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リスキーだけど、僕は秋田で羊牧場をつくる。ハピー農場 武藤達未

将来、秋田で羊牧場を開こうと夢見る若者がいます。その若者とは、北海道出身の武藤達未(むとう たつみ)さん。

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《名前》武藤達未(むとう たつみ)
《生年月日》1997年1月10日
《出身》北海道白糠郡白糠町
《経歴》秋田県立大学 生物資源科学部を卒業後、ハピー農場(大仙市協和)へ就職。現在2年間の研修期間中で、将来は独立し、県内に羊牧場を開く計画を立てている。

「秋田から全国へ高質な羊肉を提供できる牧場を作りたい」というのが彼の夢。将来的には200頭以上の羊を育てられる牧場にし、羊肉や羊毛を活かしたあらゆるサービスの展開も考えているようです。

夢への計画はどこまで進んでいるのだろう。そしてなぜ、羊牧場の例が少ない秋田で挑戦するのだろう...。あきたびじょんBreak取材班は、武藤さんの思い描く「羊牧場の構想」を取材しました。

ざっくり!
武藤さんが思い描く「羊牧場の構想」とは?
①高質な羊肉・羊毛を提供します
②多角的なサービス提供を計画中
③2021年4月から羊牧場スタート

きっかけは大学のサークル

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― いつ頃から牧場経営に興味を持ちましたか?

実は僕、大学3年の頃まで将来何をするのかを決めていなかったんです。実家では父が羊牧場を営んでいますが、それまでは実家を継ごうとも、どこに就職するかも考えていませんでした。どこにでもいるような、将来の夢を持てない大学生の1人だったわけです(笑)

牧場への意識がぐっと強まったのは、大学4年の頃。「つむぎサークル」を設立してからですね。教授から羊毛クラフトワークの体験談を聞いたのがきっかけでした。あまりにも楽しそうに話されていたので、興味が湧いたんです。

つむぎサークルは、羊毛の生産・加工・流通に関する研究を通して、人・自然・地域をつむぐ活動を目的とした団体です。県内であらゆるワークショップを開催しました。

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<サークルのメンバーと染色した羊毛を使って作った作品>


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― 「つむぎサークル」で印象深かった活動は?

大学祭で羊毛クラフトワークを実施した時ですね。つむぎサークルはまだ設立して間もなかったので、イベントスペースは目立つ場所に用意できませんでした。それにも関わらず、1日200名ほどのお客さんが来てくださって...。それで気がつきました。「羊毛に興味を持ってくれる人がこんなにいるんだ!」って。

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羊毛ってねじれば糸になるし、束ねたらフェルトの材料にだってなるんです。さらには羊毛クラフトワークのように、子供が楽しんで取り組める"学び"にも繋がります。つむぎサークルの活動を通して、羊毛の使い道は衣服だけではなく、いろんな可能性を秘めているんだ!ってことにも気づけました。

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こんな体験をもっと増やしたい。羊の魅力を発信したい。...と思ったのですが、当時の僕は4年生。急いで就職先を探さなければいけない状況でした。

北海道で実家の牧場を継ぐ選択肢もありましたが、やっと見つけたコミュニティや熱量を失うのはもったいない...だから秋田で「羊」に携われる場所を探したんです。そこでご縁があったのが、ハピー農場でした。

ハピー農場での出会い

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― ハピー農場へ就職する決め手はどこに?

ハピー農場は比内地鶏やうさぎをメインに育てていますが、小規模ながら羊も育てていました。さらにその頃は、吉川社長が「秋田県緬羊(めんよう)生産組合」を立ち上げるタイミングでもあったので、羊好きの僕にとってぴったりだなと。

ここで2年間研修させていただいた後、独立を計画しています。

※秋田県緬羊生産組合とは?
2019年4月設立。県内の畜産農家が羊肉の拡大を目指し、飼育技術の向上や安定供給できる体勢の確立に取り組む。組合長はハピー農場 吉川周平 社長

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ー おっ、かわいい~!

この羊はつい先日、北海道からやってきたオスの羊です。サフォークという種類で、ニュージーランドとオーストラリアから来た血統ですね。サフォークは国内で1番の飼育頭数を誇ってるんですよ。

この子はまだ2歳になったばっかりで80キロくらいですが、いずれは100キロ以上になります。

― 羊肉って「ラム」や「マトン」と種類がありますよね?違いを知りたいです。

「ラム」は生後1歳未満の羊肉のことで、一番人気があるお肉です。ラム肉は柔らかく独特のクセがないので、初めて食べる方におすすめの羊肉ですね。「マトン」は生後2歳以上の羊肉のことで、羊本来の深みを感じれるお肉ですよ。

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― (みんなこっち見てる...)

