十年パンイチ【毎週ショートショートnote・裏お題】
俺は職場で「十年パンイチ」と言われている。
と言っても、十年間パンツ一枚で過ごしているヘンタイではない。
要は「十年間、出版業界一筋でやってきた男」、即ち ” 十年パンイチ ” だ。
小さな出版社だが編集者として十年、いろんな作家と組んだ。
才能のかたまりみたいな奴もいれば、ただ時流に乗っただけの中身の薄い奴もいた。
「○○先生は扱い難しいから、おまえ頼むよ。よっ、十年パンイチ!」
だが尊大で有名な売れっ子作家の彼は、あっさり俺を門前払いした。
「悪いけど、キミのところに書くほど落ちぶれちゃいないから」
乾いて蔑んだ口調に、思わず唇を噛んだ。
憚りながら我が社には、弱小といえども良本を世に出しているという自負がある。
俺は心に誓った。
これからの十年、やっぱりパンイチでやってやる。
出版ひとすじ?いや、違うさ。
次の十年で俺は「出版業界イチの男」になるんだ。
” 売れる本 ” を作るんじゃない。
” いい本 ” を作って、誰かに喜んでもらうためにな。
(416字)
【あとがき】
表のお題がちょっとおちゃらけ気味の内容だったので、珍しく裏お題を真面目に書いてみました。
『十年パンイチ』これはまた難しいお題ですねえ。「パンツ一枚」以外に何があるのか。食べるパンのネタは早々に挙がってましたし。
皆さんの解釈が楽しみです!
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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