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大切なのは、私がときめくお菓子を作ること。フランス焼き菓子専門工房 M lab.(エムラボ) 髙橋美月

2020年4月、秋田県湯沢市に伝統的なフランス焼き菓子を作るM lab.(エムラボ)がオープンしました。

ほんのりバター香る、かわいいデザインが人気で、地元スーパーに並ぶとすぐに売り切れてしまうほどです。

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この工房を1人で切り盛りするのは、M lab.オーナーパティシエの髙橋美月(たかはし みづき)さん。今回のあきたびじょんBreakでは「焼き菓子へのこだわり」や「M lab.をオープンしたきっかけ」を取材しました。

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《名前》髙橋美月(たかはし みづき)
《年齢》25歳
《出身》秋田県湯沢市
《経歴》高校卒業後、大学へ進学するもパティシエの夢を諦めきれず大学を辞め、専門学校へ進学。その後は都内の洋菓子店で働くが、体調を崩し職を離れることに。「自分が納得するお菓子を、ただただ作り続けたい」とAターン。2020年4月、湯沢市川連にM lab.をオープンさせた。

頑張る人へ幸せ届け!

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― ご実家の一角が工房になってるんですね!

もともと、この場所は、父の仏壇・仏具店(有限会社 新平堂)の在庫置き場でした。私が「秋田で焼き菓子工房を始めたい!」と決意したとき、父が貸してくれたんです。ほとんど私1人で壁に色を塗ったり、新平堂の職人の方々に頼んで器具を搬入したりして、2カ月程度でこの工房を完成させました。

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― 焼きたてのいい香り。これは何というお菓子ですか?

「スペキュロス」というクッキーです。甘さが控え目で、女性はもちろん、男性にも人気なんですよ。

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― ネコをモチーフとしたサブレもあるんですね~。かわいいです!

これはサブレを文字った、M lab.オリジナルの「ニャブレ」です。ニャブレのように、複雑な形のお菓子って、均等に焼いていくのがすごく難しいんですけど...デザインがかわいくて、思わず作っちゃいました(笑)

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<コンセプトは「頑張る人へのご褒美おやつ」>

― 商品の種類はどれくらいありますか?

15種類程度ですね。主に地元スーパーやイベントに出店し販売しています。(※イベント出店情報などは、M lab.公式インスタグラムから確認できます)

― オープンから1年経ったそうですが、反響はありますか?

自分が知らないところで、お客さんがM lab.を話題にしてくれることが多くなったと感じています。工房での販売はほとんど不定期に近いのですが、毎回来てくださる方もいて、とてもうれしいです!

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<新作の「ディアマンクッキー」を焼く準備をしている様子>


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<焼き上がったものがこちら>

売れるか・売れないかで判断しない

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― 焼き菓子作りで、こだわっているポイントはありますか?

「私がときめくまで作ること」です。私がときめく味か、また食べたい味か、忘れられない味か...M lab.の焼き菓子は理論じゃなくて、私の感覚で商品化しています。

実は私、焼き菓子はそこまで好きではなくて(笑) そんな私でも、ついつい食べたくなっちゃうような一品を目指しています。

原価計算はもちろんするんですけど、売れるか・売れないかにこだわりすぎず、自分の好きな材料をできるだけ使うようにしています。

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コストパフォーマンスが悪い場合もありますが、焼き菓子にとって最善であり、おいしく作れるのなら、できる限りそうしたいと思っていますね。

夢と理想と、現実と

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― 美月さんはずっとパティシエを目指していたんですか?

そうですね。子どもの頃からの夢でした。本当は高校を卒業後、すぐ現場で働きたかったのですが、親に反対されてしまって。「将来の選択肢として、管理栄養士の資格をとっておいたほうがいい」とアドバイスされ、いったん理系の大学に進学しました。

でも、理系の大学って、レポートがすごく多いんです。私のように、他にやりたいことがあって、ただ逃げ道を作るために行くようなところではありませんでした。なので半年程通ってみてから「学費はいらないからお菓子作りの専門学校に行かせて!」と親を説得し、大学を辞めました。

― 専門学校の学費はどうしたんですか?

朝から晩まで、2つのバイトを掛け持ちして、半年間で専門学校の学費を稼ぎました。誰にも頼らない、後には引かない!という意地でやりましたね(笑)

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― 話を聞くだけでも壮絶なハードワーク...その原動力はいったいどこから?

