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秋田県内で唯一「棒アナゴ」を作る漁師の思い 株式会社兼丸漁業 伊藤徳洋

皆さんは「棒アナゴ」を食べたことはありますか?

これは「クロヌタウナギ」という深海生物を干して作る加工品のことで、ビールや日本酒と相性のいい秋田の珍味なんです。

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厳密には「クロヌタウナギ」を天日干しして棒状に加工をしたものが「棒アナゴ」です。本記事中では、「棒アナゴ」に表記を統一しています。

珍味とされている棒アナゴ、秋田ではある漁業会社でしか作られていないのを知っていましたか?そこであきたびじょんBreak取材班は、4年前から棒アナゴを作り始めた潟上市の兼丸漁業へお話を伺うことにしました。

今回取材に対応していただいたのは、この日も朝から棒アナゴ漁に出ていた伊藤徳洋(とくひろ)さん。

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《名前》 伊藤 徳洋(いとう とくひろ)
《生年月日》1983年10月22日
《出身》秋田県潟上市
《経歴》男鹿海洋高校卒業後、兄が設立した株式会社兼丸漁業の漁師となる。海底に網を沈めて中に入ったものを全てすくう「底引き網漁」を主に担当する傍ら、イワガキ漁場再生へ取り組む天王潜水漁業者会の会長を務める。2019年に開催された「第39回全国豊かな海づくり大会 あきた大会」では県中央部の若手漁業者の代表としてスピーチを行った。

兼丸漁業は県内では珍しい"家族で経営している漁業会社"で、徳洋さんのお兄さんや弟さんも漁師として活躍しています。

棒アナゴを作るようになったきっかけは、秋田で唯一、棒アナゴを作っていた男鹿の漁師さんの引退にありました。当時、兼丸漁業の代表だった父、伊藤公男(きみお)さんがその伝統の加工方法を受け継いだと言います。

秋田が誇る珍味・棒アナゴ!

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― これが、棒アナゴ。

体長は30~50センチメートルほどで、名前はウナギと言われていますが顎も骨格もエラもなくて、厳密にいえば魚類でもありません。表面がヌルヌルしているのが特徴ですね。

― 棒アナゴ漁の技術継承は難しいものでしたか?

色々と難儀した部分が多いですね。棒アナゴを獲る技術というよりも、加工する技術のほうに頭を悩まされましたね。兼丸漁業の棒アナゴは、獲ってそのまま販売せず、みなさんが調理しやすいようにぬめりや内臓を取り除き、しっかりと干してから販売しているんです。その加工作業が、思っていたよりも大変でした。


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<棒アナゴの内臓を熟練の手技で取り除く作業>


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<棒アナゴのぬめりを水で取り除く作業。ぬめりは下に溜まる>


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<ぬめりをとった後は天日干し。気温や湿度によって乾燥時間が異なる。早ければ2時間、場合によっては最長6時間干すこともある>


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<全量を干し終える頃に姿を現す「棒アナゴカーテン」は圧巻>


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<仕上げにキッチンペーパーで再度ぬめりを取り除く>


当初はラップをして販売していたのですが、それだと水分が抜けて油脂が酸化し、食感・風味が落ちてしまうことに気づいたんです。なので今は真空パックを使って、長時間鮮度を保てるように工夫しています。

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この棒アナゴ、1本どれくらいの値段するかわかりますか?

― うーん、600円くらいですか?

いやいや、実は1本1,200円するんです。大きさにもよりますが、だいたいそれくらい。「ちょっと高いかな」って思うかもしれませんが、その分、手間と時間がかかっているので。

でも"秋田の珍味"と言われるだけあって焼くと皮がパリパリ、身がコリコリしててめっちゃ美味いんですよ!日本酒やビールとあわせて食べるとそれはもう...美味いっすよ!食べたことのない方にはぜひおすすめしたいです。

― 兼丸漁業で加工された棒アナゴは、どこで購入できますか?

