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『春とみどり』を読んだ

深海紺さんの漫画。全3巻。

あらすじ。
みどりは31歳のOL。人付き合いの苦手なみどりは、会社で誰とも話さない日すらある。家にもなかなか帰らない彼女のもとに、お母さんから連絡がくる。それは中学時代の友人が亡くなったという知らせだった。
亡くなった彼女は、みどりにとって、何よりも大切な人だった。
彼女のお葬式に出たみどりは、彼女と最後に会った時の姿にそっくりの少女春子と出会う。春子は彼女ーつぐみーの一人娘だった。
父親を知らない春子は、このままだと施設に行くことになると聞いたみどりは思わず春子をひきとることを宣言する。
人との付き合いが苦手なみどりと、母親を失ったばかりの少女春子の不思議な関係性を描く物語。


そもそもの、みどりとつぐみの関係が物凄く私には掴まれるものがあった。
今でこそ「人見知りです」というと「嘘でしょ~」と言われるくらいになったけれど、それは働いてるモードを手に入れたからです。
仕事でもないとき、私はいまだに挙動不審なことをしてしまいます。
人見知りというよりも、チャンネルを完全に外していることがある、というのかもしれない。
そんな私は、学生のころ、変な人で通っていた。ひねくれ者とも言われていたと思う。何を考えているのかわからない人で通っていたけれど、一応誰とでも話はした。してただけで、友達と言える人は一人しかいなかった。

いつかの記事に書いた、大好きな女の子だ。
彼女も変わっていると言われていて、変り者同士仲がいいのだと言われていた。まあその通りではあったのだと思う。
でも私が見る彼女は、とても繊細で、モノを理解したくていつまでも考えている、そのうえで私の考えも聞いてくれる人だった。
考えが違えば「そうかそうか」と言い合い、だからどうとも決着をつけなかった。お互いに、あなたはそう考えるのね、と分かり合える人だった。
私は、彼女が好きだった。
恋愛的な?と考えるくらい好きだった。
一時は本当にそうなのかもな、と思っていた。
でも今二人の時間を思い返す時、これは恋愛ではないな、と思い直す。
私は、彼女が本当に、ただただ好きなのだ。
一緒に生きていきたかった人だ。
友人として、家族のように、一番大切な人としてそばにいてほしかったのだと分かった。
私は夫に対して強烈に魅かれたことがない。嫉妬もしたことがない。
もし別れようと言われたら、正直ほっとすると思う。
子供が二人いなければ、一緒にずっといようと努力もしなかっただろう。
私は恋愛が必要ではない人間なんだと思う。
でも、彼女のことは欲しかったのだ。
彼女の特別になりたかった。
一番という言葉の虚しさを今は知っているけれど、その張りぼてが欲しかった。
いっしょにいるために関係に名前が必要ならば、それを築きたかった。
ただ、そう思いながらも一歩を踏み出すことができず、彼女とは没交渉となっている。
あの時私が、私の気持ちを伝えていれば、今の状況は違ったのかもしれない。分からないけれど。
そんな人が学生時代にいた私にしたら、みどりのつぐみへの劣等感もとても共感できた。
特別な彼女の、私は特別ではない。
そんな卑屈な想いが、とても懐かしかった。

みどりとつぐみの関係性を描きながら、漫画の中心はみどりと、つぐみの娘の春子の関係の構築過程を描いている。
姿がつぐみにそっくりな春子に、つぐみを重ねてしまったり、自分以外のために一歩を踏み出そうと動きだしたり、互いの関係性に頭を悩ませながらも、ふたりだけの大切な時間を積み上げていく。その時間に特別なことはあまり起こらない。でも、みどりが春子を通してつぐみのことを理解していったり、春子がみどりを通してつぐみとの思い出を蘇らせたり、他の誰とも作り得ない時間を重ねていく。それがとても好きだった。

全体的にやさしい絵柄で、表紙の所為もあるのだけれど、漫画を読んでいる間ずっと柔らかな桜色が空気に溶けていて、読み終わった今も視界に残っている気がする。とてもあたたかな印象が後をひく。

ふたりのこれからに、きっとつぐみも含まれて、どたばたと楽しい毎日が待っているのだと感じるラストだった。




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