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私が作りたいのは"白木の曲げわっぱ"なんです!大館曲げわっぱ職人 佐藤江里子(柴田慶信商店)

今回あきたびじょんBreak取材班が訪れたのは、民謡「秋田音頭」にも名物としてもうたわれる『大館曲げわっぱ』を作っている柴田慶信(よしのぶ)商店。

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同社がこだわるのは樹脂塗装を施さず、吸湿性、芳香、抗菌効果といった天然杉が持つ効能を活かした「白木の曲げわっぱ」。ご飯の水分をほどよく吸収し、食欲をそそる杉の香りがする弁当箱は、若い世代からも人気を呼んでいます。

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<大館市内にある「わっぱビルヂング」には曲げわっぱがズラリと並ぶ。柴田慶信商店の曲げわっぱは、宮城県や東京都でも販売されている(取扱店はこちら)>


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<工場内の様子。ほとんどが手作業の現場だ>


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同社の工場で働く職人のほとんどは地元大館の出身。その中でひとり、「白木の曲げわっぱ」に魅了され岩手県からやって来たという女性がいました。

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《名前》佐藤 江里子(さとう えりこ)
《生年月日》1991年9月18日
《出身》岩手県花巻市
《経歴》岩手県立産業技術短期大学校を卒業後、樹脂塗装をせず、白木にこだわった柴田慶信商店の曲げわっぱに魅了され入社。天然杉を加工する「製材」や、加工した板の両端を薄く削る「はぎ取り」といった重要な役割を主に担当する。令和元年度、秋田の伝統的工芸品の製造に従事し一定以上の技能等を有するとして「秋田県みらいの工芸士」に認定される。

岩手県と大館市、その距離を縮めたきっかけは何だろう。そして、佐藤さんの曲げわっぱ作りに対する思いが知りたい。あきたびじょんBreakでは今後も活躍が期待される「大館曲げわっぱ職人」を取材しました。

ざっくり!
大館曲げわっぱ職人・佐藤さんに質問したこと

①なぜ曲げわっぱ職人を目指したのか
②仕事内容と「みらいの工芸士」としてのこだわり
③大館曲げわっぱ業界の現状と将来のビジョン


「守破離」の精神に込められた思い

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そもそも「大館曲げわっぱ」がどのようにして作られているかご存知ですか?ただ単に「木を曲げてくっつける!」...のように簡単なものではありません。

天然杉を競りで購入し、適切なサイズにカットする。ミリ単位で調整された板を曲げやすくするため煮沸し、型をつけて乾燥させて...。ほとんど手作業のため、1つの曲げわっぱが完成するまで最短で1ヵ月もの時間を要します。

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<競りで購入された天然杉は「製材所」に運ばれる。そこから加工しやすい大きさにカットしていく>


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<加工した天然杉を煮沸している様子。前日に水に浸し、翌日80度になるまで煮沸する。この作業をすることで、硬く真っ直ぐな板が曲がりやすくなる>


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<天然杉を型に合わせて曲げ、木ばさみで固定している様子>


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<固定された天然杉は、7~10日ほどかけて乾燥する>


― 佐藤さんは普段、どんな作業を担当しているんですか?

競りで購入してきた天然杉を加工しやすい大きさ・厚さにする「製材」と、加工した板の両端を薄く削る「はぎ取り」を担当しています。この作業を担当して1年くらい経ちますね。

これがなかなかプレッシャーがかかる仕事で(笑)この作業は、いわば曲げわっぱ作りの基礎と言える部分なので、少しのミスも許されません!

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<ただカットするだけでなく、仕入れた天然杉の良し悪しを見極めるのも製材作業のうち>


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<「はぎ取り」をすることで板を曲げて端を合わせたとき全体が均一になる>


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― 以前までは別の作業を担当していた?

そうですね。柴田慶信商店の職人たちは、全員が一通りの作業を経験するんです。私はこの会社に入って9年が経つので、一通りの作業は覚えた...と思います!



うちには「守破離(しゅはり)」っていう社訓があってね。

― あっ、昌正(よしまさ)社長!

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<1966年に創業した柴田慶信商店は現在、二代目となる昌正さんが後を継いでいる>

「守破離」っていうのは剣道で修行における段階を示したものでね、剣道だけじゃなく、ものづくりにも、人生にも当てはまると思ってて。

「守」は教えを守ること、「破」は技術を学んだ上で自分なりのやり方を確立していくこと、「離」はひとつの流派から離れて独自の道を歩んでいくこと。だからうちの職人には、曲げわっぱの作業を一通り担当させてるの。いずれ一人立ちして、業界を担っていってくれたらな...っていう思いも込めて。

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― どんどん独立してほしい!...という意味ですか?

