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「研究だけでは物足りない!」高清水の女性蔵人を目指した理由 秋田酒類製造株式会社 冨岡浩子


江戸、明治、大正、昭和と酒造りをしていた12の酒造家が集まり、1944年に秋田酒類製造株式会社として発足したのが秋田銘酒「高清水」の始まりでした。

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本社の敷地には「千秋蔵」、「仙人蔵」の2つの蔵が存在し、貯蔵庫、瓶詰め工場、製品倉庫など、仕込みから出荷までの一連の工程を全て行っています。

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<従業員数は120名以上と県内最大の蔵元である>


「実は私、カルーアミルクばかり飲んでいた学生で...」

そう語るのは、同社に勤務する冨岡浩子さん。そんな彼女ですが、山内杜氏組合が主催する杜氏試験で女性として初めて合格し、現在は高清水・仙人蔵副杜氏に就任するなど、県内の日本酒業界では一目置かれる活躍ぶりを見せています。

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《名前》冨岡 浩子(とみおか ひろこ)
《生年月日》1986年5月16日
《出身》秋田市
《経歴》日本女子大学理学部卒業後、「高清水」醸造元の秋田酒類製造株式会社に勤務。2014年、女性をターゲットとした日本酒開発に携わり、2017年には山内杜氏試験に女性で初めて合格。一級酒造技能士としての資格を持ち、現在は仙人蔵の副杜氏として日本酒造りに励んでいる。

きっと彼女が日本酒造りをするようになったのは、心が熱くなるきっかけがあったはず。そこであきたびじょんBreak取材班は、冨岡さんが勤務する高清水・仙人蔵を訪れることに。

ざっくり!
高清水の女性蔵人・冨岡さんに聞いたこと
①蔵人を目指すようになったきっかけ
②女性に飲んでもらいたい日本酒とは?
③冨岡さんが感じる日本酒業界のこれから

海外観光客にも人気のスポット・仙人蔵

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― ここは一般の方も入れる「見学できる蔵」ですか?

そうですね。ここ仙人蔵は、弊社の日本酒を造るだけでなく、一般の方も見学できる蔵です。高清水の歴史を現代に伝える機能も併せ持っています。

昔から日本酒造りに使用されてきた道具の展示があり、イベント会場としても活用されることもある蔵なんですよ。(現在、酒蔵見学は全て休止しております。)

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<日本の風情を感じられるブースは海外客からも人気の撮影スポット>


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<昔から日本酒造りに使用されてきた道具がずらりと並ぶ>


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<こちらは醪(もろみ)を混ぜるために使う「櫂棒(かいぼう)」。「軽くて扱いやすいため現在でも使用されています」と冨岡さん。>


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<「暖気樽(だきだる)」という道具。日本酒を造る土台となる「酒母」が発酵しやすい温度に保つため、お湯を入れてタンク内の温度を調節する役割を果たしていた。現在はタンクに温度を調節できる機能が備わっているのでほとんど使われなくなった。>


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<イベントなどができる広いスペース>


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<毎年10月から日本酒造りを開始する。取材時(9月)はタンクのメンテナンスなどをしていた>


毎年2月に開催する「酒蔵開放」では、しぼりたて新酒や樽酒、甘酒の試飲などができます。2020年は5,000名以上の方々にご来場いただきました。

蔵開放2

<毎年「しぼりたて新酒や樽酒・甘酒の試飲」、「ここでしか買えない高清水グッズの販売」、「化粧品『酒屋のスキル』のお試し及び販売」、「酒蔵見学」、「酒粕の販売」などが行われる※2021年は未定>


蔵開放4


蔵開放3


倉蔵

<酒造りの道具などを保管していた倉庫をリフォームして作られた「倉//蔵(KURA KURA)」。施設内では数種類のお酒の試飲が可能で、日本酒や限定のグッズなども販売している(営業休止中)>


女性に飲んでもらいたい日本酒とは?

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― 冨岡さんがこの業界を目指すようになったきっかけは?

大学時代に微生物の研究をしていたことが一番大きいかなと思います。ずっと、地元秋田に貢献したい!...という気持ちがあったので、県内で就職先を探しました。そこで「これまで学んできた経験を活かせる場所はないか?」と探していた際に出会ったのが、高清水でした。

― やはり日本酒が好きだったから?

それが、そうでもなかったんです。今となっては日本酒の美味しさを知って、たしなむようにはなりましたが、当時はカルーアミルクばかり飲んでいた学生で...(笑)

― そうなんですか!?お酒造りに携わる方はみんな"日本酒好き"だと思っていました。

愛している、こだわっているという意味ではみんな"日本酒好き"ですが、たくさん飲む方ばかりではないですよ。

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そんな私が最初に入ったのは研究室。アルコール濃度・酸度・糖度などを毎日分析し、今後どのような管理をしていくのかという、指標になるデータを作成する仕事に就きました。

冨岡

<研究に取り組む冨岡さん>


― 研究室ではどんな仕事を?

