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困難を乗り越えた"矢島のブドウ農家"を知っていますか?TOYOSHIMA FARM代表 豊島昂生

秋田県由利本荘市矢島町。

秀麗な姿を魅せる鳥海山。そして、日本海に注ぐ一級河川・子吉川の流れと共に広がる美しい田園風景は見るものを魅了します。

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「数年後、この風景は残っているのだろうか?」

矢島の美しい風景が、一人の若者の心を動かします。

地元の風景を守るため都会からAターン...そして彼が始めたのは、県内でも珍しいとされる"ワイン用のブドウ農家"でした。

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《名前》豊島 昂生(とよしま こうせい)
《生年月日》1990年4月20日
《出身》秋田県由利本荘市矢島町
《経歴》Aターン後、「未来農業のフロンティア育成研修」などを経て、2016年にワイン用ブドウ農家となる(TOYOSHIMA FARM 代表)。2020年には白ワイン「白颯(しろはやて)」とスパークリングワイン「彩り」の2種類、計2,700本を初めて生産した。

ブドウ農家を始めてから5年目となる豊島さん。2020年には、自身が育てたブドウでワインを造ることに成功しています。

取材を進めていると、豊島さんの「秋田はワイン用のブドウ栽培に適していない土地なんです」という言葉に引っかかりを覚えました。

なぜそんな秋田で生産し続けているのだろう...農業では風土にあわせた作物を育てるのが妥当ではないのか。なのに、どうして。

気になる矢島のブドウ農家にさらに深く聞いてみました。

ざっくり!
 矢島のブドウ農家・豊島さんはこんな人
①就農5年目でワイン醸造・販売に漕ぎつけた
②ワイン用ブドウの栽培に適さない環境でも生産し続ける
③ワイン委託醸造のためクラウドファンディングを活用

就農5年目にして漕ぎつけた農家ワイン

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― 自分が育てたブドウがワインになる。率直な今のお気持ちは?.

ワインができて嬉しい...というより、ホッとしています。ようやくブドウ農家のステージに立てた!という感覚ですかね。

2020年に販売できたのは、白ワイン「白颯(しろはやて)」とスパークリングワイン「彩り」の2種類。月山トラヤワイナリー(山形県)へ醸造委託し、なんとか販売まで漕ぎつけました。

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<フレッシュな酸味やスッキリした飲みごごちが特徴の辛口ワイン>


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<ややピンク色な見た目と華やかな香り、スッキリした酸味が特徴の辛口スパークリングワイン>


― 初めてのワイン、売れ行きはどうですか?

ありがたいことに秋田県内のみならず、県外からの注文も多く承っています。中には3回もリピートして買ってくださる方もいて、本当に嬉しく思います!

TOYOSHIMA FARMではワインのほかにも、果汁100%のブドウジュースも販売しています。ブドウ農家を始めたての頃はワインの販売免許を所持していなかったので、ブドウジュースを製造するところからスタートしたんですよ。

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<「濃厚なのに後味すっきり」な大人のブドウジュース。砂糖・酸味料・水・保存料を一切使用していない>


ワインに恋するブドウたちスパークリング

<濃厚なブドウ果実味に加え、微炭酸の爽やかな飲みごごちが特徴なスパークリングジュース>


「ワイン用ブドウだけで製造した果汁100%のスパークリングブドウジュース」って、かなり珍しいようで。ネットで検索しても、自分の商品しか見当たらないんですよね。

― もしかして...日本初ということですか!?

そうかもしれませんね。

ご存知の通り、水に炭酸を入れるのはすごく簡単なんですけど、果汁のみに炭酸を入れるのはそう簡単ではなくて。そして、ワイン用ブドウで試した前例が見当たらない...。それならぜひ挑戦してみたい!と思い、本格的に取り組みました。その結果、なんと県外の2つの会社と協力して開発したオリジナル製法で商品化することができたんです!

このジュース、深みやコクが特徴的で大人の味わいが楽しめますよ。

<TOYOSHIMA FARMの商品が買える場所>
TOYOSHIMA FARM オンラインショップ
・Aコープやしま店(秋田県由利本荘市矢島町七日町熊之堂131-1)
・物産館ゆりぷらざ(秋田県由利本荘市東町15)
・あきた県産品プラザ(秋田県秋田市中通2丁目3−8 アトリオン地下1階)
・NEED THE PLACE(秋田県秋田市南通亀の町4-15 ヤマキウ南倉庫 1階)

困難な土地でも生産し続けられる理由

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― そもそも豊島さんはなぜブドウ農家に?

