」は、「PROFESSION」の訳でした。「地位向上」というか、「プロフェッションとしての矜持」というか。
ここでは自分たちはプロフェッションであるという自覚をもってくださいということだと思います。
※ プロフェッションという自覚とは、「高度な専門性を持ち、社会全体の利益のために尽くすとともに、高い倫理感・自己規律が求められる職業に従事しているという自覚」のことです。

同僚 - 認定されたソフトウェアテスト担当者は、同僚に対し公正かつ協力的でなければならず、ソフトウェア開発者と協調しなければならない。

こちらは訳のとおりで、「みんなで協力して頑張ろう」ということです。


自身 - 認定されたソフトウェアテスト担当者は、生涯その専門性を磨くための学習を続けるとともに、実践の場でも倫理的なアプローチを広めなければならない。

生涯に渡る自己研鑽と高い倫理性が実践の場で期待されるということです。


≣ 終わりに

今回は、「当たり前」でつまらなかったと思います。新しく知ったこともないし、お説教っぽくて途中から斜め読みしながら「終わりに」を読んでいる人が多いのではないでしょうか。試験にも出そうにないですし(出たらごめんなさい)。
でも、そもそも「行動規範」はそういうものですし、そうでなければいけないような当たり前の行動を確認するようなものです。
にもかかわらず、「行動規範の目的」に「ISTQBでは、ACM および IEEE が制定したエンジニアのための行動規範を基に……(略)」と書いてあるように、コンピュータ科学分野の国際学会であるACMや、電気・情報工学分野の学会であり、かつ、技術標準化機関規格や標準を作る組織のIEEEも行動規範を制定していることに注意しましょう。

つまり、科学技術を扱う人間に行動規範(倫理性)が重要と言う共通認識がある(実は今、大注目されている)ということです。

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