特撮女子の結婚 第四話
あらすじ:地方ローカルテレビ局で広報担当をしている美妃は、その地方のローカルヒーローを紹介するニュース番組の制作の中で、ヒーローや怪人の造型をひとりで担当する女の子・つばきと出会う。女子力どころか、造型に集中するあまり、不健康・不衛生でめちゃくちゃな生活を送るつばきに美妃は度肝を抜かれるが、その真摯に造型に向きあう様や考え方に魅せられながら、尊敬の念を抱くようになる。
「以上を持ちまして、本日のロケは終了させていただきます。おつかれさまでした。」
鵜崎さんが組んだスケジュール通りその日のロケは終了した。その日はアクション班、サウンドエフェクト班、造形班と、ローカルヒーローチームの裏方たちにインタビューをして終了。アクションの練習と、つばきの怪人倉庫ももちろん撮影した。後日、アクションチームが地元のお祭りや幼稚園でアクションショーをする映像を借りて、ニュース番組で流す二分間の映像を作る流れになった。
「今日はありがとうございました。放送される日程が決定したらご連絡します。」
「ご丁寧にありがとうございます。あ、柏南ケーブルテレビさん、良かったら明後日の同じ時間、空いてません?」
アクション班の総括リーダーの男性が、鵜崎さんに言った。
「今日、ここのOBの斎藤伸介が遊びに来るんですよ。ぜひうちのチームのPRに使ってください。」
「え、存じてます存じてます! すごい、でも大丈夫ですか? 今所属してるNAC(ニホンアクションクラブ)の許可取らなくて。」
「まあ、なんとかさせます。」
「ありがとうございます! 美妃ちゃん、機材まだ片づけないで。メイク直したいんだったら直しておいで。少しつなぎの場面撮ろう。」
「了解です。…鵜崎さん、斎藤伸介って誰ですか?」
「もー、たまにはググってよ! 柏南市出身の日本を代表するアクション俳優だよ!」
鵜崎さんが声を張って『斎藤伸介』の名前を出したとき、片付けを手伝いに来ていたつばきの挙動が少し、おかしかった。あきらかにこちらに聞き耳をたてていたのを私は見逃さなかった。
その日、初めて会った斎藤伸介というアクション俳優に私は既視感があった。 年齢は二十八歳で、普段は都内の大手事務所NAC(ニホンアクションクラブ)に所属していて、特撮ヒーロー番組の着ぐるみの中身や、時代劇のチャンバラを演じているらしい。ヒーロー番組にも時代劇にも興味のない私が知っているはずはなかった。
「おはようございます!」
十四時、六月らしい曇り空の下、約束の時間に現れた斎藤伸介は、人気俳優とは思えない腰の低さ、新人俳優のようなあいさつで私と鵜崎さんを驚かせた。ただ、さすがにスタイルが良く手足が長く、体幹を鍛えているせいか動きがきびきびとしていて、なんとなく古い体制の事務所や、年配の映画マンに可愛がられているところをイメージさせる男性だった。
「ひさしぶりだな、今日はどうしたんだよ改まって。」
先日私たちを誘ったアクションチーム総括リーダーの男性が、自家用車を降りてきた斎藤伸介を出迎えて言った。許可をとって鵜崎さんがカメラをまわしている。例の元食品加工工場の駐車場には、つばきや他のスタッフが出てきて斎藤伸介を出迎えていた。
「ええ。実はご報告がありまして。
この度結婚することになりまして、お世話になったオークアクションチームには最初にご挨拶したかったんです。」
「そうか! おめでとう! わざわざありがとうな。いや、電話でも良かったのに相変わらず馬鹿真面目だな。」
いい絵がとれた! 鵜崎さんがカメラをまわしながら小さな声で呟く。
「…マジかよ。」
一方で、消え入るような小さな声で誰かが呟いた。私の後方に立っていたつばきだった。その日のつばきは前回とは違ってメイクをしていた。前回と同じ絵の具まみれの黒いつなぎにヴィヴィアンのピアスは変わらないのに、ファンデーションを塗り、アイラインを引いて、うっすらコーラルピンクのリップを塗っていた。
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