ユリ農家に転身した男が手にしたワーク・ライフ・バランスとは?鹿角市 片岡陽
やりがいや充実感を持って働く。子育てや趣味にかける時間がある。そんなワーク・ライフ・バランスを実現した生活を送るユリ農家が、秋田県鹿角市で活躍しています。
《名前》片岡 陽(かたおか よう)
《生年月日》1983年1月15日
《出身》秋田県鹿角市花輪
《経歴》勤務していた会社を退職し、鹿角市内のりんご生産者の下で栽培技術を研修。その後、花き経営に将来性を感じ、シンテッポウユリなどの栽培を始める。仕事・子育て・趣味のバランスを意識した生活を心掛けている。平成30年「ふるさと秋田農林水産大賞 担い手部門」受賞。
仕事に充実感ややりがいを感じ、子育てや趣味にかける時間が多くある...なぜ片岡さんは、こうした生活を送ることができているのでしょうか。片岡さんに取材しました。
ざっくり!
ユリ農家に転身した男が手にしたワーク・ライフ・バランスとは?
①自分にあった働き方をできるようになった
②子育て・趣味にかける時間が増えた
③従業員にも働きやすい職場環境を提供することができた
「ユリ農家」を選んだ理由
― ユリ農家に転身したきっかけが知りたいです!
会社を辞める前は結婚前で、いろいろと考えることもありました。「この先結婚して仕事が忙しくなれば、もし子供が産まれたときに構ってあげられないな~」という悩みとか。
そこで、ユリ農家に転身しようかな?って思うようになって。
― 数ある職種の中でなぜ「ユリ農家」に?
父が楽しそうに仕事をしている姿を見て、興味を持ったのが大きいですね。
それなら必要な機械も揃っていたし、鹿角には十分な土地もあった。現在、僕がなりわいとしているユリ栽培は、比較的スタートしやすいところにあったんです。
― なぜこの道に可能性を見いだしたんですか?ある意味、賭けの部分が強いと思いますが...
やっぱり、父がやっていたというのが一番大きい要素かなと。あとは、鹿角市の農業技術研修も受けることができて、そこでノウハウを学べたのが自信になりましたね。
父もやっている、必要な機械が揃っている、ノウハウを学んでいる...それに加え、やってみたい!という、今まででは感じることのなかった熱量もあったので。
父もユリ栽培をしていますが、僕は僕でユリ栽培をしています。栽培方法も会計も別々で、父は同業者であり、ライバルでもあります。
<畑やビニールハウスは父親のものと隣接>
一筋縄ではいかないユリ栽培
― 1年目の成果はどうでしたか?
ここだけの話、1年目が一番うまくいきましたね(笑)
最初はやっぱり慎重で、真面目に防除作業(※)をしたり、花の様子をこまめに確認するので、一番上手にいきました。2年目、3年目は経費を削ったり、自分流に工夫をしたりと挑戦した結果...ユリの数量が減少することもありましたね。
※防除作業とは?
病気や害虫がつかないように薬剤を散布すること。
<現在育てている品種はシンテッポウユリ雷山2号セレクト>
― ユリ栽培は簡単なものではなかったんですね...
ユリは比較的育てやすい花とされていますが、難しい点もたくさんあります。例えば、出荷のタイミング。ユリの需要が1番高まるのはお盆の時期で、"お墓に供える花"として時期的ニーズが高まるんです。
ユリ農家は、そんなニーズにあわせたタイミングに開花するよう育てなければいけなくて...花が咲くタイミングは技術や肥料だけで補えず、天候によっても左右されるので、結構難しいんです。
<出荷する際はつぼみの状態。ちょうどお客さんの手元に渡る頃に開花するよう調整している>
<出荷ピーク時の防除作業は3日に1回ペース>
防除作業をしようと思った日、娘が動物園に行きたい!と言い出したので、防除をせずに秋田市へ行きました。その時は「明日やればいいか~」くらいの気持ちでいましたが、翌日はまさかの雨。雨の日はできないので、どんどん病気が進行し、数本間引くことになりました。
そういう苦い経験をしているので、毎年防除が頻繁に行う出荷ピーク時期は、かなり神経を使ってますね。「咲くのかな?咲かないのかな?」って毎年不安になりながら作業してます(笑)
仕事につながる趣味がある!
「僕の趣味とユリ栽培」ってかなり相性がいいんですよ。
― 趣味とユリ栽培?
僕、ドラムを叩くのが趣味なんですけど、これがユリ栽培に活きているんです。
鎌の持ち方、ドラム持ちなんです(笑)
この持ち方でユリを切っていると、ドラムの練習にもなるんですよね。さらにはドラムを練習してるおかげで、肩こりや腰痛、足の痛みが減ったんです!これはドラムが全身を使う楽器なので、血行がよくなり、筋肉がついたからだと思います。"趣味が仕事につながる"とは、まさにこのことなのでは!?
― ドラムの練習はご自宅で?
ビニールハウスの中でやってますよ!
― えっ!!ここでドラム練習しているの、世界で片岡さんだけなのでは!?
そうかもしれませんね(笑)
日中、隣接しているビニールハウスの中で父が水やりをするのですが、同じ時間帯に水やりしちゃうと、井戸が枯れるんですよね。だから僕は、時間をずらして夜に水やりをするようにしてるんです。
<ビニールハウスではトルコギキョウを栽培>
<トルコギキョウは温度管理・防雨・防霜の徹底管理が必要なため、ユリよりも神経を使う>
トルコギキョウの水やりは機械を使うので自動。となるとその間、特別やることがないんです。そこで「水やりの見張り番」という名目で、趣味の時間を満喫しようかなと。
遊びながら仕事して...いいでしょ?(笑)
<近所迷惑にならないようドラムセットは静音仕様にアレンジされている>
フレキシブルな職場をつくる
― 片岡さんの畑は、1人で管理しているのですか?
スタートは1人でしたが、今はパートさんを雇って管理していますね。お盆の出荷ピーク時には、子供のいるお母さんたちに数名来ていただいています。
― 子供のいるお母さんを雇う理由は?
お母さんたちって「仕事をしたいけど、子供の送り迎えや病気の対応があるから働きにくい」という問題を抱えていると思うんです。そこで「子供の事情に合わせたフレキシブルな勤務でいいですよ」という募集をかけることで、お母さんたちに働く場所を提供できる。
そうやって地域貢献していけたらいいなって。8時~17時がっつり勤務してもらえたらありがたいですけど、結局お母さんたちは集まらないと思うので、フレキシブルに。
<ユリをオーダー通りの長さにカットする機械>
<仕分け・カット・梱包と役割分担し作業する>
人間的に、大切なこと。
― ワーク・ライフ・バランスを意識した経営はいつから?
特に意識していませんが、子供の頃の体験が今に繋がっていると思います。
僕が子供の頃、父は仕事で忙しくて、一緒に遊んだ記憶があまりないんですよね。それってちょっと寂しいじゃないですか。だから自分が父親という立場になった今、できる限り子供と一緒にいたいと思うんですよね。いっぱい構ってあげれたらなって。
我が子のことを考えたら、絶対「自由な時間」があったほうがいいって思うんですよね。
僕自身も歌いながら仕事したり、その合間に趣味のドラムを叩いたり、楽しく時間を使っています。会社員時代には感じることのなかった熱量も感じています。
仕事はまだまだ安定してないのでお金の不安はありますが、子供と一緒に入れる時間のほうが、趣味にかける時間のほうが、人間的に大切なのかなと。僕はそう思っています。
【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/