見出し画像

【男性向け】YouTube漫画シナリオサンプル

【タイトル】
 学校のマドンナに告白されたが「アニメのヒロインが好き」と断ったら、マドンナがヒロインの真似をして俺に迫ってくる

【登場人物】
・二見明(ふたみあきら)
 高校二年生。二次元が好きで、クラスでも友達が少ない。

・結城穂乃香(ゆうきほのか)
 明の同級生。美少女で性格もよく、学校のマドンナ的存在。旧姓・檜山。

・霧島美桜(きりしまみお)
 穂乃香の友人。美人だが派手なギャルではっきりものを言う性格。

【ストーリー】
○放課後・校舎裏

 校舎裏で二人の男女が向かい合っている。
 結城穂乃香、真っ赤な顔で意を決したように言う。

穂乃香「ずっと前から好きでした。私と付き合ってください!」

明N「ある日の放課後。俺、二見明は校舎裏に呼び出され、告白された。告白してきたのは同じクラスの結城穂乃香さんだ。結城さんはとんでもない美少女で、誰に対しても優しい。学校のマドンナ的存在で、俺も彼女に憧れる一人だった」

明M「……冗談だろ」

明N「でも、俺の頭に浮かんだのは喜びよりもそんな言葉だった。なぜなら俺は容姿も成績も普通で、その上オタクでコミュニケーションが苦手だった。クラスでも孤立していて、同じクラスの結城さんとはほとんど話したこともない。
 これはきっと罰ゲームか何かだろう。結城さんがそんなことをするなんてショックだったが、断れなかったのかもしれない」

明「ごめん。俺、二次元しか興味ないから」
穂乃香「えっ……!? そ、そんな」

 穂乃香、泣きそうな顔になる。

明「だから結城さんとは付き合えな――」
穂乃香「どの子が好きなの!?」
明「え?」
穂乃香「二見くんの好きな子、教えてよ。そしたら諦めるから」
明N「なんでこんなに必死なんだろう。自分が二次元に負けるなんて、よっぽど悔しかったんだろうか」

 明、スマホのロック画面を見せる。ショートヘアの女の子のイラストがロック画面に設定されている。

明「この子だよ。『七森さんは僕を落としたい』の七森春奈」
穂乃香「ど……どこがいいの」
明「普段はしっかり者なのに、主人公の前でだけ甘えるところかな。そのギャップが可愛いし、なにより一途なところが最高なんだ」
穂乃香「そ、そうなんだ」
明M「結城さんが引いている。どうせあとでクラスメイトと気持ち悪いって盛り上がるんだろう。別にもう、どうでもいい」
明N「憧れていた結城さんがこういう真似をすると知ってちょっとショックだった。どうせ告白もOKされると思っていたんだろう。結城さんはしばらく立ち尽くしていた」

○教室・朝
 明、教室で『七森さんは僕を落としたい』の漫画を読んでいる。
 そこに穂乃香が登校してくる。

穂乃香「おはよー!」

 明N「次の日、結城さんは元気な声であいさつをして教室に入ってきた。昨日のことなんて、やっぱり気にしてないん――」

 穂乃香、明の席にやってくる。穂乃香の長かった髪はショートヘアになっていた。

穂乃香「明、おはよー!」

 明N「俺は目を疑った。結城さんの長かった髪はバッサリ切られ、ショートヘアになっていた」

 穂乃香、明の手から漫画を抜き取る。

穂乃香「ねぇ、こんな漫画読まないで。漫画のキャラじゃなくて、もっとわたしのこと見てよ」
明「……は?」

 教室中がざわつき出す。

生徒A「え、何、穂乃香どうしちゃったの」
生徒B「……二見に弱みでも握られてるのか?」

明M「は? そんなの冗談じゃない。俺だって戸惑ってるんだ」

明「結城さん、あの……」
穂乃香「いつもみたいに『穂乃香』って呼んでくれないの? そんな他人行儀なの、嫌だよ」

 穂乃香、顔を真っ赤にして上目づかいで言う。

明「ちょ、ちょっと結城さん……!」

 明、穂乃香を教室の外に連れ出す。

明「一体、なんのつもりなんですか」
穂乃香「えっ、なんで敬語なの。さっきから明、変だよ。どうしたの?」
明「それはこっちのセリフなんだが。そんなに恥ずかしいならやらなければいいのに。顔真っ赤だよ」
穂乃香「だ、だって二見くんがこういう子が好きだって言うからでしょ!」
明「え、それ、もしかして春奈の真似なの?」

