コラムの裏側 Another Story 魔法よ、このままとけないで…
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コラムの裏側。7本目はニースでの日本代表VSイングランド戦から、Another Story.
キックオフ1時間前、ニースのフォトグラファーズルームにて一人のイギリス男性と約20人の日本人フォトグラファーが両手を上げる。男性の「はいっ!せーの!ライト とぅ〜 レフト!」の掛け声に合わせて両手を右から左へと動かす我々。コイントスの結果、日本のメインスタンドから見て右から左へと決まったのだ。
「OK!ジャッパ〜ン!Let's GO!GO!GO〜!」
男性の掛け声に合わせ、レンズを抱えたフォトグラファーたちがピッチへと向かう。みんな笑っていた。楽しそうだった。試合前からニースはイングランドの魔法にかかっていた。
この男性こそ、W杯で南仏エリアのスタジアムを担当するフォトマネージャーのトニーだ。彼はイングランドのホーム・トゥイッケナムスタジアムの名物フォトマネージャーで、試合前の“儀式”も彼のルーティーン。
この試合、彼は私に重要なものを渡してくれた。それはロービングビブスだ。通常のフォトグラファービブス(淡いグリーン)は試合中に移動はできない。それに対してロービング(青)はメーン側やバック側を移動することができる。これまでとは違った角度で写真が撮れる“魔法”のビブスだ。
フリーランスの私になぜロービング? 通常であれば通信社や大手新聞社に渡るはずのロービングビブス。その真意はわからないが、なぜかトニーは私にビブスを私にサムアップしてみせた。
ちなみに彼との出会いは2018年11月にさかのぼる。新聞社時代に日本代表の欧州遠征、イングランド戦でトゥイッケナムを訪れた時が最初だった。その時もトニーは陽気に日本メディア向けにスタジアムを開いてくれた。そして2022年の欧州遠征、今回の再会とつながっていく。トニーは日本メディアが(おそらく)好きだ。なぜかはわからないが、日本人に異様に優しい。
そしてトニーはとても有能だ。試合の数日前からイングランド戦に向けた情報交換を個々のフォトグラファーと交わし、撮影希望をアンケートする。そのため試合会場に入ればすべての段取りが整っている。その仕事ぶりからフォトグラファーたちからも愛されるナイスガイだ。
そんなトニーから受け取ったロービングを着てニースのピッチに向かった。
普段は入りたくても、入れないフォトポジション。選手の目の前で撮るアンセム、試合状況に合わせてポジションを変え、試合後は家族とともにピッチを回る選手を追いかけた。試合前の選手の緊張感と熱量が伝わってくる。試合後は戦いを讃える家族の声、期待に応えられなかった選手のため息が聞こえてくる。見たことのないW杯の景色がそこにはあった。
あっという間の80分+α、夢のような時間だった。正直、この試合だけ内容を覚えていない。それほどまでに考え、動き、走った試合だった。あらためてW杯のおもしろさを知った1日だった。
トニーにロービングビブスを返す際「どうだった?」と聞かれた。「Greatだったよ」と答えると、笑顔でサムアップしてくれた。
日本にもトニーのような名物マネージャーが欲しい。スタジアムの魅力は造形美やピッチの美しさだけじゃない。その箱を操る人の存在も欠かせない。ラグビーをもっと面白くさせるのは必ずしも選手とは限らない。試合に関わる人すべてにその可能性があるはずだ。自分自身もその1人でありたい。
「楽しかったな〜」ー。酔っ払ったイングランドファンですし詰めのトラムに揺られながら何度もつぶやく自分がいた。
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