私はすごく頑固な性格なんです。お菓子だけは「これがおいしい!」と思ったら譲れないし。一度決めたことを曲げたくなかったんです。

― 専門学校卒業後は?

都内の洋菓子店に就職しました。いろんな担当を任されましたが、パティシエはまだまだ男の人の世界。力の必要な作業が多く、体力も求められる場面で自分の限界を実感しました。「できない人はいらない」という厳しい世界なのですが、より良いものを追求するためには当然だと思いました。

おいしいお菓子の基本となる「生地作り」についても、力のいる仕事なので、次第に男の子の同期や後輩に優先して仕事が回っていきました。正直、ショックでしたね。

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― 自分のやりたいことができない、ってかなりつらそうです。

最後には理想と現実のギャップを感じストレスを抱え、ハードワークだったということもあり体を壊してしまい、辞めざるを得なくなりました。

支えがあって今がある

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― 退職してからはどのような生活を送っていたんですか?

精神的にも疲れていたので、しばらく休んでいました。次第に体調が戻ってアルバイトを始め、お菓子作りにも挑戦したのですが、いざ作ろうとすると涙が出ちゃって...。もどかしくて、つらい時期でした。

そんな時、友達が「今までお疲れ様」と、気になっていたお店の焼き菓子をプレゼントしてくれたんです。それを食べたら、びっくりするほどおいしくて。

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次に何をするか決めかねていましたが、「私もこういう焼き菓子を作りたい!」と思い、再挑戦を決めました。

それから、青森や仙台で働き、お菓子を作っていましたが、次第に「私が自信を持って出せるお菓子を作りたい」と考えるようになりました。誰にも何も言われず、自分のお菓子で挑戦したい...だったら、自分でやるしかないと思い、地元に帰ってきました。

― 起業する際、不安はありませんでしたか?

オープン当時は毎日不安でした。自分の好きなことだけをできればいいのですが、やはり売り上げがないとやっていけないですし。「私はこれがおいしいと思っているけれど、受け入れてもらえなかったらどうしよう」という気持ちもありました。

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M lab.の商品の値段は、一般的なものより高めです。それを受け入れてくれる、それでも食べたいと思ってくれる人たちに支えられて、何とか続けらてれています。今後もファンになってくれた人たちに喜んでもらえるよう、頑張りたいです!

こだわりを形に

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― お父さんの会社と協力して、新しいことに挑戦していると聞きました。

父の会社の新平堂では、伝統的な川連塗りの技術を生かした仏壇・仏具等の製造・修復をしています。そして2021年、私と父で新平堂の塗装技術を取り入れた「現代漆器」を共同開発し、焼き菓子とのセット販売を始めました。

デザイン性のある現代漆器を、M lab.の商品と合わせて販売するのは父のアイデア。当初は不安だったものの、お客さんがその話に興味を持ってくれたので、売りたい色を自分で調合し、かわいいと思えるものを作りました。

そして商品化したのが、七夕をテーマにした現代漆器です。カーブのグラデーションは天の川を、大きな金銀箔は織姫と彦星をイメージしています。

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<現代漆器には、川連漆器の塗装技術や特徴が反映されている>


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<六角のデザインは父の髙橋恒仁(たかはし つねひと)さんのこだわりで(写真右)、配色は美月さんが考案した>

― 美月さんのこだわり、どんどん反映されていますね!今後のビジョンを教えてください。

焼き菓子は、予約販売か、地元スーパー・イベント出店といった、近場でしか販売できていません。なので今後はオンラインショップにも力を入れて、M lab.の輪を広げていきたいです。

実店舗を持たないんですか?とよく聞かれるのですが、今は焼き菓子作りだけに専念したい。また、1人では店舗経営まで手が回らないのが実情です。ですが、私と同じ気持ちで、同じくらいのこだわりをもって一緒に全力で楽しんでくれる方がいれば、すぐにでも行動を起こすと思います!

【M lab.(エムラボ)】
《住所》秋田県湯沢市川連町大田面28−6 (有)新平堂2階
※要来店予約(詰め合わせ等の注文は要予約)
《連絡》TEL 070-1140-7095
《HP》https://mlab-yakigashi.stores.jp/
《インスタグラム》https://www.instagram.com/mlab.yakigashi/

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/

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