明M「全然似てないから気づかなかった」

穂乃香「あ、春奈って言った! 私のことは名前で呼んでくれないのに!」

 予鈴が鳴る。穂乃香、明の手を繋ぐ。

穂乃香「早く戻ろう。ホームルームはじまっちゃうよ」
明「ちょ、ちょっと……!」

明N「それから結城さんは、休み時間のたびに俺につきまとってくるようになった」

○休み時間・教室
 ひとりで漫画を読む明に穂乃香は話しかける。

穂乃香「ねー、漫画ばっかり読んでないで私とも話してよー」

 明、戸惑って返事ができない。
 それでも話しかけてくる穂乃香。

穂乃香「明冷たーい。もしかして私、何かしちゃった?」

 穂乃香、次第に泣きそうな顔になっていく。

穂乃香「なんで話してくれないの……何か言ってよ……」

生徒A「なにあれ、ひどい」
生徒B「結城さん可哀想」

○昼休み・屋上
明N「結城さんが話しかけるたび、クラスメイトは俺に軽蔑の眼差しを送ってきていて、逃げるように屋上にやってきた。結城さん、俺にフラれたのが悔しいからって、いくらなんでもやりすぎじゃないか。もしかして、告白は冗談じゃなくて本気だったのか? いや、まさかな」

 穂乃香が屋上にやってくる。

穂乃香「あ、明こんなところにいた!」
明「結城さん……」
穂乃香「だからその呼び方やめてよー。穂乃香って呼んで」

明N「このままじゃまともに話もできやしない。諦めて俺は名前を呼ぶことにした」

明「ほ、穂乃香」

 穂乃香、明に抱きついてくる。

穂乃香「やっと呼んでくれたー! もう、嫌われたかと思ったじゃん!」
明「ちょ、ちょっと……離してよ」
穂乃香「照れちゃって可愛い! あ、そうだ、じゃーん!」

 穂乃香、二人分のお弁当を取り出す。

穂乃香「これ、作ってきたんだ! 明と一緒に食べようと思って」
明「え? マジで?」
穂乃香「だって明、料理上手な子が好きなんでしょ」

明N「春奈は料理が得意で、いつも主人公のお弁当を作っていた。でも、まさか結城さんが俺のお弁当を作ってくれるなんて」

 明、お弁当を開ける。

明N「ドキドキしながら弁当を開ける。卵焼きやハンバーグなど、色とりどりのおかずが入っていて、とてもおいしそうだった」

 穂乃香、たこさんウィンナーを箸で持ち、明にあーんする。

穂乃香「はい、あーん」

 明、戸惑いながらも食べる。

明M「ん? ちょっとこげてるような……」

穂乃香「どう、おいしい?」
明「……ああ」
穂乃香「よかった」

 穂乃香、笑顔になる。

明N「それからも結城さんは俺にあーんしてお弁当を食べさせた。味付けが変だったりこげていたりしたが――」

穂乃香「あーん」
明「……」

明N「ひたすら真っ赤な顔であーんして食べさせようとする結城さんに、そんなことは言えなかった」

明「あの、結城さん」
穂乃香「穂乃香」
明「……穂乃香は食べなくていいの?」
穂乃香「忘れてた!」

 穂乃香のお腹が鳴る。穂乃香、恥ずかしそうに笑う。

穂乃香「えへへ……」

 穂乃香、自分のお弁当を食べ眉をひそめる。

穂乃香「え、何これおいしくない……」

 穂乃香、まだお弁当を食べている明を見る。

穂乃香「いいよ、食べなくて! おいしくないでしょ」
明「……おいしいよ」
穂乃香「嘘つかなくていいよ。……これじゃ明の好きな子にはなれないね」

 泣きそうな顔でうつむく穂乃香。
 明、無言でお弁当を食べる。

穂乃香「だから、食べなくていいってば」
明「春奈も最初は下手だったんだ」
穂乃香「え?」
明「でも、どうしてもおいしいご飯を好きな人に食べさせたくてがんばってたら、料理がうまくなったんだ。……結城さん、ちゃんと『ななおと』読んでないだろ」
穂乃香「うっ……だって、十巻もあるから…最初の方しか読んでなくて……今月のお小遣い、もう使っちゃったし」
明「よかったら、貸そうか」
穂乃香「えっ、いいの、ありがとう!」