女性をターゲットとした日本酒、「高清水 Dessert Jungin(デザート純吟)」の開発に携わりました。

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<2014年秋、デザート純吟は秋田県内限定で発売。好評を受けて2015年9月より首都圏での販売を開始。高清水オンラインショップでの販売も行っている。>

「女性向けの日本酒を造りたい!」と、当時研究室にいた私ともう一人の女性研究員に社長から指示がありまして。これまで弊社は"女性向けの日本酒"なんて開発していなかったので、かなり挑戦的な試みとなりました。

― 製造までどれくらい研究したのですか?

2年ほどかかりましたね。
試作をつくってはあらゆる部署の方に試飲していただき、また味を変えて試作...の繰り返し。何度も研究を重ね、"女性向け"を追求しました。

研究室で味が決まり、いざ現場で造ろうとしても、これまで造ってきた日本酒とは違う工程を踏むので時間がかかる。それでもなんとか完成して、販売もできて、ホッとしましたね。

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<味わいはやや甘口。酸味も同社の製品としては高めにしている>


― デザート純吟のこだわりは?

和食に限らず幅広い料理やスイーツにマッチする日本酒を意識しました。甘さと酸味を際立たせているので果実酒に近く、口当たりをよくしているのが特徴です。

― 約2年間かけて完成したデザート純吟、かなり思い入れがあるのでは?

実際に弊社の蔵で試飲会をしたとき、女性から「美味しい」という声をいただけたのがすごく嬉しかったですね。私もデザート純吟を愛飲していて、チーズケーキとあわせて飲むのにハマっています。

「デザート」という名前だけあって、洋風のスイーツによくあいます。ぜひこの記事を見ている方にも試していただきたいです!

コスメ

<同社では高清水の純米酒(コメ発酵液)を配合したスキンケア商品も展開している>


求められているのは"質のいいお酒"

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― 「研究員」から「蔵人」になった冨岡さん。蔵人を目指すようになるきっかけは?

研究員として日本酒開発に携わったことで、少しづつ日本酒造りの現場にも興味を抱き始めたのがきっかけですね。興味を抱き始めた時、故・皆川杜氏が、積極的に日本酒造りの現場を見学していいと言ってくださって。少しお手伝いもしていましたね。そうやって学んでいくうちに、「自分はもしかしたら研究室にいるより、現場のほうが向いているかも!」って。

― どんなところが?

顕微鏡で微生物をのぞいているより、実際に見たり触れたりして育てていく過程が面白い!って感じたんですよね。自分で仕込んだものがどんどん変化していくのはわくわくします。

そんな私の気持ちを製造部長や周囲のメンバーが汲んでくださって...。それで、蔵人になる道筋を作っていただきました。

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― 蔵人は男性が多いイメージですが、不安はありませんでしたか?

弊社の現場では私の他にも女性が働いていたので、不安はあまり無かったですね。よく取材で「女性ならではの目線」を期待されるんですけど、私は働けば働くほど、「そんな目線はないかなぁ~」って感じています。みんな"質のいいお酒"をつくることにベクトルが向いているので、そこに性別は関係ないのかなって。

強いて挙げるとすれば、重い物を運ぶとき苦労するくらいかも。でも、男性も「腰が痛い!」と言いながら運んでるくらいなので、案外それも気にしていません(笑)

秋田の蔵人が語る日本酒業界

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― 日本酒出荷量は他のアルコール飲料との競合などにより、近年右肩下がりの状況にあります。蔵人・冨岡さんが感じていることは?

いち消費者として言えば、もっと気軽に飲めるようになったら嬉しいなと感じています。日本酒と言えば一升瓶、というイメージってありますよね。そして、お祝い事に飲むイメージ。

でも最近では小さい瓶に入っているもの、デザインが可愛いものなど、日常的に楽しめる日本酒が増えてきています。そのような、今の時代にあった日本酒がもっと増えたらなと。

...とはいうものの、私は日本酒を造る蔵人の1人です。そして、実際にデザインや方向性を決めるのは社長や企画部の方々です。もしまた、デザート純吟のように挑戦的な日本酒を展開する時は、いつでも質のよいものを造れるように準備を整えておきたいです。

【秋田酒類製造株式会社】
《住所》秋田県秋田市川元むつみ町4−12
《連絡》TEL:018-864-7331
《業務》日本酒の醸造・販売など

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/