バス停で待っていたら女の子に話しかけられた。
最近ちょくちょく目黒に行っている。身体の使い方についてのレッスン(アレクサンダーテクニークというやつ)を受けるためだ。普通は自転車で行くのだが、その日はあいにく雨予報だったので、バスで行くことにした。電車では良い交通手段が無い。
バス停までは歩いて5分かからないぐらいだ。交差点を対角に渡る必要があるので、信号の具合によってはもっとかかることもある。
最近はコロナの影響なのか、そもそもなのかは分からないがそのバス停は空いていた。僕の前に並んでいたのは2人。中年の男性が先頭で、その後ろに小学生の女の子がいた。私立の小学生らしく、制服姿だ。
待ち時間が数分ありそうだったので、本でも読もうかと思った時、前にいた小学校の女の子が振り返ってきた。
「すみません」
何だろうか。
僕はよく道を聞かれることが多い。バス停で待っていたら乗用車が停留所に留まり、病院の場所を聞いてきたこともあった。
だが、この状況で道を聞かれることはありえない。「私の学校どこですか」みたいな展開はありえない。
女の子の口が開いた。
「チャージするのでお先にどうぞ」
・・・なんっっっっと礼儀正しいことか。
そんなことは普通言わない。仲の良い友人同士だったら「先に行けよ」と譲ることもあるかもしれない(やったことない)。だが、見ず知らずのマスク姿の男に話しかけ、順番を譲るとは。
人間捨てたもんじゃないな。
そう思いバスに乗り込む。PASMOを当てる。
料金は210円だ。電子マネーだと数円安くなるようだが、いちいち覚えてはいない。
PASMOの残額は170円だった。
「…チャージをおねがいします」
いそいそと1000円をチャージした。
後ろは決して振り返らないようにした、一番後ろの、端っこの席に腰をかける。本を開いた。字面は追えるが、どういうわけか内容が頭に入ってこなかった。
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