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第1回阿賀北ノベルジャム参戦記

 HON.jp理事のまつもとあつしさんが新潟の敬和大学に赴任された縁で、NovelJamの基本理念であり悲願でもあった「地方開催」が実現した。本家(?)第4回でPを担当した自分もお手伝いする予定だったのだが、深刻な人員不足の補填として不肖わたくし波野發作も再び「編集者」として戦地に赴くことになったのである。ここまでだいたい2020年9月。

簡単にここまでのNovelJam参加実績を自慢しておくと、第1回〜第3回まで、編集・デザイナー・編集のロールでそれぞれ参加し、受賞数8(最多)、チーム作家全員受賞、GP二連覇などなど、わりとがんばった方である。それでもう十分と思って第4回では運営に回って裏方として携わっていたわけだ。
それが、縁あって再び参加者として身を投じるにあたり、今回は駄目だろう、そろそろメッキも剥がれる頃だと思い、まあ中の錆鉄が見えちゃってもとりあえず笑いは取れるからいいんじゃないかということで、肩の力を抜いて抜いて抜ききって参戦しようと密かに決めていたのだ。

2021年3月21日、授賞式&閉会式が行われ、担当作家Yohクモハ氏が見事グランプリを獲得してくれた。わあい。これで通算受賞数9。嬉しく思います。
しかし、それまでの6ヶ月間、長かった。実に長かった。
授賞式でまつもとさんも言っていたが、本当にいろいろあった。長いといろいろ起こるんだ。今までのNovelJamは3日間で終わるので、何も起こらなかっただけで、長くやれば、いろいろと事件は起こるものなのである。創作の現場はどこでもエキサイティングなのだ。隠すことでもないので、なんでも言えるんだが、それでも秘すれば華の世阿弥マシーンの教えの通り、言わんでもいいことは言わないで済ませよう。そして、言うべきことは今ここで言おうと筆を取ったわけなのであり、しばらくお付き合いいただければ幸いである。

しばらく敬体。

運営のみなさんにおかれましては、第1回のイベントを成功に導くという難行を見事に最後までやり遂げたということで、心から讃えたいと思います。世界的難局の最中、経験のない世界で試行錯誤を繰り返しながらも、都度クリアして最善の道を探り当てたこと、素晴らしいと思いました。学生のみなさんにとっても、地図のない道をゴールまで踏破した経験は、今後の人生の宝となることでしょう。
そしてすべての新潟県民のみなさんも、わたしたちの作品に最高の舞台を用意してくださっていて、本当にありがとうございました。今回は残念ながら一度も取材に行けませんでしたが(取材至上主義の自分がががが無念)、コロナ明けの暁には、5作品追体験ツアーなど敢行(観光)できればいいなと思っております。

ここから常体。

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少しチームの話をしておこう。
当初4名でスタートした「チームあがっと」だが、11月頃から1名が不参加となり(詳しくは存じない)、代わりに他チームから月城さんが合流して最終的な体制に固まった。チーム内にはとくに不和はなかったので、和気あいあいとアットホームな感じでのんびりと取り組めていたと思う。俺はといえばまあ一歩踏み出すと老害化する身体であるので、なるべく抑えて控えてひっそりと暮らしていたわけであるが、圧のかからない温室で、見事に生い茂ってくれたのが『バッテンガール』と『JKファンタジスタMISONOと5つの新潟』だったのである。

ちょっと何から話していけばいいかわからないのだが、作品別に行こうか。

まずは『JKファンタジスタMISONOと5つの新潟』。チームに合流したときにはもうほとんど完成していて、誤字脱字誤用の修正ぐらいしか作業は残っていなかったのだが、タイトルは提案させてもらった。僕の好きな感じのタイトルを受け入れてくれてよかった。本作はもちろん現時点で完成しているのだが、構造上無限に話を続けられる秀逸なシステムを内包している。超常の能力を持つ主人公が狂言回しを担当するという仕掛けは、実に機能的である。サッカーは11人で行う競技であるが、対戦相手も含めれば22人。レギュラーだけでそんなにいる。リーグ全体まで考えればもういくらでもキャラを出せる。ここまでのMISONOワールドにはまだ超常者はMISONO一人だけであるが、シーズン2以降はライバル超常者が出てきてもいいし、MISONOが一時的に能力を失ってそれを取り戻す劇場版があってもいい!こんな可能性に満ちた作品はなかなかない。新潟全域を食い尽くすまで、いくらでも物語を編み続けることができるのである。
前チームから引き継いだとき、1から書き直してもらうことももちろん視野には入れていたのだが、その必要はないと感じたので、ブラッシュアップに留めたのだが、決め手となったのは最終章のオチである。おじさん、そういうの好きなんだ。みんなもそうだろう?

表紙デザインは岸端優奈氏。登場人物を4人も描いてくれて、いい感じに飾ってくれた。俺のせいで長くなったタイトルもうまく収めてくれて、素敵なものになった。岸端さんはもともとチームあがっとのメンバーではなかったが、月城いなほ氏の希望もあって前チームから引き続き担当してもらったものだ。運営も柔軟に対応してくれて助かった。

