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クマ愛でクマを制す!みんなに知って欲しいスペシャリストの仕事。県自然保護課 ツキノワグマ被害対策支援センター 近藤 麻実

2019年度の秋田市内のクマ目撃件数は149件。全県では672件以上の目撃情報が寄せられており、毎年農作物や人への被害が後を絶ちません(参照:秋田県野生動物情報マップギャラリー)。

このような被害を減らすことを目指して、クマによる事故の原因調査や、事故や被害を防ぐための正しい知識の普及啓発に取り組んでいる県庁職員がいます。

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《名前》近藤 麻実(こんどう まみ)
《出身》三重県津市
《経歴》岐阜大学 農学部獣医学科(現在の応用生物科学部共同獣医学科)を卒業後、北海道の研究機関に就職。ヒグマの生態調査や被害対策を行う。2020年に県自然保護課に着任し、ツキノワグマの被害調査などにあたるほか、クマに関する正しい知識を伝える普及啓発にも取り組んでいる。

近藤さんは大学時代からクマの研究に10年以上携わる、クマの専門家です。2020年からは拠点を秋田県に移し、毎年多く出没するツキノワグマの対策にあたっています。

秋田にやってきたクマのスペシャリスト

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― 近藤さんは普段、どんな業務を担当しているのですか?

クマの知識を持った専門職員として、主に県のクマに関する調査や被害の対策を担当しています。例えば「住宅地にクマが出た!」と連絡を受けたら、現場に行ってクマが現れた原因を調査したり、DNAから個体を識別するために現場に落ちていたクマの毛やふんを採取したりします。

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<近藤さんが現場に持ち歩く調査キット>

― まるで「クマ専門の警察」ですね。

まさにそんな感じです。鑑識官といったところでしょうか。個体を識別した後に、被害現場の周辺で駆除されたクマとDNAが同一かどうか...というところまで調査しています。

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<ツキノワグマの爪は丈夫で大きく、ひっかかれると大けがになる>

クマはとても頭のいい動物です。一度でも、人間の住むエリアに侵入して食べ物をあさっても大丈夫だと判断したら、また同じ場所に現れる可能性が高く、二次被害も考えられます。そのため、犯人となるクマを確実に駆除できたかどうかを調べる、というのはかなり重要なことなんです。被害を出したクマが駆除されていなければ、その地域の住民にはずっと不安が残るので。

現場確認(子ウシの食害を受けた牛舎でクマの毛を拾っているところ)

<子牛の食害を受けた牛舎でクマの毛を拾う様子>


電気柵研修会(市町村・振興局職員向け)

<市町村職員に向け、電気柵の正しい設置方法をレクチャー中>

―その他に、クマに関する正しい知識の普及啓発も行っているそうですね。

はい。秋田県に多く生息しているツキノワグマの生態や行動を理解し、クマとの突発的な遭遇を防ぐことができるよう、学校や地域の学習会などで「県庁出前講座」を実施しています。

出前講座(子ども向け)

<小学校での出前講座>

子どもの頃から好きなもの

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― そもそもなぜ、近藤さんはクマの専門家になったんですか?

私は子どもの頃から野生動物が好きで、将来獣医になれば関わることができるかな?と思い、獣医学科のある大学に進学しました。でも実は、獣医は野生動物を診察することはあまりなく、授業でも全く関わりがなくて(笑)

少し失敗したな~、と思っていたとき「ツキノワグマ研究会」というサークルを見つけて。野生動物に唯一触れ合えそうだったので、とりあえず入ってみることにしました。

クマ(ガードレール)

当時は大学が、岐阜県内のクマ被害に困っている地域から調査委託を受けていて、私たちのサークルも調査に同行していました。そこで、クマのことを知れば知るほど愛着が湧いてきて、もっと知りたくなって...。いつの間にか、クマに夢中になっていました(笑)

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― 大学卒業後の進路は?

最初は家畜を診る獣医になろうと思っていました。けど、恩師から「卒論、クマについて書いてみたら?」と助言を受けて本格的に研究を進めていく中で、北海道のヒグマの生態を調査する研究機関から就職のお話をいただき、クマと関わる仕事に就くことになりました。

チャレンジャーは面白い

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― 北海道の研究機関を経て、2020年からはクマの専門家として県庁で働いていますが、転職した理由を教えてください。

私はずっと「クマと人との無駄な衝突がなくなればいい」と思っていて、そのためには人がクマを正しく知り、正しく怖がることが大事だと考えています。北海道にいたころから、地域の人や子どもたちにクマに関する知識を教えたかったんですけど、当時は研究職だったから、「普及啓発は研究じゃないでしょ」と言われちゃいまして。

また、「被害現場に出向いて、地域に密着した活動をしたい!」とも思っていたのですが、それもできず、もどかしく感じていました。そんなとき、秋田県が新たにクマ対策の専門職員を募集していると知り、「これだ!」と思って応募しました。県庁の職員なら、現場や出前講座に行けると思ったので。

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秋田県は私が着任するまで、特別な知識や経験のない職員が手探りでクマ対策を行っていました。それまで県庁に「クマの専門家」はいなかったんです。一方、島根県や兵庫県は、早くから専門職員を置き、クマの被害を減らした実績があるので、みんなそうすればいいのに...と感じていたことも理由の一つですね。

それに加えて、以前から、秋田県がツキノワグマの被害で本当に困っていることは、知り合いを通じてよく知っていたので、少しでも助けになれたらいいなと思って、ここに来ました。

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― 今までなかったポストでの挑戦、やりがいを感じているのでは?

「こうしたら被害が少なくなるのでは?」というアドバイスをしたり、地域住民の方々と一緒に対策を考えたりすることで、少しずつ相談件数も増え、信頼関係を構築できていると感じています。最近では「この足跡はなんだろう?」といった相談が、県民の方から寄せられることも少しずつですが増えてきていて、クマへの関心が高まってきていると感じます。

"昔からの知恵"を取り戻すため

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― 県庁にクマの専門家は近藤さんだけ。苦労することも多いと思いますが。

現在は専門職員が私だけなので、広い県土を1人でカバーするのは大変ですが、これまで担当してきた職員と協力しながら業務を進めています。クマの被害はとても重大なことなので、私が役に立てるのならいくらでも!...という気概でいます。

― 将来、クマと秋田県民はどのような関係になってほしいですか?

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秋田では昔から、人とクマは切っても切れない関係で、お互い上手く距離を取って衝突しないようにしていたのでは、と考えています。そして、"昔からの知恵"を取り戻すことが大切だとも感じています。

県民の方が「そういえばよく昔、親父が家の周りの草刈りをこまめにやっていたな~」と話していたことがありました。クマは自分の身を隠せる草木が茂った場所を移動する習性があるので、クマ対策に草刈りは効果的なんですよね。

そういう"昔からの知恵"によって、誰もけがをせず、畑を荒らされないという環境をつくりたいです。これからも調査・研究を進め、クマについての正しい知識の普及啓発に取り組むことで、人とクマとの無駄な衝突をなくしたいですね。

【秋田県 自然保護課 ツキノワグマ被害対策支援センター】
《住所》秋田県秋田市山王四丁目1番1号
《TEL》018-860-1613

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/

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