金木犀の匂い
子供の頃、庭に金木犀が植えられていた。
我が家は、田んぼに囲まれていて1km先の道路が見えるほどだった。
その景色に少しでも彩りを加えたいと考えたのか、秋になると金木犀は必ず花を咲かせた。
花の匂いは秋の訪れを告げて、花が散ったら冬がやってくる。
大人になってからも、金木犀の香りはいたるところで感じられた。
街のどこにいても、田舎のどこへ行っても、都会のどこにいても。
その香りは風に乗って運ばれて、ほのかに鼻の奥を刺激する。
強く記憶に結びついた香りは、別れた恋人のようにあらゆる記憶を運んでくる。
匂いは人間の記憶に強く結びついている、と何かの研究データを読んだことがある。
金木犀の香りは、数十年分の記憶が呼び起こさせるのだから、センチメンタルにもなる。
もうすぐ、冬がくる。
今年もたくさんの出会いと、たくさんの感謝で迎えられる年末にしたい。
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