「矢島の風景を守りたい」と思ったとき、新潟や長野、山梨県でワイナリーを中心とした地域活性化の事例を見つけたのがきっかけですね。

栽培したブドウをワインにする、そのワインを地元の食材と合わせてお客様に提供する、地元飲食店とのコラボをしたり...。その姿に六次産業化の可能性を見いだし、これなら本当の意味での地域活性化や持続可能な農業が地元でできるかなと。

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<1ha(100m×100m)の畑に約4,000本の苗木を植えている>


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<育てているのはメルロー、ピノ・ノワール、富士の夢、シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、北天の雫の6品種>


― ブドウ栽培やワインの醸造知識はどのようにして身につけた?

僕の場合、ワイナリーに勤めた経験もなければ海外へワイン留学をしたわけでもありません。完全に手探りの状態から始めました。

ほとんど知識が無かったので、まずは横手の果樹試験場で研修を積みました。その後は県外への視察・研修を重ね、2016年からワイン用ブドウ栽培をスタートした、といった感じですね。

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<毎朝5時に起床したった一人で防除作業や園内管理をする>


ブドウを栽培するための土地をお借りし畑を耕し、苗を植えるまでは良かったのですが...育てているうちに気づいちゃったんです。

「秋田、ワイン用のブドウ栽培に向いてないな」って(笑)

― 秋田県は適していないんですか?

そうでしたね。やってみてわかりました。

秋田は日照時間が少なく雨の多い地域です。なので、他の地域よりブドウにカビが生えやすい。おまけに冬は雪が降るので、管理が徹底していなければブドウを支える支柱が折れたり、ワイヤーが切れたりしてしまい全てがダメになるんです。

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<支柱からワイヤーを取り外せるような工夫をしている>


剪定だって大変です。雪が降らない地域は春先に行うのですが、秋田の場合、雪が降り始める前までに終わらせなければいけなくて...。毎年「まだ降るなよ~!」ってお願いしながら死に物狂いで剪定してます(笑)

― 困難な土地でもしっかりと育つ理由は?

ひとつは工夫ですね。

例えば豪雪地帯の北海道では、「北海道仕立て」という方法でブドウを育てています。これは、雪が積もっても木が折れてしまわないように、斜めに育つよう植えていく...という栽培方法です。そうすると、クッション性が生まれて、雪にも耐えられるブドウへと成長していきます。

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<北海道で雪に耐えられる植え方を学び導入している>


元々の畑の質が良かった、というのも力強いブドウが育つ理由のひとつです。以前までこの畑を使っていた方たちがしっかりと管理してくれていたため土質が良く、水はけもよかった。

成長を促す肥料もほとんど使用していないんです。一番最初にこの畑を耕す時だけ肥料をあげたくらいで、あとは全然です。そういった恩恵があるから、困難な土地でもこうして元気に育ってくれているのかなと。

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大切なのは、割り切ること。

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― ワイン用ブドウを栽培するにあたって、意識していることは?

先ほども話したように、秋田はワイン用ブドウの不適合地です。なので、この場所では「重くてどっしりとした赤ワイン」は造れないと考えています。

だったらいっそのこと割り切って、「秋田の涼しさを感じられるようなフレッシュで伸びやかなワイン」を造ろうという意識を持っています。

無理してヨーロッパのワインを追いかけず、秋田ならではの農家ワインを作るほうが、自然ですよね。

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期待を背負ってどこまでも

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― 資金調達はどのように?

2019年には育てたブドウをワイン委託醸造するために「クラウドファンディング型ふるさと納税」という県の制度を知り活用しました。新聞やウェブメディアから取材していただいたこともあり、かなりのスピードで目標額の200万円を達成することができました。あの時はとても嬉しかったですね。

※クラウドファンディング型ふるさと納税とは?
ふるさと納税の使い道(事業)を明示したうえで、事業に共感する方からふるさと納税(寄付)を募ること。
2020年度では、比内地鶏の鶏頭を使ったペットフード「とっと とろとろ(仮)」を開発し、フードロス問題解決に取り組むプロジェクト(リンク)や、秋田市内の高齢者や子育て中の方の買い物を助ける「買い物代行サービス(リンク)」で実施されている。

― 続々と応援してくれる方が増えているのでは?

TOYOSHIMA FARMの関係人口がどんどん増えている実感がありますね。完成したワインを楽しみにしてくれる方もいれば、クラウドファンディングのように完成するまでの過程を応援をしてくれる方もいます。

そのような方たちの期待に応えられるよう工夫をして、質のよいワインやジュースをご提供できればなと思っています。

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― 今後のビジョンを教えてください。

今後は栽培規模の拡大とワイナリーを設立する予定です。嬉しいことに、秋田県の「令和2年度若者チャレンジ応援事業」に採択されたので、より質の高いワイン醸造を目指したいですね。

ただワイン用のブドウ栽培に適していない土地であり前例が少ない秋田なので、きっとどこかで失敗すると思います。だけど農業って「どう工夫をして壁を乗り越えるか」が醍醐味だと思うので、それも含めて楽しめたらなと。

【TOYOSHIMA FARM】
《HP》https://toyoshimafarm.com/
※畑の見学はご遠慮いただいております。

【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/