『バッテンガール』はYohクモハ氏の作。
当初のタイトルはもう少し長かったが、物語が長いならタイトルは短いほうがいい。バッテンガールは語呂もいいし、覚えてもらいやすいと判断して、シンプルにしてみた。
とにかくノベルジャム的にはかなり長い作品であるので、あまりチェック回数を増やせないという障壁はあったのだが、クモハ氏はもともと文章のメロディが上手な作家なので、いつくかのノイズを除去すれば問題はなかったからそこは助かった。ただ、難点としてはもともと一人称メインの作風なのを曲げて今回は三人称に挑戦した関係で、どうしても基本的な記述方法が1人称に寄ってしまう傾向にあり、そこの矯正にもっとも時間を割くことになった。最初から一人称にしておけば少し楽できたかもしれないとも考えたが、主人公の内心を100%語らねばならないのも、それはそれで本作の雰囲気にはそぐわない。あくまで寄り添う視点というものが、絶妙な距離感を醸し出す最善手と考えて、少し邪道ではあるが、今回のような軸足に再設定をした。また当初は脇役の立ち位置がブレていて、主人公の意識の向き先も揺れていたのだが、色部、拓海、華乃の3名を三賢者と設定して瑠依を導いていく役目を与えることで、うまく整理できたと思う。それ以外の登場人物はすべて敵対する障害物に寄せていくことで、うまく物語が滑るようになった。灯台役の「先輩」は最後まで回想以外には登場しないのも、よかったと思う。ここは著者と思惑が一致していて、最後まで出てこなかった。もし出ていたら再考をお願いしてたと思うが、それはなかった。母親については終盤で出るにしては情報量が多すぎてだいぶ悩んだのだが、少し調整してもらったらすんなり通るようになったので、よかったのだと思う。それなりに貢献できたとは思うが、それもすべてクモハ氏の紡ぎ出す清流のような物語があったからであり、ぼくはそこにゴミや汚泥が流れ込まないように監視していただけである。そして何より留意したのは、ぼく自身がゴミを投げ込まないようにする、ということであり、そこはうまくできたのかなと思う。
チーム結成当初は、「賞を獲るぞ!」という感じではなかったので、エンジョイノベルジャムを決め込んで物見遊山で人数合わせという大役のみ果たせばいいと考えていたのだが、初稿あたりでクモハ氏から「獲れるものなら獲りたいに決まっている」とのガチ戦宣言が飛び出し、全面的に方針を変更せざるを得なくなってしまったのは誤算だった。NovelJamでもっとも重要なのは、「読者」への配慮なのだが、NovelJamにおいて読者とは「審査員」のことである。本質的にこれを理解していないと、勝てない。今回は3タイプの想定読者(審査員)を分析して、対策を練る必要があった。審査委員長の仲俣さんはNovelJamでもお世話になっているし、何度もお会いしているのである程度の人となりはわかっている。また著書も拝見しているので、思想の方向性はある程度見当をつけられた。審査員個人賞を狙っていくなら、まず仲俣賞を狙っていこうと考えて、基本的な小説作法を逸脱しないように留意した。幸い「赤い本」をチーム発足時に各作家にお渡ししてあったので、基本はそれを見てもらい、読者としての仲俣さんをおもてなしできるようにと考えたものである。有田さんは数回お会いしただけではあるが、その審査員傾向はご本人の柔らかな物腰とは少し違っていて、かなりのガチ勢であると思っていたので、雑な矛盾などは徹底して排除する必要を感じていた。ただ、お二人は同じ方向に判定基準をお持ちである可能性が高いので、そっちに作業を集中できれば十分な対策は講じられると考えた。最優秀が獲れなくても、仲俣賞、有田賞のどちらかなら手が届くのではないかと考えたわけである。3人目の審査員である間狩隆充氏については正直未知数だった。お会いできていないこともあるが、検索しても十分な情報は得られなかったし、新聞記者の方であり、ぼくが普段あまり接していない人種ということもあって、対策を考えるのは難しかった。ただ、地元へのリスペクトがない作品は確実に嫌われるという確信だけはあったので、瑠依の本来もつ郷土への愛情はできるだけ醸し出せるようにとは考えた。もっともそれは作者であるクモハ氏が元来持ち合わせているものでもあるので、ぼくは単に邪魔をしなければよかっただけのことではある。と、編集時点では考えていたのだが、フタを開けてみれば表彰台は1つのみ(作品賞は)。薄氷の上に晒されていたのだと知って、肝が冷えた。11月か12月に氷の上を走っていると知っていれば、重圧に押しつぶされてチームを壊してしまったかもしれない。危なかった。余裕で勝てたことなど一度もなかったし、それは今回も同じであった。思い起こせばNovelJamでも仲俣さんは毎回「賞が多すぎだよね」とおっしゃっていたわけで、それは想定すべきであったのだ。俺もまだまだ修行が足りない。

バッテンガールの表紙は吉田彩乃氏の力作である。ハンドボールの汎用イラストなんて存在しないので、今回ベリーナイスな表紙に仕上がったのは、氏の画力あってのものである。本編にハンドボールシーンがほとんどないのに、瑠依のハンドボールへの情熱を読者に植え付けられたのは、表紙のインパクトがあってのことであり、最高の表紙詐欺に成功した。チーム監督としては鼻が高い。この相乗効果は期待以上である。あけびの絵もとても良いので特筆しておきたい。

以上、ざっくりではあるが、制作秘話的なものを差し出しておいた。
短い文章であるが、授賞式に出られなかったお詫びと、大会関係者各位への感謝を込めて、ここに掲出させていただきたいと思う。

授賞式の会場で、「次年度も開催される」との言質が運営リーダーのまつもと氏から飛び出しているので、あなたも、あなたも、そこのあなたも、ぜひ飛び込んでいただきたい。

ちなみに今回の報酬として、作者クモハ氏から、作中に登場する日本酒のモデルとなった「〆張鶴」を頂戴した。キレと深みのある名酒でありました。この場を借りて改めて御礼申し上げるとともに、受賞のお祝いに代えさせていただきます。

みなさんお疲れさまでした。

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頭の上から足の先まで、本読みで物書き