角野隼斗×亀井聖矢2台ピアノ 千穐楽 (大阪) 29 Dec. 2022
東京公演があまりにも楽しかったから、終演後にもう一度行きたい!と強く思ったが、チケット完売。だが、ご縁に恵まれ、大阪に行けることになった。当日は帰省ラッシュの初日、2日前、新幹線の指定券予約は困難を極めたが、運良くEx予約サイトで空席を見つけ、当日朝に大阪に向かった(ヘッダーは自席から撮影)。
すみかめ千穐楽も最高だった!!
10日前の19日、東京公演の感想noteを書いたが、千穐楽も何か残したくなり、自分が後で振り返るための感想を書いた。大阪では撮影機材を見かけなかったので、一期一会の思い出を一部を残したい。今回は曲の感想が主で、いつもより短め。
注: チケットには「当日は収録のため(中略)カメラが入る可能性があります(後略)」と記載があったが、少なくともステージ上に撮影機材は無かった。他の場所にあったかは未確認。
前半
前半は角野さんが下手のピアノ、亀井さんが上手のピアノで演奏(以下敬称略)。前半について、雑駁にまとめるとファンファーレ(キャンディード序曲)後の3曲は(広義の)後期ロマン派音楽とそこからインスピレーションを得たような亀井作品を堪能するプログラムだった。
バーンスタイン (角野隼斗編曲): キャンディード序曲
2拍子の軽快なリズムに乗って次々と旋律が変わっていくのが特徴(私のイメージ)で、オケ、特に金管楽器の見せ場が多い曲という印象。だが、角野編曲版は2台のピアノだけで金管楽器部分までも奏でており、《どうやってその音を出しているの?》と不思議に思うくらい、多彩な音色をホール全体に響かせ、すみかめ劇場の幕開けに相応しい選曲、演奏だった。特筆したいのは亀井の対旋律がとても素敵だったこと。東京公演の時には、亀井ピアノが少し遠かったせいもあり、ちゃんと聴けなかった。
東京公演より、より迫力と勢いが増したように感じた。それは、私が座った席が角野のほぼ目の前の前方席(最前列ではない)で、ピアノの屋根下から降り注ぐような音がダイレクトに聞こえてきたことも影響しているだろう。
亀井聖矢作曲: 2台ピアノのための共奏曲
演奏前には、作曲者の亀井から曲の紹介があった。東京公演同様に「変な」を連発(謙遜)する亀井に対し、隣に立つ角野がニコニコしながら合いの手を入れていくやりとりが微笑ましく、観客一同マスクの中でクスクスしていたにちがいない。以下朧げな記憶を頼りに・・。
実際は楽しげなリズム→不協和音が混じったきれいな旋律→軽快→壮大なハーモニーでかっこいい。2人が息ぴったりにハモったり、数小節ごとに旋律の掛け合いみたいなことをし、ドラマティックな展開を見せる曲だった。東京公演ではラフマニノフ(口シア)とラヴェル(フランス)の音楽を融合したような印象を持ったが、亀井がレパートリーに持つベルクの不協和音の連続みたいなイメージも新たに抱いた。
ラヴェル: 水の戯れ (角野隼斗ソロ)
東京公演の時より、低弦の響きと高音の繊細な音色が織りなすハーモニーが美しく、その音のヴェールにずっと包まれていたいと思うほど絶品だった。屋根下から降り注ぐ場所(席)で聴いたから、水の煌めきも増していた気がする。
ラフマニノフ: 組曲 第2番 Op.17
素人ながら生意気を言うと、東京公演より2人の息のピッタリ感にゾクゾクした。キャンディード序曲を弾き終えた直後のMCで、亀井が「3公演を経て、我々、仕上がってきています」と自信を持って言っていたことを私自身も実感する瞬間があり(特に1楽章と4楽章)、2人がピタって決まった瞬間、私も身体が震えた。この曲では、亀井側のピアノの音もバランスよく聞こえるようになり、旋律を弾くのが交互に変わっていくのも楽しめた。2楽章のワルツでの優雅な響き、3楽章のロマンスの美しすぎるハーモニーにも酔いしれた。
後半
後半のテーマは、また雑なまとめをすると、クラシックとジャズとラテンの融合であり、副題は、燃え盛る炎(のように踊る男たち)だったのではないか。
舞台の男たちはピアノ弾きながら足でリズムを刻み(時に打ち鳴らし)、身体が踊っていた。かつてフラメンコに身も心も投じていた私も一緒に燃えずにいられなかった。ハレオ(注: フラメンコで、アーティストたちを激励し、舞台を盛り上げるための掛け声)をかけたくなるほどだった。