スーパーセンターアマノ男鹿店や道の駅おが、秋田市市民市場の安亀商店さんなどで購入できます。あとは道の駅てんのうに出店している「カネマル水産鮮魚店」ですね。

<兼丸漁業の棒アナゴが買える場所>
・スーパーセンターアマノ男鹿店(秋田県男鹿市船越字内子156)
・安亀商店(秋田県秋田市中通4-7-35 秋田市市民市場内)
・カネマル水産鮮魚店(秋田県潟上市天王字川上谷地109-2 道の駅てんのう内)
・道の駅おが(秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-19)
ポケットマルシェ(ネット販売) など
※季節により出荷数が異なります

販路拡大でより多くのお客様に

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― 道の駅てんのうには直営店があるんですね。 

ここでは、その日に兼丸漁業で獲れた新鮮な魚を販売しています。海鮮丼などが食べられる食堂も併設されているので、日本海の海の幸を堪能することができますよ。

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お店がオープンしたのは2018年。魚の値段が徐々に下落する一方で、なにかアクションを起こさなきゃ変わらない!という思いから直営店をスタートさせました。

最初は不安もありましたが、日に日に常連さんも増えてきて。ありがたいことに今ではお店を開くとすぐに魚が売れてしまう...という状況です。たまに僕もヘルプでお店に立っていることがあるので、見かけたら声をかけてくださいね!

【カネマル水産鮮魚店】
《住所》秋田県潟上市天王字江川上谷地109-2 道の駅てんのう内
《概要》鮮魚や自家製惣菜の販売、食堂
《営業時間》9:00~18:00

― 何かアクションを起こさなきゃ!という思いからネット販売も?

そうですね。6次産業(※)に興味があったので。
ポケットマルシェ(農家・漁師さんが直接ネット上で旬の食材を出品・販売するオンラインマルシェ)を利用して魚を購入してくださるのは首都圏のお客様が多く、結果的に販路が拡大できてよかったなと思っています。購入していただいたお客様から「美味しかったです!」という声が届くと、漁師やっててよかったな~と感じますね。

※農業や水産業などの第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態のこと。

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<ポケットマルシェでは旬の魚やカキを販売している>


秋田の漁師が語ること

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― 徳洋さんは最初から漁師になると決めていた?

海洋を学べる高校に進学していたけど、そうでもなかったです(笑)

漁師を意識したのは高校生の頃に漁の手伝いをした時。船の上から大量に水揚げされた魚を見て心が震えて、なんかロマンあるな~って。

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実際に海に出て大漁だった時は嬉しい...けど実際は不漁の時ももちろんあって。一度海に出たら陸に帰れず、体力も気力も必要な職業ですが、やっぱり楽しさが勝るんです。

― 楽しい部分とは?

自分の研究した漁の方法で結果が出たときですね。
魚って、ずっと同じ方法で漁をしていると、徐々に漁獲量が減ってくる。だから僕たちも常に漁のテクニックをアップデートしていかなければいけないんです。どうしたらより多く獲れるかを自分なりに研究して大漁だったときは、めっちゃ嬉しいですよ。

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― 「第39回全国豊かな海づくり大会 あきた大会」ではこれまでの活動が認められ、県中央部の若手漁業者の代表としてスピーチしていましたね。

獲りっぱなしでは増えにくいイワガキなどの水産資源をいつまでも利用できるよう、漁場の清掃活動や、レイシガイやアカニシガイといった害敵の駆除にも取り組んでいます。そういった活動が認められたのはすごく光栄でした。これからも豊かな海を引き継いでいけるよう、将来の資源と漁場を守るための活動も続けていきたいですね。

<徳洋さんのスピーチは41:29頃から(YouTubeより)>


漁師らしく夢を持って

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― 全国的に漁師が減っている現状をどう考えていますか?

漁の楽しさを知ることで、後に続きたいと思う人が出てくるのかなと。漁師は決してお先真っ暗ではありません。努力次第でいい方向にいきますし、楽しさだってある。

しかし漁師が減っているのは事実です。担い手がこのまま減少傾向だと、漁師の在り方も変化するんじゃないかな?むしろ漁師自身が販路拡大をして6次産業化を図らなければ、この先、生き残れないとさえ感じています。

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― 6次産業化を実現した兼丸漁業。今後のビジョンを教えてください。

自社からすぐに直送できるシステムが備わった飲食店向けのオンラインショップをつくりたいですね。あとは、お魚のお惣菜を売ったり、その場で魚を焼いたりできる移動販売車。まだまだ構想の段階ですけど、漁師らしく夢を持って実現させたいと思います!

【株式会社兼丸漁業】
《住所》秋田県潟上市天王字宮の後232
《業務》漁獲、魚介の加工・販売 など

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/

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