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昨夜の夢の話

※あんま面白くないです。

俺は日本の本土から少し海を渡った場所にある離島に居た。石の地面に、赤錆に塗れた廃工場が立つだけの人工的な島だ。

俺だけではなく大勢の人がこの島に避難している。本土は既に安全ではなくなってしまった。今や人間は、かつて自分たちが捨てた廃棄物が自我を持ち人間を襲う"スクラップ"と呼ばれる怪物達に脅かされる存在であった。

「ここまで来れば安全かな...?」

島に逃げたグループの中で唯一の知り合いである中学時代の彼女Mが俺に言う。中学時代は俺がひどいフラれ方をして終わった関係だが、今は危機的な状況の中で吊り橋効果によりちょっといい雰囲気である。(すいません...)

「いや、安心は出来ない。ここもすぐ気付かれるだろう。だけど...その時は俺達が頑張るしかない。」

俺は腕に刻まれた赤い紋章を撫でる。"スクラップ"と闘うための特殊な能力を与えられた人間"反抗者"に宿る紋章だ。島に逃げたグループには俺以外にも反抗者はいて、Mもそうであった。しかしここにいるのは低級レベルの反抗者だけで、ここが敵に気付かれた時の心配が要らない戦力では無かった。上級レベルの力を持つ反抗者は、今も最前線で闘っている。皆ここに逃げるしか無かったことを不甲斐無く思っていた。

「みッ......見ろ!!」
突然、グループの1人が叫んだ。見ると、地平線の向こうから大きな影が迫ってきている。違う...一つの影ではない。おびただしい量のスクラップの群れであった。

「早過ぎる!」
「ここもダメなのか!?」
群衆から次々と弱音が口を突いて出る。海を渡る黒い影がその形を視認できる距離に近付くまでに、さほど時間はかからなかった。

俺は先刻Mに言った台詞がいかに楽観的なものだったかを知ることとなった。上陸して来た群れを統べるは、低級クラスがいくら束になっても太刀打ち出来ないであろう上位種。群れを駆逐するどころか、こいつ一体を倒せる見込みさえ、絶望的だ。

スクラップの群れは上陸とともに攻撃を開始。反抗者も応戦。哀しむ間もなく、悼む間もなく、驚くほど呆気なく人が殺されていく。

俺とMも、出来るだけお互いの位置を見失わないようにしながら戦っていた。グループが無くならないようにではなく、ジリ貧の中で出来るだけ2人が生き長らえるための戦いであった。

「どうすれば...」

このまま戦っても全滅は目に見えている。しかし打開策も見当たらず、諦めかけていたその時...

「ママ...ママ...」

スクラップの群れの中から声がした。初めて聞く声...しかし妙に愛おしい声だった。

その声は群れの中の空気清浄機が発している信号が、スクラップの声となって俺の反抗者の力と共鳴して頭に響いているものだった。Mは戦う手を止めない。声は俺にしか聞こえていないらしい...つまりその空気清浄機は俺に縁があるということだ。

「お前は...!?」

錆の下から覗く、ピンク色のボディ。俺の実家にあった空気清浄機だった。その前まで使用していた空気清浄機より一回り小さく、まるで子供が出来たみたいだねと家族で言っていた。

間もなくして、大きい方の空気清浄機は壊れて捨ててしまった。その時から彼は叫んでいたのだ。

「ママ...ママ...!」

スクラップという醜い姿になって、反抗者という醜い力を手に入れて、初めて俺達は通じ合えたのである。

「空気清浄機...!」
俺は空気清浄機を抱きしめる。

「空気清浄機...空気清浄機!ごめんな...空気清浄機...お前の気持ち、分かってやれなかった...ごめんな、ごめんな!」

「いいよ...(俺の本名)は、ボクをたくさん撫でてくれたよね。ママはいなくなっちゃったけど、(俺の本名)たちは皆優しかった。キミに会えただけでも、ボクはもう幸せなんだ。」

俺の腕の中で空気清浄機が眩い光に包まれる。悔いや恨みをなくしたスクラップは、スクラップではなくなる。ただの家電としての生を取り戻すのだ。

「その前に...(俺の本名)のこと、少し助けてあげなきゃね...!」

スクラップではなくなったことで元のピンク色のボディを取り戻した空気清浄機には、代わりに失うはずの四肢が依然付いていた。ただの家電でもない、スクラップでもないその姿は、俺と心を通わせることで、闘う家電となったのだ!!

「(俺の本名)!Mさん!ボクの背中に乗って!」

「おう!!行けー!空気清浄機ー!」

俺とMと空気清浄機は、優勢だったスクラップの群れと上位種を一掃した。戦場を走るピンク色の空気清浄機は、まるでユニコーンのようであったという。

「空気清浄機ー!!空気清浄機ー!!」
俺は泣き喚きながら、彼の背に跨っていた。彼を伝って、幼い頃の家族との思い出がいくつもいくつも胸の中に流れていく。彼もまた、俺にとって家族だったのだ。

夢から目が覚めた俺はボロボロ涙を流していた。号泣しながらの起床...実家の空気清浄機への想いが止まらない。俺はとーず君に泣きはらした顔を見られぬよう寝返りをして、二度寝へと取り掛かった。

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