【脱線(個人的経験)】
若かりし頃、NY→墨→キューバと放浪の旅に出て、ハバナ(キューバの首都)のカテドラルでのカウントダウン・パーティーで夜を明かした。0時までは食事をし、クラシック音楽やバレエなどを鑑賞し、大人しく過ごすのだが、0時を過ぎた途端、ステージも客席もボーダーがなくなり、色々なダンスミュージックが演奏されたり、流れたりし、サルサとか、老若男女皆踊りに興じる。その0時を過ぎてからのハバナの夜を彷彿させたのが、すみかめ後半プログラムだ。さらに、私はかつて(7, 8年間)フラメンコ(舞踊と鑑賞の両方)にハマり、南スペイン(主にセビージャ)に毎年通っていた時期があり、私の身体には刺青の如くフラメンコ音楽が刻まれている。
話を戻し、後半の感想。
マルケス (亀井編曲): ダンソン第2番
ラテンなリズム(正確にはキューバ発祥のダンス・ミュージックであるDanzon)と哀愁漂う旋律の掛け算が心に刺さる、最高に私好みの音楽。以下は亀井ツイートで東京公演前日に共有された。マルケスは1950年生まれのメキシコ人、まだ存命。
東京公演の後、あらゆる音源を聴き漁り、鼻歌で歌えるほどまでに旋律が身体に入った状態だった。BBC Promsのグスターボ・ドゥダメル(ベネズエラ人の指揮者、1981年生)による演奏が気に入った↓
すみかめは、原曲のピアノパートはもちろん、クラリネットやVn.の旋律、パーカッションパートの一部(ギロとかクラベス、ティンパニや小太鼓など; 楽器ついてはこちらを参照)も表現していたと思われ、躍動感に溢れていた。細かい転調を繰り返すところにも魅了された。
私の席からは、角野が全身でリズムを取っている姿がパーカッション担当のように揺れて見え、ショパンな髪型が乱れるのもお構いなしなノリ方に惹き込まれるやら、笑みも溢れてくるやら。。私自身も踊り出したくなるほど、自分の中のラテンの血が騒いだ。亀井も足でリズムを刻んでいて、私の席からは彼の靴音も微かに聞こえてきて、兄貴の影響?と思わず笑ってしまった。彼も彼でマリアカナレス、クライバーン、ロンティボーを経て、異国の地でラテンなノリを体得してきたのかもしれない。
フラメンコをやっていた私には、靴の踵や爪先で音を鳴らす行為は音楽表現の一つとして理解できる(フラメンコシューズの踵と爪先には釘が無数に打ってあり、踊る際にはこれらで細かくリズムを刻む)。
大阪公演前に予習の一環で(無料で)閲覧できた楽譜(サンプルだから、ところどころ見えない)の冒頭のテンポはDanzon(曲名のまま笑)と入っており、途中、Con fuocoが出てきて、意味を調べてみると「炎のように」とあった!2人が炎のように熱くなっていた時は、Con fuocoに忠実だったのだ。
亀井編曲とあるが、角野も少なくとも自分のパートをさらに編曲したのではないか。或いはリハと本番を重ねるたびにほとばしるアイディアを即興的に、自由自在に入れていたのではないかと思わずにいられないほど、グルーブ感あり、かてぃんテイスト満載だった。
バラキエフ: イスラメイ (亀井聖矢ソロ)
これは"コーカサス地方の"民族舞曲らしい。超絶技巧だらけの超超超難曲のはずなのに、亀井はクールな表情で複雑怪奇に思えるパートも軽やかに弾いているように見え、その姿に貫禄さえ感じた。下手のピアノで弾いてくれたから、踊る左腕の美しい動きにもうっとり魅入った。
圧巻の演奏を終えた亀井がお辞儀をするなか、舞台袖から角野が拍手しながら現れた。すごい盛り上げてくれましたね。もうこれでプログラムが終わりのような盛り上がり方ですが、まだあと2曲残っていますから・・・みたいなMCをして、亀井のイスラメイを大絶賛。
角野隼斗作曲: エル・フエゴ (El fuego)
次に亀井が角野に作曲の背景を聞いた。東京公演の時のように、角野は、4月にバルセロナを訪れ、そこから着想を得てスペインをイメージした曲を作りたくなった話をし、曲のタイトルの意味はスペイン語で炎だと語った。亀井は、カッコいい曲、両方の見せ場(良さと言ってたかもしれない)もあって、聴きやすい曲、5分くらいで、と。亀井の優等生的な補足に角野は照れ笑い。2人のMCは、ほのぼのとしていて場が和む。以下、愛知公演前にチラッと。