 穂乃香、笑顔になる。そして、すねた顔になる。

穂乃香「でも、ちゃんと穂乃香って呼んでよね」
明「バレたか……」

○放課後・教室

 クラスメイトはほとんど帰り、残っているのは明と友人だけ。

友人「明、なんなんだよあれは。お前、一体結城さんに何したんだよ」

明N「俺はこれまでの経緯を彼に説明した。すると――」

友人「いや、お前……あの結城さんの告白を、二次元の方がいいって断るってどういうことだよ!?」
明「だって、どうせ告白なんて罰ゲームか何かだろ」
友人「本気で言ってんのか?」
明「え?」
友人「告白まではまだしも、罰ゲームで教室で甘えてきたりお弁当作ってきたりするわけねーだろ」
明「……」

明N「言われるまでもなく、自分でも薄々気がついていた。だけど、結城さんが俺を好きなんて……ありえない。それに――」

友人「明、まさかまだあのこと気にしてんのか」
明「……」
友人「結城さんはあいつとはちげーだろ」
明「そう、だよな」

明N「俺には初恋の人がいた。家は隣で親同士の仲も良く、小さい頃から一緒に遊んでいた女の子、ほのちゃん。彼女は、俺のことを好きだと言ってくれて、将来結婚の約束までしていた。でも、学年が上がるにつれ俺たちはからかわれるようになった。そしてある日、聞いてしまったのだ」

○回想・十年前・教室・放課後

 小学校高学年の頃の回想。教室に数人の女子が残って話している。
 忘れ物を取りに来た明は入れずにいた。

生徒A「ねぇ、檜山さんって二見くんが好きなの? よく一緒にいるよね」
生徒B「二見くんってあのオタクの? なんか暗くて怖そうじゃない。話せるなんてすごーい」
女の子「……」

 ロングヘアの地味な女の子が、困ったように黙っている。

生徒A「ちょっと、そういう言い方やめなって。確かに、ちょっと趣味変わってるけど」
生徒B「二見くんのどこが好きなの? 教えてよー」
女の子「やめてよ。あんなやつ、あたしが好きになるわけないじゃん」

 明、不機嫌な顔で教室に入る。

明「悪かったな。あんなやつで」
女の子「……! こ、これはちが……」
明「嫌なら無理に話さなくていいよ」

 明、その場を去る。女の子は追いかけない。

明N「ショックだった。その子はしばらくして転校したから、もう二度と会うことはなかった。俺はますます二次元の世界にのめり込み、三次元の女子とは話さなくなった。
 そういえば、あの女の子も『穂乃香』って名前だったっけ。名字も違うから別人だけど、ちょっと結城さんに似ていたような気がする」

