連帯保証からは逃げられない……。でもこんな手があります。 その7「そして、未完の結末へ」

 支払督促。
 裁判所が相手方にこれこれの支払いをしなさいと命令することです。

 頑張って書いた申立書は一応正式なものとして受け取ってもらったので、後はF簡易裁判所から息子宛に郵送してもらえば、手続きは完了します。

 ところが。これが届かなかったのです。

 申し立てをしてしばらくした後にF簡易裁判所から来たハガキには、相手方から受け取りを拒否されたとありました。

 再度相手に一度送り直してもらう場合、二つの方法があります。一つは、日曜日など相手が家にいるであろうときに直接再訪してもらうもの。そしてもう一つは、相手の勤め先に届けてもらう方法です。
 私は息子の勤め先を知らないので(誰を通して訊いても頑として教えないそうです)、当然のことながら休日配達をお願いしました。
 ところが、これも拒否されました。居留守を使ったのかわかりませんが、とにかく絶対に受け取らないつもりのようです。

 再び簡易裁判所から来た葉書には、三たび申立書を送るには、相手がそこに住んでいるという確実な証拠が必要です、とありました。
 確実な証拠ってなんだろう……。ネットで調べると、名前が書いてある郵便受けに郵便物が届いている。水道メーターが回っている。洗濯物がベランダに干してある。たしかに住んでいると近隣住人が証言している、 等々です。

 これをわざわざ調べに行くのか。
 何百キロも離れた街まで、飛行機代を使って。

 実施的に不可能です。おそらく民事裁判の申し立ての多くは、この所在確認の段階でつまづいているのでしょう。

 となると、現地に住んでいる誰かに居住確認をお願いしなければなりません。
 まず考えたのが、彼に部屋を斡旋した不動産屋さんでした。
 F市のT不動産に電話を入れ、確認をお願いすると、それまで「ああ、お父さん」と愛想良く話していた相手の口調が一変しました。

「事情はわかりますが、部屋まで行って確認することはできません」
「何故ですか? 管理している物件の一つなんですから、外回りの合間に様子を見に行くことだってできるでしょう」
「できません」
「息子は部屋を退去はしていないんですよね?」
「していません」
「だったら、そこに住んでいるのは間違い無いですよね?」
「家賃は入れてもらっていますが、そこに住んでいるかどうかは」
「部屋のチャイムを鳴らして、本人が出てきたら一発でわかるじゃないですか」
「出てきた相手がご本人か、こちらでは判別がつきませんからね」

 あんたは本人かどうかもわからない人間を部屋に住まわせているのか……。
 よほどそう言おうかと思いましたが、揉め事に首を突っ込みたくないという気持ちがありありと伝わってきたので、何を言っても無駄だと思い、電話を切りました。それにしても、たびたび家賃滞納を繰り返す店子を問題視しないのですから、この不動産屋さんもよほど家賃保証会社を信頼しているのでしょう。

 さて、どうするか。
 現地に友人でもいれば「悪いけど、ちょっと見てきてくれよ」と言えるのですが、あいにくそんな友人はいません。

 考えた挙句、プロに打診することにしました。現地の 探偵社をネットで探し、見積もりを頼んだのです。居住確認くらいならそれほど費用も掛からないだろうと思って。
 ですが、とある探偵事務所が出してきた見積もりは30万円ほどでした。どう考えても足元を見られています。開いた口が塞がらない思いで、このプランも却下しました。

 残るは自分で行くことですが……それはやめました。そこまですれば、実際に本人に会って、文句の一つも言いたくなるに決まっています。これ以上関係を悪化させたくはありません(いまでも十分悪化していますが)。
 それに受け取りを拒否したとはいえ、彼は私から内容証明、調停の申し立て、支払督促等の通知が届いたことを知っています。これ以上滞ればいよいよ少額訴訟でこちらにある裁判所に呼び出しがかかることは、十分に知っているはずです。

 これだけプレッシャーを掛けたんだ。もう、息子もこっちに迷惑を掛けて滞納することもないだろう。
そう思い、F簡易裁判所に支払督促申し立ての取り下げを申請しました。

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