うちの仕事をずっと続けてくれる道も、独立して一人立ちする道も、どっちも応援してるよね。仮にもし今、僕が辞めたらこの会社は存続できない。ましてや僕の息子がこの仕事を継ぐとも限らない。だから、大館曲げわっぱを1人でも作れるように、職人全員に一連の作業に携わってもらうようにしているんです。

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<「佐藤は材料の良し悪しを見極める目を持っていて技術的にも申し分ない。だからこそ責任重大な仕事を任せているんだよ」と昌正社長。佐藤さんにはかなりの信頼を置いているようでした>


白木の曲げわっぱに魅了され

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― 岩手県ご出身の佐藤さん。大館曲げわっぱと出会ったきっかけは?

ずっとものづくりをしてみたくて、岩手の短大でプロダクトデザインや木材工学を学んでいたのですが、勉強していく中で「大館曲げわっぱ」の存在を知って...それでですね。当時はまだ実物を見たことがありませんでしたが、存在を知った瞬間、これだ!私はこれを作りたい!って感じましたね。

― どんなところに惹かれたんですか?

曲げわっぱで作られた「おひつ」や「弁当箱」にご飯を入れると美味しくなるのが魅力的だなと。そして日常生活に寄り添ったデザインであったことも、作りたい!と思ったきっかけですね。あと、丸みを帯びているのがすごく可愛かったので。

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そして柴田慶信商店の曲げわっぱは、ご飯が美味しくなるよう「白木の曲げわっぱ」を作ることにこだわっていました。そんなこだわりにも共感し、ここに入社したいと。

― 働いている方のほとんどが地元大館の出身だと聞きましたが、入社前の不安はありませんでしたか。

正直、不安はありました。昌正社長も私が岩手県出身だということで、すごく心配してくださって。だけど私が入社する以前から女性の職人も働いていたことや、皆さんフレンドリーに迎えてくださったこともあり、すぐに馴染めました。大館の町並みもどことなく花巻に似ているところもあって、なんだかんだ落ち着いて仕事ができています!

― 入社したての頃はどんな作業を?

山桜の皮で継ぎ目を縫い留める 「樺綴じ(かばとじ)」を担当しました。いきなり本格的な作業を任されて「いいのかな?」という感じでしたが、やればやるほど楽しくなっていきましたね。

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<茶色い部分が「樺綴じ」部分。この綴じ模様は柴田慶信商店オリジナルのものでロゴマークの役割もあるのだと言う>

本物を目指すなら妥協をしない

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― 赤ちゃんのへその緒を入れる臍帯箱(さいたいばこ)も作られてるんですね。

箱に干支がついていますよね?
実は、この干支は私がデザインしたものです。

― そうなんですか!?佐藤さん、デザインもできるんですね~

それほどではありません。デザイナーに頼らずに「社内でデザインしよう!」となったとき、たまたま私の案が採用されて...それから皆の意見を取り入れながら考えて最終的にこのデザインに決まりました。

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でも、おじいちゃんおばあちゃんが産まれたお孫さんにと購入されるのを見ると、嬉しく思います。この臍帯箱は、伝統工芸に馴染むように、雰囲気を崩しすぎないような干支のデザインを意識しました。

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― 曲げわっぱ作りでこだわっている部分はありますか?

妥協しないことですね。
「これでもいいかな」と投げやりに作業してしまったら、そのまま出来の悪い曲げわっぱが完成してしまうんです。そんな気持ちでやっていれば、絶対いい曲げわっぱは作れない。だから妥協せず、より長く使えるものを意識して作業するよう心掛けています。

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ありがたいことに令和元年度には、「秋田県みらいの工芸士」に認定されました。この称号をいただけたことで責任感が増しましたね。

これまでは自分が曲げわっぱを作りたくて、自分のために仕事をしている感覚でしたが、称号をいただいた後は自分のためだけじゃなく「伝統工芸を継承していく1人なんだ!」という自覚を持つようになりました。


業界を盛り上げられる存在に

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― 佐藤さんは今後どのような職人を目指していますか?

将来的に、自分が考案した曲げわっぱを作ってみたいです!これまで全く無かったタイプのものだったり、形を少し変えてより使いやすくしたり、バリエーションを増やしたり。同年代の女性に向けた曲げわっぱも作ってみたいですね。

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しかしながらどの伝統工芸もそうですが、大館曲げわっぱも後継者不足なのは事実です。なのでその問題と向き合い、解決に向けて取り組むことが必要だなと感じています。職人たちは「こんなに素敵なものを作っているのに...なぜ?」と頭を抱えているのが現状で、私もその一人なので。

妥協せず、皆さんに長く愛される「大館曲げわっぱ」を作るのが今の課題。どう後継者不足を解決していくのかがこれからの課題。いずれにせよ、曲げわっぱ業界が盛り上がるきっかけを作れたらなと思います。

【有限会社 柴田慶信商店】
《住所》秋田県大館市御成町2丁目15-28
《連絡》TEL:0186-42-6123
《業務》天然杉を使用した伝統的工芸品曲げわっぱの製造販売

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/