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「深度」から「テーブル」の解説のような

詩の解説のような、
です。


私には唐突に、
世界の色が一変する瞬間が訪れます。
それはあまりに唐突で、
目が回りそうになるほどです。
けれどいつでもその時は世界に口付けをしたいくらい愛おしいのです。

視界がまた変わったことを知る
空の色の落ち方
電車の照り返し
犬の腹の温み
私の視界をうたい恵むものが明るくいった
それは深度を変えたのです、と

「深度」


私の詩は、
切れば血が流れるものであってほしいと願っています。
これが私の詩であってほしい。
そう願う詩です。

うつくしい詩には 血が通う
うつくしい詩には 水晶の山が湧き
うつくしい詩には 名の無い花が咲く

私の詩をくぐっていきますか
あなたの天国をくださいますか
うつくしい詩には あなたの名を下さい

「うつくしい詩」


詩は、書くことは、私にとって世界との邂逅であり、
愛撫です。
そして書く以上、
私は書く対象を愛するでしょう。
人と関わって生きていくために、
私は詩を書くでしょう、という詩です。

ひとを愛するために 詩は必要だ
世界とつながるために詩は必要だ
ことばの向こうで繋ぎ合うもののための詩だ
あなたを弔うために詩は必要だ
あなたがここに欲しくて欲しくて熟れる肉を救うために
詩は ただ死をふせがず
見守りに賛とも言わず
けれど取り残しもしない
詩は私に必要だ
命の音はここに刻んだ
一音一音が私の私へのいつかの鎮魂の羽となるだろう

「詩だ」


私の中で、
過去は確かに今を生かせるために必要な現実です。
例えそれがどうしようもない苦痛を招こうと関係が無いのです。
それを叶え続けるためには、
詩を書き続けるしかないのです。

どうしてだろう
目の前は真っ暗で
これからのなかからは
もう何一つ大切なものは無く
苦しみが私を待ち焦がれている
その一心を信頼してしまう自分が
頭をでこぼこにして
私を一方的に大騒ぎの中へ迷いこませる
誰を信じても同じ鉄で首を落とされる
それを知って乱痴気の中踊れと言う
私が
私を空から遠ざける
だから
どうか
詩を開いて
ここにまだ手は届くと分からせて
どうか
こんな私にほんとうを握らせてほしいのです

「ほんとう」


うつくしい山を描きたかった詩です。

白い山には白い雲が深くかかり
流れる清流には結晶が混じる
うつくしさは恭しく目を削り
あたらしい光で満たすのです

「白い山」


やさしい秋の日を詠いました。

こぼれてしまう
こぼれてしまう、と手を捧げ
ふいと顔を背けられる

嬉々としたお喋り
散っていく季節で
戸惑いは無粋に払われる

鮮やかに黄色を焦がせ
心ごと溶かす陽に
捲れこむ腕はあれほどに細くとも

「ミモザ」


ささやかな雨が木を撫でていくやさしい様子。

濡れずにすめば木の虚に
葉は滴と共に零れ調べに
小さな羽は寄せ合わされいく
厚い皮は撫でられていく

「木と雨」

詩学舎の宿題で書いた詩です。
「あき」というお題で、
「秋」でも「飽きる」でも「開ける」などでもいい、
ということで、
生きることを飽きるまで生き切るという気持ちを詩にしました。

飽きていくことを
楽しんでいる

まどろみから
まどろみのとなりへ

光の橋が細まり
すぼまる先鋭へ

転がりこんでは
星とまつろい

未だ目を知らない目を
時に垣間見る

あいま 幕間 閉じ切らない
全ての間を駆け抜けて

たむろす煙を潜る
立ち向かい合う剣戦をくぐる

ぬかるみにもつれ
嵐に巻かれようと

手は振られた
足は前に出た

あぁ 飽きていくことを
楽しんでいる
最中の
あぁ ここが今だ

「飽きていくこと」


包み込む緑は、
清らかな流れのなかで育っていくという詩。

醒めないものが
崩れかけて
水に留めおかれる
青い心を灯すとも
あたたかく
頬を許す手が編み上がる
森のなかで

「森」


黄昏時のさみしさが、
過去を飛び出すほどの傲慢を願ってしまう、という詩です。

冷めてしまった紅茶を指先に
香りだけを逃がしてしまった

整えることはできましたが
この陽のさみしさが惜しむ

幾度の果てを負って
またこの背を抱いてくれたなら

「テーブル」


以上、10編の詩の解説のような、でした。

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