こちらは群れで育てている羊のメスです。結構人見知りするので、少し警戒していますね(笑)もともと羊は群れで行動する動物なので、先頭にいる羊と同じ様に動くんです。

羊の毛を触ってもらうとわかるのですが、すこし油っぽくなっています。これは害虫や汚れから守るため、ラノリンという蝋(ろう)の成分を分泌しているからなんですよ。雨を防ぐ撥水効果もありますね。

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<マンクスロフタンという羊。角の生え方は個体差がある>


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― このうさぎ...なんだか大きくないですか?

このうさぎはずっと昔から秋田の人が改良を重ね、現在まで引き継がれてきた県特有の大型の白うさぎ、「ジャンボうさぎ」です。この子は3キロくらいあるんじゃないかな。

― ジャンボうさぎって県特有のうさぎだったんですか!?

そうです!だけど今となってはジャンボうさぎを育てる人が少なくて、絶滅寸前なんですよ。だから僕が独立したら、羊と一緒にジャンボうさぎも育てられる牧場をつくりたいと思っています。

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<日本でうさぎを大規模飼育している農場は少なく、秋田でこれだけ多くのうさぎを育てるのはハピー農場だけ>


― うさぎは全て箱飼いなんですね。

そうですね。うさぎって群れで育てると、かなり運動しちゃって大きくなれないんです。他にも伝染病やケンカのリスクもあるので、おかげさまで毎日のお世話が忙しい(笑)

ハピー農場は社員8名に対し、比内地鶏2,000羽、うさぎ1,200羽、羊30頭を育てています。毎日少ない人数での掃除やエサやりは忙しいですが、学ぶことの多い現場です。

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<勤務時間は8時~17時。1日かけて掃除、エサやり、消毒、子供を産むための分娩・交配作業をする>

 秋田×羊の可能性は無限大!

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僕が秋田で羊牧場をやりたい!と思っている理由は、秋田と羊って無限の可能性を秘めているからなんです。

― その可能性とは?

例えば、羊肉と日本酒との組み合わせ。羊のお肉ってワインに合うのは有名ですが、実は日本酒とも相性がいいんです。ある時、お酒のつまみとして羊肉をあわせたら、これがめちゃくちゃ美味しくて。

独立して、美味しい羊肉を提供できるようになったら、この感動をいろんな方に届けたいと思っています。

秋田は本当に美味しいお酒が多いですよね。大学時代、居酒屋のバイトをしていたり、友人と飲み比べしていたら、もうすっかり日本酒の虜になりました(笑)

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秋田の農産物を活用した牧場経営も考えています。羊って好き嫌いが少ない動物なので、枝豆やりんごも食べるんです。

つい先日、県内の枝豆工場を見学したのですが、そこでは規格外として廃棄されている枝豆がちらほらあって。だから、そんなもったいない部分を活用した牧場経営もできたらなと考えています。秋田の農産物で育つ羊、きっと美味しいはずです!

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羊ってかわいいし、魅力のある動物だと思うんです。そんな羊を通して、牧場を見学してもらえたり、秋田の風土や食も楽しんでもらいたい。

そして羊肉や羊毛をただ提供するだけじゃなく、子供も大人も楽しめるような、それこそ「つむぎサークル」で僕が体験したようなクラフトワークなど、多角的なサービスを提供したいですね。

 リスキーだからこそ挑戦する意味がある

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― 独立するタイミングはもう決まってるんですか?

2021年4月にはハピー農場を出て、独立を予定しています。秋田市河辺の小平岱で羊牧場を開き、羊とうさぎを育てます。

スタート時は、羊より短い期間で収益化できるうさぎをメインに育て、徐々に羊も増やしていけたらなと。最終的に羊は200頭以上育てる予定です。

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― 全国的にも羊の大規模飼育技術が未確定な中、その挑戦はリスクがあると思うのですが...

かなりリスキーですよ(笑)
でも、それが結局自分のやりたいことなので。

もちろん実家の牧場を継ぐ人生もあったとは思いますが、敷かれたレールの上を進んでもきっと面白くない。だから今、この瞬間、この歳でしか挑戦できないことを満足いくまでやり通したいんです。

今後の僕の活動が、秋田の活性化の材料のひとつとなればとも思います。

【有限会社 ハピー農場】
《住所》秋田県大仙市協和峰吉川半仙29−39
《連絡》TEL:018-895-2227
《業務》肉の販売(鶏・うさぎ・羊)など