○昼休み・教室
 笑顔で穂乃香が明の席にやってくる。

穂乃香「明、お弁当作ってきたよ! 一緒に食べよ」
明「お、おう」

 二人を遠巻きに見てひそひそ話すクラスメイト。

生徒A「お弁当? 結城さんの手作り?」
生徒B「まさか二見に? なんであいつなんかに」

穂乃香「明、はい、あーん」

 穂乃香、笑顔で明にあーんする。
 教室がざわざわする。

明「きょ、教室ではちょっと」
穂乃香「あ、そっか。明って恥ずかしがり屋だもんね~! じゃあ、二人っきりになれるところに行こうか」

明M「いや、それじゃますます誤解されるんじゃ……」

 穂乃香、立ち上がる。近くにいた生徒が話しかけてくる。

生徒A「ね、ねぇ。穂乃香って、二見と付き合ってるの?」
穂乃香「付き合ってないよ」
生徒A「だよね。よかっ――」
穂乃香「私の片思い」
生徒A「えっ!?」

穂乃香「そういうわけだから。じゃ、明、行こう」

 穂乃香、明の手を握る。クラスメイトは騒然とする。

明「あの、手は繋がなくても……」
穂乃香「なんで? あの漫画だとよく手繋いでたじゃん」
明「そうだけど……」

 二人は屋上に向かう。

穂乃香「あ、間違えた。こうか」

 穂乃香、明の手を離すと、腕を組んで胸を押しつけてくる。

明「なっ……」
明N「さすがにこれはやりすぎだ。みんな、驚いた顔で俺たちを見ている。当然だ。ここはアニメの世界じゃなくて現実なんだから」

 穂乃香、真っ赤な顔で涙を浮かべている。

生徒A「うわ、何あれ。結城さんすごく泣きそうなんだけど」
生徒B「あの男子が無理矢理やらせてるんじゃない?」

穂乃香「ちが、私、明が好きだもん! 好きならこれくらいして当然でしょ」

 二人、屋上に到着する。

穂乃香「昨日はごめんね。今日はうまくできたと思うの! ……昨日に比べたら、だけど」
穂乃香「はい、あーん」

 穂乃香、真っ赤な顔でまたあーんして食べさせようとする。
 明、戸惑いながらそれを食べる。

穂乃香「どう……かな?」
明「うん、おいしいよ」

明N「実際、結城さんの料理は昨日より少しだけ上達していた。俺のためにまさか練習してくれたんだろうか」

穂乃香「……本当!?」

 穂乃香、笑顔になる。それを見て明、ドキッとする。

明M「なんで俺、今、ドキッとして……」

 二人、お弁当を食べ終わる。

明「あ、そうだ。漫画、持ってきたんだ」

 明、鞄から『七森さんは僕を落としたい』の漫画を取り出し、穂乃香に渡す。

穂乃香「ありがとう! 読んでいい?」

 穂乃香、漫画を読む。しばらくして穂乃香が言う。

穂乃香「うーん。面白いけど、やっぱりよくわからないかも。ねぇ、この子のどういうところが好きなの?」
明「それは……」
穂乃香「それは?」

 穂乃香、明の顔をのぞきこんでくる。

明M「なぜだろう。春奈のよさを説明するのが、なんだか急に恥ずかしくなってきた」

明「結城さん、少しは自分で考えないと意味ないんじゃない? まだ序盤だし、ちゃんと読めばわかるよ」
穂乃香「それもそうだね。わかった、がんばってみる」

明N「結城さんはそれから、真剣な表情で漫画を読みはじめた。その表情に、俺はやっぱりドキドキしてしまった。

 可愛い女の子が俺を好きだと言って、好きなヒロインの真似までしてくれて、お弁当を作って食べさせてくれるんだ。意識しないはずがない。でも、そんな日々は長くは続かなかった」

○放課後・教室

 ホームルームが終わり、教室はざわざわしている。

穂乃香「明ー! 今日日直で遅くなるから待っててね」
明「わかった」

 帰り支度をする明のところに、穂乃香の友人・霧島美桜がやってくる。

美桜「二見。ちょっといい?」
明「はい……」

明N「放課後、俺は結城さんの友達の霧島さんに呼び出された」
明M「なんだか嫌な予感がする……」

 美桜、誰もいない階段の踊り場で立ち止まる。

美桜「単刀直入に言うね。穂乃香に関わるのやめてほしいの」
明「え……」
美桜「穂乃香、二見と関わるようになってからおかしくなった。みんなが反対しても止めないし、『私が好きでやってることだから』って言うけど、そんなわけないじゃん。穂乃香を自分の言いなりにさせて優越感抱いてるんだろうけど、穂乃香はずっと前から好きな人がいるの。高校に入る前からね。そんなことしても二見のことなんて好きにならないんだから」

明M「ああ、なんだ。結城さん、好きな人いたのか。そうだよな。自分のこと好きかもとか思って、バカみたいだ」

美桜「それに、あんたといると穂乃香の評価が下がるの。あんな穂乃香見てられないわよ。あんたの行動が穂乃香だけじゃなくて他の人も傷つけてるって自覚してよね。わかった?」

