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「ただのマンガファン」の転職先がすごかった! 横手市増田まんが美術館 マンガ原画アーカイブセンター 安田一平

国内外180名以上の漫画家が描いた原画を展示する、横手市増田まんが美術館。取材した2021年2月には、昨年亡くなったまんが美術館の名誉館長・矢口高雄さんの追悼展が開催されていました。

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<追悼展は2021年1月20日~3月7日に開催>

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<『釣りキチ三平』をはじめとした矢口作品の魅力が、貴重な資料や原画で紹介されていました>

常設展

<常設展示室では常時74名分の漫画家の原画を展示>

ここでは、マンガの魅力を発信するだけでなく、漫画家たちが魂を込めて描いた、マンガ原画の展示も行われています。そしてこの場所は、日本で唯一の「原画専用の収蔵庫を保有する施設」でもあり、現在の収蔵数は40万点以上に及びます。

今回のあきたびじょんBreakでは、職員の安田さんに、マンガに対する思いや美術館の業務内容について取材しました。

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《名前》安田 一平(やすだ いっぺい)
《生年月日》1987年8月7日
《出身》秋田県横手市
《略歴》一度は県外で就職するも、東日本大震災を契機に秋田へUターン。2018年に東村アキコ先生のファンミーティングを秋田県で開催する。そのイベントがきっかけで横手市増田まんが美術館で働くことを決意。現在は美術館内に設置されている、国内唯一の原画保存の相談窓口「マンガ原画アーカイブセンター」で業務に取り組む。

考えもしなかったマンガ業界

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― 安田さんはなぜ、まんが美術館で働くことに?

私はもともと漫画家の東村アキコ先生の大ファンで、ここへ来る前からサイン会に参加するほど好きでした。特に『ひまわりっ 〜健一レジェンド〜』が大好きで、Uターン後の2018年には仙北市でファンミーティングを開催させていただいたくらいですね。

ファンミーティングを華やかにしたかったので、以前から東村先生の企画展やイベントを開催していたまんが美術館へ連絡し、当時使用していたパネルなどを使わせてもらえないかお願いしたのが、まんが美術館との初めての関わりでした。その際、当館の職員募集を知り、応募するきっかけとなりました。

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― ファンミーティングを主催するほどマンガが好きということは、ずっとマンガに関わる仕事がしたかったんですか?

ここに採用される前までは、ただのマンガファンでした(笑) 作品を楽しむことはあっても、将来マンガ業界に携わって何かする...というのは考えもしませんでしたね。でも今は、幼い頃から大好きだったマンガに関わる仕事ができて、ただただ幸せだと感じます。

― 安田さんが働いている「マンガ原画アーカイブセンター」では、どんなことをしているんですか?

簡単に説明すると、マンガ原画の取り扱いについての相談窓口ですね。主に漫画家やその関係者・出版社の方々から「原画の保存方法を教えてほしい」、「保管場所が無く、どうにかしたい。」など、原画に関する相談についてアドバイスを行っています。

― マンガ好きなら、直接先生とお会いするのってかなり緊張しそうですね。

不思議な感覚ですね~。それこそ、矢口先生とお会いした時はとても緊張しました。昔から読んでいた作品がたくさんあったので、ファンとして話をしていいのか、職員として仕事に徹しなければいけないのか...。

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― 『釣りキチ三平』は秋田に住んでいると、誰もが一度は目にしたことのある名作ですよね。

県内では野菜のパッケージにデザインされていたり、秋田空港の大型陶板レリーフにも採用されたりしていますしね。矢口先生はとにかく地元を愛されていた方だったので、亡くなったと聞いた時は喪失感がすごかったです。

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― 県民の僕からすると作中、「この風景、見たことある!」というなじみ深いシーンが何度も出てくるのが印象的です。

秋田の自然風景を多く描かれていますね。さらにどの絵も、小さな木目の線、葉の葉脈...どこをとっても細部までこだわって再現されている、というのが矢口先生の作品の特徴です。何度見ても「すごい!」と感じますよね。

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<原画はとても色鮮やか。また、細部まで丁寧に描かれています。>


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<ロゴマークは矢口先生のデザイン>


日本で唯一の原画専用収蔵庫

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― まんが美術館が原画を収蔵・保存するようになったきっかけが知りたいです。

アーカイブ事業のスタートは、2015年に矢口高雄先生から横手市に対して、全原画4万2千点を寄贈いただいたのがきっかけでした。横手市としてその原画の活用方法を検討し、以来、作家さんが生み出したすべての原画をお預かりする大規模収蔵事業に着手するようになりました。

マンガの蔵収蔵庫③

<日本で唯一の原画専用の収蔵庫「マンガの蔵展示室」。原画が変色・劣化しないよう24時間温度と湿度を管理している>


マンガの蔵収蔵庫⑥

<原画の持つ細やかな情報の記録やデジタルデータ化、紙の酸性化を防ぐ中性紙素材を活用した適正保存など、一連のアーカイブ作業をガラス越しに見学できます>


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― いつも印刷・製本され、マンガとして出来上がったものを見ているので、原画を見ると新鮮に感じます。

新鮮と思うのは、漫画家の先生が描いた努力の証しが目に見えるからなのかもしれません。原画では細部までこだわって描かれていても、いざマンガになって印刷されると潰れてしまう線があったりするので。こうして眺めているだけでも、人によって線の描き方に違いがあって、色の使い方もそれぞれで...原画って見ているだけで楽しいんですよ!


マンガの原画を保存する仕事

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― 安田さんが考えるマンガの魅力を教えてください。

マンガは日本中どこでも読めて、頭を空っぽにして楽しめるところがいいです。マンガがたくさんある日本に生まれてよかったなと思います。何より、マンガからは多くのことが学べますしね。

― 主人公の生き方に影響されることもありますよね~。

破天荒だけど所々に人情味がある『こち亀』は、見ていてすごく面白いし、両さんみたいに楽しく生きていきたい!って思えてきます(笑) 

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― 安田さん自身、原画にはどんな魅力を感じていますか?

日本が世界に誇るマンガ文化を作り上げた貴重な資料として後世に残して行かなければならないと感じています。そしてこれだけ多くの漫画家の原画が並んでいるところを見られるのは、世界中を探してもここだけ。皆さんが知っているマンガの原画が秋田、横手市で大切に守られているということは、誇れることだと思います。

― 原画保存に携わる中で、やりがいを感じた瞬間はありますか?

仕事で、漫画家の先生から感謝されるときですね。「ありがとう」の一言だけでもとてもうれしいです!これまで楽しませてくれたマンガ業界に恩返しできていることに、やりがいを感じています。

― 取材させていただいて、改めてまんが美術館の魅力を知ることができました!最後にこの先のビジョンを教えてください。

これからも秋田の誇りになるような施設にしていきたいと思いますし、先生たちの魂を後世に渡って伝えられる美術館にしなければとも感じています。ぜひ、多くのお客様にご来館していただき原画の素晴らしさ・面白さを感じていただけたらうれしく思います。

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【横手市増田まんが美術館】
《住所》 秋田県横手市増田町増田新町285
《連絡》TEL:0182-45-5569
《HP》https://manga-museum.com/

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/

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