「いつか君が恋をして」(ちいさなお話)
君が好きになったものは、全部覚えているんだ。
それは菫色の雲の棚引く時間。君が好きになった背の高い男の子は、眼鏡が似合っていて、焦げ茶色のベストをよく着ていた。あの公園のベンチは座る部分が木製で、雨が降るたびに弱くなっていくような時期があった。そんなベンチに座って、男の子は文庫本を広げていた。革のブックカバーは使い込まれていて、小さな金色のアルファベットが二つ、くっつけられていた。傾いた日がその金色に触れると、まるで音楽のような瞬きを生んだこと。君は、それを遠くから見つめ