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無人古本屋の次なる挑戦、IT思考で組み立てた“シェアする本屋”(前編)|空き家ゲートウェイ

吉祥寺駅にほど近いビルの地下。個人が集まって小さな本屋の本棚をシェアする「ブックマンション」という本屋が開店しました。運営するのは、かつてIT企業に勤めながら「BOOK ROAD」という無人古本屋を三鷹に作った中西功さん。「日本列島、本屋さん増大計画」をかかげ、誰でも開店・運営しやすい仕組みの本屋さんを作るための実験場として取り組んだのが“本屋のシェア”でした。

もともと洋食屋だった空きビルを改装し、「ブックマンション」を含む地下1階~地上3階を複合施設「バツヨンビル」として生まれ変わらせた中西さん。まずは、この新しい本屋の取り組みについて話を聞きました。

※以前YADOKARIで取材した中西功さんの無人本屋
人と本の交流を考えたら”無人”になった。古本屋「BOOK ROAD」の小商い

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「バツヨンビル」の外観

「ブックマンション」の仕組みは単純明快。本屋をやってみたい人が集まり、棚をシェアして共同で本屋をやるというものです。この仕組みを作るため、中西さんは今年6月にクラウドファンディングのReadyforで支援者を集めました。その結果、328人から約570万円の調達に成功しました。

支援のリターンの一つとして「本棚の貸し出し」を用意し、実際に77人もの人びとが本棚(合計78棚)を借りることになりました。番号のふられた棚を借りるので、その名も「ブックマンション」。棚の位置に不公平が生じないよう、棚は2カ月ごとに入れ替えるそうです。現在はオープン直後なので中西さんが店番をしていますが、今後は棚の借り手にも2カ月に1回程度は店番をしてもらう予定だといいます。

ちなみに、1棚あたりの値段は月額3850円。飲み会1回程度の金額で、本屋さんが開けるのです。本が1冊売れるごとに手数料として100円を中西さんに支払う仕組みですが、その背景には「質の高い本を売ってほしい」という中西さんの思いがあります。古本屋といえば1冊50円、100円という本もよくありますが、この店では、それだと利益が出ません。きちんと高い値段をつけられる本を置いてほしいというのが中西さんの狙いです。

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クラウドファンディングで支援した人々が借りる棚。まだ本の搬入がされていない棚や売れて隙間が空いた棚も。

売れて隙間の空いた棚はそれぞれの借り手が補充する仕組みで、1週間ごとに中西さんが棚の全景を写真に撮ってみんなに共有し、自由に補充してもらうことになっています。中西さんは、「誰でもできる仕組みの本屋さんにするために、あえて難しいオペレーションは省きました。地方の方が借りられている場合、本が送られてきたりもしますが、みんな売れゆきが気になるのか、お店を訪れてくれます」と説明します。

棚を見渡すと、ジャンルもテーマも本当にさまざま。「うしろすがた」という斬新なテーマで選書された棚(定期的にテーマは変わる予定)や、歴史書ばかりを集めた棚、自身の著書やZINEを売る棚など、個性豊かな古本が並びます。既存の本屋さんには絶対に真似できないキュレーション力。お客さんに混じって本屋や図書館に関わる人、ディベロッパー関係の人なんかもこの本棚を見たくてここを訪れるそうです。

中西さんに、この本屋で実現したかったことを聞くと、ずばり「コミュニティ形成のためのフォーマット作り」だと教えてくれました。「ここは、本好きな人のための場所というよりも、コミュニティスペースです。本屋をやるにも、本や本の流通に詳しい店主が一人でやるのではなく、何十人かが集まってやることで、それぞれの専門分野にファンがつくスモールコミュニティがいくつも生まれます。複数でやることで、立ち上げ時のリスクも減りますし、何より既存の本屋では絶対にできないようなラインアップが生まれるのです」。

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「ブックマンション」を考案した中西功さん

中西さんが「ブックマンション」を作るきっかけになったのは、「つくし文具店」の店主の萩原修さんと出会ったことでした。2012年に「シェアの未来」というイベントで萩原さんの話を聞いて、「シェア棚」やお店での「日直制」などのアイデアを知ったといいます。本屋という形でこれらを掛け合わせて、誰もが真似できるコミュニティの“フォーマット”を作りたい。それが「ブックマンション」の始まりでした。また、共同で運営する本屋さんとしてすでに活動していた大阪の「みつばち古書部」や東京の「BOOKSHOP TRAVELLER」の店主には事前に連絡をして「この素晴らしい仕組みを広げる役目をしたいです」と伝えたといいます。

だから、お店にはフォーマット化するための工夫がいくつもなされています。たとえば、売り上げ管理には、複雑なシステムを導入するのではなく、値段の書かれたスリットを作り、売れた分のスリットをまとめるという超アナログなやり方を採用。決済も現金のみとし、誰でもどこでも真似しやすい仕組みを作りました。中西さんが決めたのは「棚番号をスリットに書いてもらう」というルールだけ。ある程度の自由度を残しつつ、(棚を違う棚に戻してしまうなど)ミスが起こった際にも、トラブルにならない、フォーマットを準備したのです。今後、ここで取り組んだやり方を順次公開することで、誰かが本屋をやりたいと思った時の選択肢の一つとして確立していきたい、というのが中西さんの願いです。

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スリットに書かれた統一の棚番号

スモールコミュニティの良さは、何と言ってもお客さんとの距離感というか、親密度ではないでしょうか。通りがかる人が偶然訪れてファンになるケースももちろんありますが、それぞれの棚にファンがついて、口コミでファンが広がったり、お店に来た人が他の棚に興味を持ってファン層が広がるなど、地道ながらも手触り感のあるファン醸成ができることは、こうした小さなコミュニティのメリットです。ファンがついた本棚は独立しやすい、という点からも、これは“フォーマット化”しやすいビジネスモデルであることがわかります。

「有名な方が来て大きなイベントを開催するような形ではなく、駆け出しの方や10人程度の方が興味を持ちそうなニッチなテーマの小規模なイベントをいくつも開催する。そんな場所でありたいと思います。『トビラ書店』という物語の1冊目だけを集めた本棚があるのですが、まさに本屋とはいろんな世界の入り口を知るためのもの。ここで出合った興味ある世界と継続的な関係を築けるような、そんなスモールコミュニティをたくさん作っていきたいと思います」。

100均物件マッチングサイト「空き家ゲートウェイ」

2030年、2000万戸の空き家に光を。「手放したい人」が物件情報を提供し、「使いたい人」に情報を届ける。価値がないと諦めている物件に新たな価値創造を。100均物件マッチングサイト「空き家ゲートウェイ」|YADOKARI×カリアゲJAPAN 全国の空き家情報募集中!


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