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「書かなければ死ぬ」から「知ること」までの詩の解説

はい、
溜めに溜めまくった詩の解説をまとめてしてしまおう、第二段です。


もう、
これはこのまま、その通り。
書く以外の価値はいらない。と思うくらい、書いて生き、書き終えて死にたい。
でもさすがになかなか読んであげられない本たちには、
申し訳なさを持っていたりもします。
それでもそばにいてくれる本に感謝する詩でもあります。


書かなければ死ぬと思う

こんなにも読むために
私が集めた本たちに
呆れられようと
私は書く合間でしか
読むことのできない
よろしくない読書家だと
みなが理解してくれたため
やはり書くほうを選び選び
本を途中で閉じるのです

静かすぎる唇に投げかけるものを淵に滲ませ
閉じた本は またひたと時の安らぎに
自己の痛みを放つのです

「書かなければ死ぬ」


私の中の、
終わりと始まりはひとセットで、
セットどころか螺旋のように巻きあがりながら良きように登ってうつくしいものにからめとられていくというような。
それを言葉にするとこうなる、という詩です。


誰も名を呼ばない
静まった地を踏む
足裏はひとつ
あなたの半分
わたしの爪先
あとは淡い透明の
先は先へといきたがり
光は遊べと端々を叩く

名前は意味を失われ
飛沫も変わりゆけぬ宙の空
追いつくことの速さを求めて
光は闇を灯す

あなたはわずかな瞳の欠片の色を残し
わたしは唇のひとつのしわの色を残した

どこまでもどこまでも枯れてゆけ
どこまでもどこまでも朽ちてゆけ
改まったところで芽吹く
新鮮な一刀を突き刺す

「たつまき」


捕食関係にあるんじゃないかな、本当は猫と人って。
なんて思って書き始めたけれど、
恋をしているひと、想われているひとでも言えるかしら、
他にはどんな関係で言えるかしら、
と色々シチュエーションを考えてしまった詩。
私自身も考えながら楽しく書いたことを覚えています。


名前を呼んでくれた
手を撫でてくれた
あたりまえに髪を洗い
古いタオルは水を良く吸った
もう会わないというくせに
ありったけのそこに愛を置いていく

本当は骨までしゃぶってやりたいんだ
細い腕ならすぐに終わりが来てしまいそう
だけど
指の一本を口に含んでいるうちに
すんと鼻は鳴るのだと思う

だからまた
撫でてくれた手を見送る
その手を受け入れる姿勢はとれず
我が物顔だけをたっぷりと
あなたの愛に受け渡す

「一夜」


春になりたての頃の詩。
(一日一詩だから季節がずれていくのです)
華やかさが歌いだす直前のそわそわしてしまう感じ、
春だ!と言えないけれど、
その前兆をそこかしこに見てしまう。
そういう気持ちの入った詩です。
花が湧く、というのは一番初めに放り込まれた言葉。


花が湧く
咲くために
咲くために
すきまを探り当てて
ひかりをきき分けて
花が湧き上がる

つよく

あたたかい拍手はない
とめどない平日
夕暮れ

うつくしくも派手さはない一点
花は湧く

沸き立ち
蕾は顔を上げる

さあ
咲け

「花」


私は髪の毛を伸ばしているのですが、
無意識に背中の方へ払ったり、
肩のあたりから片側に揃えたり、
髪の位置の意味を考えてしまうことがあります。
ふぁっと散らすように風がかき上げる髪も(邪魔だけど)好きです。
髪で何か書けないかなとペンが遊んだ詩なのです。


ぺしゃり、と髪をはらうのは
他の何かもいっしょに払っているの?

視線か
興味か
うつろいか

どれにしてもうつくしく
髪をはらう術を楽しむ

「髪をはらう」


空白のお味というのがあるのなら、
是非食して見たい。
でもお喋りの私の舌にはなかなか乗らないのではないかと、いう。
分からない、味わえないとなると、
夢想してしまうのが人間の業なのでしょうね。


押し黙る空白は
何の味?
私は食べたいわ

だけど口を大きくひらくと
それはそろりと上手に逃げる
私の大口からは歌が走り上がってきては

さいごの尻尾までも逃がしてしまう
あぁ 何の味
私にはない
言葉にはない
言葉に包まれて息を通す私には
その空白が

どこか寒々とそして苦み走って
激しく甘いのだと
思い入れてしまうのだ

「空白の味覚」


たとえ、大火に舐めら一瞬でその瑞々しさを失ったとしても、
花は、花として咲こうとしていくだろうと思ったことがきっかけで書きました。
「春」「花」で詩集をつくっていた頃だったので、
それには入れなかったけれど、
そう言った詩が多くなった時期でした。


燃え盛るのならば
咲きなさい

深く
深く
その黒く焦げていく先から
落とす細胞の死を払って

咲きなさい 必死のちからで
どうぞまさに 燃え上がる

いいや燃え上がらなくてはいけない花よ

咲き続けなさい
ただひとつ
ただ旅の最中を
真っ直ぐに

「はな」


この詩は、今までの詩と大分日にちのずれる詩でした。
あまり出来事を詩にはしないのですが、
この黒い子猫のあたたかさを残してあげたいような、
かわいかったことを覚えていてあげたいというエゴのような、
そんな気持ちで書き、
書く自分に迷い、
でもやっぱり書いて、
そしてその日にページをすっ飛ばして載せた詩でした。


黒い生キモノが好きだ

黒馬
真っ黒なデビルまで

黒猫が死んでいた
小さな頭はへたりと空気の抜けた風船
そこからちっちゃな目がこぼれていた
丸い白色
体はまだあたたかで
どうかもう少しだけ
この中で赤い血よ巡れと祈った

花色のハンカチで包み
ちっぽけなからだを撫でる
こんな車のいっぱい走ってるとこじゃなく
やさしい静けさに走っておいき
こんなコンクリの塊に伏さず
たっぷりとやわらかなところに

口の中でつぶやいた
隠した腹を撫でるあいだ

黒い子猫が死んでいた

「花色のハンカチ」


ゆれる、ということの魅力。
それをいっぱい書いて見よう。
と思った詩です。

でも楽しいことは、
魅力的なことは、
永遠に終わらなさそうなものこそが、
あっけなく終わる潔さを持っている。

ラストの一行が好きな詩です。


ゆらゆらゆれる
ゆうらり語る
ゆらゆらゆれて
ゆうらり舌を出し
ゆらゆらゆれた

ゆれをまわり
ゆれをかどわかし
ゆれをひろめて
ゆれの手をとる

語った口は尖らすかい?
それとも握った両手をつよめるかい?

ゆらゆらゆれる
ゆらめいてゆれうごいて
ゆれのなかでゆれをおこす

さまざまに研がれたゆれの爪先
避けながらじゃれてやる

ゆらゆらゆれる
ゆれるからには
とたんに止まる

「ゆれる」


理想の組み立てた果ての後悔の純粋さ、
綻びのやわらかさと、圧倒的な事実。
それに打ちのめされて、
根本を知る。
そういう詩です。


知らなかったの
あなた 弱っちくて
あなた やわらかくて
あなた すぐ赤くなる

知っていたら
あなたの手を引かなかった
あなたの背を押さなかった
ああたが夕暮に透明になって

私を失うなんて思いもしなかった
私が失ったと思ったなんて思いもしなかった

人魚みたいにしなやかで
鰭の描く波のしなやかな
クジラの皮膚くらいうつくしい色を守ると思っていたの

わたし知らなかったの
知らないことが知ることだと

「知ること」



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