第225回: JaSST nanoの裏話
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≡ はじめに
前回は、「CEGTestツールの使い方」の後編で、CEGTestツールを使用して原因結果グラフをつくるまでの操作の説明でした。今週は、先週に引き続き、原因結果グラフの制約の話を書く予定だったのですが、急にJaSST nanoに出ることが決まり、登壇(Zoomだけど)したので、今回は箸休め回として、その話を書きます。
≡ JaSST nanoについて
JaSST nanoは、JaSSTというソフトウェアテストのイベントの小さいバージョンで、オンラインで開催しているLT大会のようなものです。
私も、2022/12/20のJaSST nano vol.19の「【JaSST20周年企画】10周年から20周年へ~JaSSTをふりかえる」という枠で発表者の一人として参加したことがあり、その様子は前にnoteに書きました。
このように、JaSST nanoは「気軽に話したい人が話したいだけ話す会」なので、発表者が多いときも少ないときもあります。
今月は、23回目だったのですが、初の、前日の朝まで応募者ゼロという状況でした。実は過去も応募者が集まらないことがあったのですが、そういうときには、お世話係のにしさんが発表されていました。
ところが今回は、ちょうどICSTというテストカンファレンスと重なって、にしさんは海外に行って不在でした。
さらにISTQBのGAとも重なっていて、湯本さんなどもポーランドに行っていて不在でした。
前々日の2023/4/16に参加応募がないという情報がTwitterに流れました。そこには、「前日の昼まで待っても発表者が現れなかったら中止」と書いてありました。
『さすがに、今回のJaSST nanoは中止かな?』と思っていたところ、リナさんが、
とツイートをされました。
さすがリナさん、(JaSST担当)理事の鑑だと思い、
とノンキなツイートをしていたら、
とお声がけをいただき、何かしゃべることになりました。ハプニングってやつです。その時の気持ちを後にツイートしたものがこちらです。
≡ なにを話せば……
上記のリナさんのツイートが投稿されたのは、午後0:24 · 2023年4月17日のことでした。それに対して「プログラム1つしかないのが寂しいということでしたら、何か話します」とリプライしたのは、10分後の、午後0:34 · 2023年4月17日のこと。
さて、何か話すとリプライはしたものの、なにを話そう?って思いました。で思いついたのが「なぜなぜ分析」でした。JaSST nanoにエントリーして発表することに決まりました。
以下はその時のツイートです。
togetterの「失敗した社員に「なぜなぜ分析」を繰り返すと最終的にメンタルを壊してフィニッシュしてしまう」が気になっていたからです。
単純に「私の知り合いが「なぜなぜ分析」でメンタルを壊すのは嫌だ。」って思いました。togetterでは多くの人が、なぜなぜ分析の悪い点に同意していたのです。
ところが、「なぜなぜ分析で、人格を攻撃してはだめ」とか「しくみの問題に帰着させるべき」といったツイートはあるものの、【じゃあどうしたらいいの?】についての個人的な意見は見当たらず(キーエンスの記事はありましたが、そこで書かれていることへの意見は無いような……。)、このままでは「なぜなぜ分析は止めろ」って結論かなぁと残念に思っていたのです。
そこで不遜にも「本当のなぜなぜ分析をおしえるの」という上から目線のタイトルで話すことにしました。
でも、仕事は休めないし、業務時間中に資料をつくるわけにはいかないし、時間は30時間しか残っていないし、、、。
ということで、既存の資料のチョイ替えで乗り切る、スピーチ原稿は作らない(こっちはいつものことだけど)と決めました。だから発表資料と動画の公開は無しとしました。社内承認取る時間もありませんし。
≡ どんな内容か
発表資料と動画は非公開ですが、話の流れは当日の朝にツイートしています。
「安心」って書いているのは、朝の時点ですっごく「不安」だったのだと思います。以下では、もう少し詳しく書いてみます。
■ サイコパスが使うと凶器になる
自分がサイコパスの思考をするかどうかを診断する心理テストはネットに山ほどあります。
それで「サイコパスがなぜなぜ分析を使うと凶器になる」というのは、togetterでみんなが言っていた「人格攻撃をする」に対する回答です。
人格攻撃をしてはいけないということくらいは社会人なら誰でも知っていることです。それでもなぜなぜ分析では、みんながいる目の前で人格攻撃をし始める人がいます。それは、そういうメカニズムがあるからと話しました。
そのメカニズムは、以前も書いた「不正のトライアングル」です。
「動機」は、忙しいのに、なぜなぜ分析に呼ばれて「ムシャクシャしてた」のかもしれないし、サイコパスなら人格攻撃そのものが快感なのかもしれません。