El fuegoが、後半プログラムの副題「燃え盛る炎(のように踊る男たち)」のクライマックスだった。El fuegoの旋律はノスタルジックな感じ、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番2楽章のフレーズのオマージュもさりげなく入っていた。ジプシー・フラメンコ独特の土臭さより、スペインの現代音楽っぽい洒落た雰囲気を感じつつ、男たちが交互に自らの見せ場を披露していくところでは、炎が燃え盛り、バイラオーレ(フラメンコの男性舞踊家)のほとばしる汗とテクニック(アドリブ)の応酬を観てるみたいで興奮した。そこには今の私が欲していたリズムと旋律とグルーブ感があった。
終演後、余韻に浸るなか思いだしたのは、2020年春、PlaywithCateen企画の一環で角野が徳永兄弟(フラメンコギタリスト)とリモートでセッションした時の演奏。フラメンコ独特の12拍子の曲に一発でカッコよく合わせていて、徳永兄弟もびっくりしていた。その動画をYouTubeで探してみたが、今は見つからず。。
亀井聖矢(角野隼斗編曲): パガニーニの主題による変奏曲
2人はいったん立ち上がってお辞儀をしたが、高揚感に包まれるなか、パガ変を弾き始めた。東京公演と比べると、主旋律の担当が微妙に変わっていたようで、新たな展開に期待が高まっていった。(多分)第6のコラール風でホールの熱気が少し沈静、美しい和声が全身に降り注がれ、至福の時間。それも束の間で、その後の展開、角野ソロがフォルテッシモの大迫力で奏でられ、アレンジが激しくて舞台に炎が再燃。と思ったら、自然なつなぎで、亀井がラフマニノフの第18変奏をソロでやさしく美しく奏でていく流れで癒された。そこから亀井がリストのピアノ協奏曲第1番の冒頭(亀井がクリスマスイヴにツイートしたパート)を挟んできて、最後、2人で激情を爆発させたみたいに弾き終えた。その姿はピアニストというよりダンサーみたいだった。あまりの圧巻のパフォーマンスに私は動けず、ただただ拍手を送った。落ち着きを取り戻して、前方席から周囲を見た範囲では誰もスタオベしていない。これは皆、圧倒されて放心状態になっていたのだと。あー、凄かった。炎が燃え盛るダンサブルな後半プログラム、本当に熱かった!大阪まで来てよかった。
En Coreとお話し
鳴り止まない拍手に応えて、角野だけ登場して、一曲弾きますというジェスチャーを。しばらく鍵盤を見つめ、弾く曲を少し考えているようでもあり、静かに始まったのが、ロンドンデリーの歌からダニーボーイ。自分自身を振り返っているような表情、やさしい音色が心に沁みた。以下のPriviaでは途中フォルテッシモで盛り上がっているが、大阪では深夜のメゾンスミノ的な静かなトーンだったかと。
ダニーボーイを弾き終えた角野に拍手を送りながら亀井が登場し、ソロでラ・カンパネラを。角野は上手の舞台袖に消えた(が、立って静かに聴いている姿が見えた笑)。亀井の高音トリル部分で角野は静かに登場、上手のピアノへ。東京公演の時のような笑いは起こらず、観客の多くは展開を熟知しているかのようだった。三度上をハモって(よみぃさんとのナイトオブナイツの2台ピアノを彷彿)、それはそれは壮大なハーモニーを響かせてくれ、圧倒された。最後は百聞は一見にしかず、なので、以下ツイートで振り返りたい。亀井が打ち明けてくれた素敵なエピソードにも胸が熱くなった。
ここで2台ピアノツアーが楽しかったこと、終わってしまうのが寂しいこと、2年越しで叶った有観客のコンサートの開催が嬉しかったことなどが、2人から語られた。
突如、亀井がお知らせをさせて下さいと切り出した(以下、記憶違いもあるかもしれないが、少し再現)。観客の笑いや拍手の反応は略。
楽しかったツアーが終演。
私はシンフォニーホールには、1月の角野全国ツアー、9月のショパンコンチェルト、今回の2台ピアノ千穐楽と3回も遠征。どの公演も印象的で私の大事な宝物。色々振り返りたいが、やり残している掃除あり、本note公開、年内に済ませたく後日加筆修正する。
【オマケ】
タワレコ梅田NU茶屋町店訪問録はこちらに含めたが、以下にも写真を2枚。
(終わり)