台にアニバーサリー【毎週ショートショートnote】
――いよいよだ。
目が覚めるや、俺は大きく息を吸い込んだ。
いつもどおり時間のない朝。それでも辛うじてトーストと珈琲だけは腹に入れる。
大事な日だ。遅刻はご法度だが、腹が減っては戦はできない。
渋滞もなく順調に到着する。幸先がいい。
このタイミングで事故ろうものなら、目も当てられない。
本番前。俺は入念に鏡を覗き込む。
頭髪、よし。
整えた爪は、汚れの欠片もない。
今日まで数多の指南書を読み漁り、何度も何度も練習を重ねた。
あとは相手に向かう度胸あるのみ。
なのに胸の鼓動ははち切れんばかりで……
「先生、時間です」
俺はそっと息を吐く。
「12月18日14時39分、手術を開始する」
そう、今日は俺が初めて指導医なしで手術の執刀をする日。
看護師から渡されたメスを握り、心の中で手術台の上の患者に声をかける。
――悪いな。でも全力は尽くすから。
今日が医師としての、俺の本当の出発点だ。
俺は手術台を軽く拳で叩く。
長い付き合いになるけど、よろしくな。
俺の腕と患者の未来に幸運を。
Happy Anniversary。
(440字)
文字数オーバー、すみません(汗)
【あとがき】
『毎週ショートショートnote』二周年、おめでとうございます!
最近、すっかりご無沙汰で……
いちおう作品は書いているのですが、なかなか筆が進まず、余裕がないというのが正直なところです。
それでもやはり道場の開場二周年とあらば、僭越ながら参戦をと思ってこっそり投稿させていただきます。
たらはさん、そしてご参加のみなさん、本当におめでとうございます!!
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