「機会」は、【しくじって落ち込んで元気がない、弱っていて反撃してこない人】が目の前にいる状況のことです。サイコパスにとっては、絶好の?チャンス到来です。
「正当化」ですが、機会とも似ていますが、「失敗を責めているのではなく、教育だ」と正当化したり、「だって、”なぜ”と問い詰める手法でしょ?」と正当化しやすいということです。
このように「なぜなぜ分析では不正のトライアングルが成立しやすい」ということを知っていることが大切です。知っていれば、
不正には、「動機」「機会」「正当化」の3つの条件がそろった時に発生しやすい
という性質から、3つのうち1つでも無くなれば発生しなくなることがわかるからです。
例えば、ミーティングを始まる前に「まずは、技術の原因を掘り下げます。技術以外のことはいったん頭から外しましょう。“なぜこの問題は起こった”と思いますか?」と聞くことで“人の問題を指摘すること”の正当化を無効にすることができるかもしれません。
■ なぜなぜ分析は何をしたいのか
不正のトライアングル理論により、構造的に人格攻撃を誘発しやすいという欠点があるにも関わらず、「なぜなぜ分析」がなくならないのは、優秀な原因分析の手法だからだと思います。
その例としてJaSST nanoでは「水たまりで転んだ」事故防止の話をしました。キャッチイメージです。
きたのしろくまさんがまとめをツイートしてくださっているので、それを載せます。
ちなみに、「真因: 技術面の原因: パッキンの劣化」、「根本原因: 管理面の原因: パッキンを交換する標準がなかった」です。
■ 「JIS Q 9026」を用いた仕組みの問題の深掘り
JaSST nanoでは、真因を先に見つけて、そのあと、「JIS Q 9026」の「標準に基づく原因追及フロー」を使おうという話をしました。「しくみの問題に帰着させるべき」というtogetterにあった意見への回答です。
こちらについて、きたのしろくまさんと興味深いやり取りをしましたので、興味のある方は、以下のツイートを追ってください。
≡ 垂直/水平分析
JaSST nanoでは、最後に、垂直/水平分析とロジックツリーについて話しました。
ロジックツリーは"Whyツリー"でググれば、やまほど情報があります。JaSST nanoでは、「ダイエットの失敗」の原因追及の例で話しました。
「“食事を減らしたことが原因で太る”というのは、なぜなぜ分析では見つけにくいものです」と。
垂直/水平分析はこちらの本がお勧めです。
垂直/水平分析の方法だけなら上の表紙にある「その原因を1つあげてください」(垂直方向に掘り下げるときの質問)と、「その原因が解決できると、この問題はすべて解決できますか?」(水平方向にスコープを広げるときの質問」の2つをだけです。
「なぜ?」という聞き方ではないですし、解決が容易な原因になるまで、つまり、「裏返したら対策になるまで」問題を分解するので、終わった時には対策が見えているという良さがあるので私はよく使っています。一緒に分析する人の納得度も高いです。
≡ おわりに
今回は、箸休め回でした。内容はJaSST nanoの補足でした。なぜなぜ分析は単純な方法ですが奥が深いです。
まずは、誰か他人の失敗をなぜなぜ分析するのではなく、自分が抱えている問題を自分の中でなぜなぜ分析(垂直/水平分析を頭の中ではなく、書き出してみる)をすると練習になるので良いです。
それから、単に私の経験の範囲の話なのですが、“ハプニングがあったら乗ってみる”といいと思います。
あと、JaSST nanoはとても良いイベントなので、「未参加の人はまずは参加者として」、「参加されたことがある方は発表者として」、「会を支援したい人はお世話係として」どんどんチャレンジしてみたら良い刺激となると思います。
え? 「リナさんのセッションはどうだったのか??」ですって??
私は、通勤時間の関係で、終わりの20分くらいしか聴けていないけれど、Miroという(付箋をみんなで、ペタペタ貼ったりできる)Webサービスを使って、リナさんがそれを「そうだよねー。わかるよー」とか「ねえ、ちょっと待って、この付箋はスルーできないなあ」というように優しい声で読み上げるスタイルで、参加者が積極的に参加され、時間を共有していて、最高でした。
詳しくは本人のブログでご確認ください。
正直にいって、『今回のJaSST nanoはリナさんのセッションを続けて終わるほうがいいんじゃないかな?』って、自分のセッションを始めるのが怖くなりました。
最後に、お世話係のみなさん、いつもありがとうございます。今回も、19:15頃に遅れて入ったのに速やかに、Zoomの発表者権限にしてくださって、ずっとチェックしてくださっている人がいらっしゃるのだろうなあと頭が下がりました。また、司会のきんちゃんや、実況ツイートの安達さんも大変なことを引き受けてくださっていると思い感謝しています。
さて、次回は、「ソフトウェアテストしようぜ」の連載に戻ります。原因結果グラフの制約についてです。
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