明「……わかった。もう結城さんとは関わらない」

明N「霧島さんは『絶対だからね?』と念を押して、帰って行った。

 結城さんは俺を好きじゃない――わかっていたけどショックだった。

 結城さんは、告白を『二次元の方が好きだから』なんて理由で断られて、プライドが傷ついて俺を見返したくなったのだろう。そういえば、春奈のふりをしている結城さんは、ちょっと泣きそうになった時もあった気がする。好きじゃない俺にあんなことをするなんて、悔しかったのかもしれない。

 その日、俺は結城さんを待たずに一人で帰った」

○朝・自宅

明「ふあぁ……おはよう」

 寝ぼけながら階段を下りてくる明。
 リビングに穂乃香が座っていた。

穂乃香「おはよー、明」
明「は……?」
穂乃香「もう、昨日先に帰っちゃったでしょ? 私、明と一緒に帰りたかったのに」
明「な、なんで結城さんがここにいるんだよ」
穂乃香「えー、いつも来てるじゃない」

明N「まだ春奈の真似をする結城さんに腹が立った」

明「それ、やめろ」
穂乃香「明……? どうしたの」
明「どうしたのじゃねーんだよ。この嘘つき女」
穂乃香「え……嘘つきって、なんのこと」
明「とぼけるなよ。俺のこと好きなんて言って、嘘なんじゃねぇか」
穂乃香「う、嘘なんかじゃ……」
明「高校に入る前から好きな人がいるって聞いたけど? 俺らが出会ったの、高校に入ってからなのに」
穂乃香「それは……」
明「これだから三次元の女は嫌なんだよ。平気で嘘つくから。あの時だって、好きとか言いながら、陰で笑ってたんだ。俺は本気で好きだったのに」

 穂乃香、表情を曇らせる。

穂乃香「あの時って……もしかして、ずっと気にして……」

明M「しまった。この話は、結城さんに言うつもりなかったのに」

明「とにかく、俺はお前みたいな嘘つきは大嫌いなんだ。もう俺と関わらないでくれ」
穂乃香「……ご、ごめんねっ」

 穂乃香、明の家を出て行く。穂乃香は涙を浮かべていた。

明M「なんで泣くんだよ。泣きたいのはこっちだ」

母「あら? 帰っちゃったの? せっかく作ったのに」
 キッチンにいた母親が、穂乃香の分のトーストを持ってくる。

明「母さん。なんであいつ家に上げたんだよ」
母「そんな言い方ないでしょ。あんたの大事な幼なじみなんだから」
明「は?」
明M「何言ってるんだ。幼なじみなんて、俺には……」
母「ほのちゃん、綺麗になったわね。あんな綺麗な子がなんで明を……」
明「ちょっと待って。ほのちゃんって」
母「昔仲良くしてたほのちゃんでしょ? 離婚して引っ越して行っちゃったから名字も変わっちゃったけど……もしかしてあんた覚えてないの?」
明「そんな……嘘だろ……」

明N「母さんに言われてようやく気づいた。自分でもバカだと思ったけど、だって……気付けるわけがない。『ほのちゃん』は地味で目立たない女の子だった。それがまさか、あんなに可愛くなっているなんて――」

明M「でも、二度も俺のことを騙すなんて、許せない」

○教室・朝

 明が登校してくると、友達と話していた穂乃香が近づいてくる。

穂乃香「あ、明……おはよう」
明「……」
穂乃香「ごめんね、明」
明「……」

 穂乃香、悲しそうな顔で去っていく。

明N「それから俺は結城さんを避け続けた。結城さんも、そのうち俺に話しかけなくなっていた」

○自宅・夕方

 明、浮かない顔でリビングで『七森さんは僕を落としたい』のアニメを見ている。
 母親が声をかける。

母「あんたはいつもアニメばっかり見てるんだから……ほのちゃんとはどうなの? あれから来ないけど」
明「もう来ないよ」
母「あんたがそんな態度だからでしょ。ほのちゃんが綺麗で恥ずかしいのはわかるけど、もっと優しくしなさいよ」
明「……」
母「それじゃ、買い物行ってくるから」

 母、ため息をつきながらその場を離れる。

明「はあぁ~」

 明、テレビの電源を消す。

明N「いくらアニメを見ても、前ほど心が動かなくなってしまった……結城さんのせいだ。

明M「結城さんなんて、大嫌いだ」

『ピンポーン』
 チャイムが鳴り、明、立ち上がり玄関に出る。

明「はーい」

 紙袋を持った穂乃香が立っている。

穂乃香「あの、漫画、返し忘れてたから……」
明「別によかったのに」

 明、紙袋を受け取る。

明「つまんなかっただろ、これ」
穂乃香「ううん、面白かった」
明「嘘つかなくていいよ」
穂乃香「……」
明「とにかく受け取ったから」

穂乃香「嘘つきでごめんね」

穂乃香「本当は、あの時、明が好きって言いたかった……でも、クラスの女子が怖くて言えなくて……私が好きなんて言ったら、明までからかわれて迷惑かけると思ったから」
明「え?」
穂乃香「だから、クラスでも自分の意見ちゃんと言えるような立場になろうって、頑張って努力して、今度こそ告白しようって思ったの。でも……もう、私のことなんて嫌いだよね? 明のこと傷つけてごめんなさい……」
明「結城さん……」
穂乃香「漫画、面白かったよ。明はこんな素直な女の子が好きなんだね。嘘つきだし、料理も下手だし、私じゃ全然叶わないな……」

 穂乃香、さみしそうに笑う。

明「だな。何より春奈は俺のこと傷つけたりしないし、すごく居心地がいいんだ。結城さんとは大違い。結城さんに告白されてから、ずっと周りの目が痛くて辛かった」
穂乃香「うん……」
明「だから、結城さんが――ほのちゃんが、ずっと忘れられなかった」
穂乃香「……えっ」
明「俺は、あなたのことが好きです。結城さんしか、興味がないから」
穂乃香「はいっ。私も、ずっと、明のことしか興味がなかった」

明N「こうして俺たちは正式に付き合いはじめた。はじめの頃は冷ややかな目で見られたが、そのうち何も言われなくなった。霧島さんがフォローしてくれたらしい。お礼を言うと、『あたしの方こそごめん。まさか、穂乃香の初恋の相手が二見だったなんて知らなかったから。でも、また穂乃香に変なことさせたら許さないからね』と、謝ってくれた。苦手だったけど、実は友達想いのいい子だったらしい」

○明の部屋・朝

 明と穂乃香、明の部屋に二人でいる。
 穂乃香、衣装を見ながら困惑している。

穂乃香「ねぇ、ほんとにこれ着るの?」
明「ダメかな」
穂乃香「ダメじゃないけど……私しか興味ないって言わなかった?」
明「うん、だからほのちゃん以外のコスプレは興味ないよ」
穂乃香「うぅ……その言い方はずるいんじゃないかなぁ」

 穂乃香、セーラー服とカチューシャをつける。恥ずかしそうに短いスカートを引っぱっている。

穂乃香「ど、どう?」
明「かわいいよ」
穂乃香「春奈とどっちがかわいい?」
明「……春奈」

 穂乃香、泣きそうな顔になる。

穂乃香「……えっ。そんな……やっぱり、春奈の真似しないとだめなのかなぁ。前はあんな情熱的な告白してくれたのに、最近、好きって言ってくれないし。よし」

 穂乃香、意を決したように明に抱きついて甘えてくる。

穂乃香「えへへ~、明、大好きぃ」

明M「……本当はずっと春奈には全然似てなかったのだけど……ほのちゃんには言わないでおこう。可愛いし」

 明、赤面しながら笑う。

明「冗談、ほのちゃんの方が可愛いよ」
穂乃香「もう、バカ!」
明「じゃ、行こっか」
穂乃香「うんっ」

 明と穂乃香、手を繋いで家を出る。

穂乃香「楽しみだね、コミケ」

明N「非オタの結城さん――ほのちゃんは、俺のおかげですっかりオタクになっていた。趣味の話もできる彼女は最高だったが、俺が好きなヒロインの話をすると不機嫌になってしまうからちょっと困っている」

明「そうだな。でも……その格好」
穂乃香「え? やっぱり変だった?」
明「他の奴に写真とか撮られたら嫌だなって」
穂乃香「もうっ! 大丈夫だよ、私は明にしか興味ないから」

 穂乃香、ぎゅっと手を握ってくる。
 明、照れながら笑う。

明「俺もだよ、ほのちゃん」
穂乃香「明、大好きっ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?