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めちゃくちゃよかった『非常宣言』(2021)でもちょっと言いたいことがある(感想ネタバレ)

めちゃくちゃよかったです。
こういうパニック映画はたくさんあるけど、現実に即して描いていて社会派だった。
という感想はちょっと置いといて。

『日本登場』

フライヤー一枚でわかる通り、ソウル発ホノルル行のジャンボの中で、バイオテロが起きて人から人への感染が起きる。
このウイルスは中東からきたらしい。この辺りはもうサラッと流すしかない。
韓国にとってエンタメは巨大な輸出産業だという話なので、映画が世界公開されることは視野に入れて考えられてはいると思う。

未知の致死率の高いウイルスが蔓延したジャンボ。
正直に言うと観ていたわたしは胸の隅で思った。
「これは……このジャンボが着陸しないという選択が恐らく人類にとって最善なのだろうけど」
なのだろうけどどうするのかという話かなと思う。
制作は禍で延びたそうだが、禍を経験しているから現実的に感じられるパンデミックパニックだった。

やっとホノルルに到着した時、アメリカは上陸を拒否した。
この時わたしは日本が出てこないことに安堵した。
アメリカ国民がどう感じているかはわからないが、わたしにとってアメリカは記号的な国でもある。
「ホワイトハウスはこう言っている」
という台詞は幼い頃から映画の中でたくさん聞いてきたし、こういう時のアメリカやホワイトハウスは「人の顔をしていない記号」として心で処理している。
日韓関係を思うと、ここで日本が出てくるとややこしくなる気がして安堵したのだ。

ところが何故かこの飛行機は、成田に着陸しようとした。
「やめてーパンデミックの方じゃなくて、日本と韓国の関係的にスーパーデリケートゾーンだからそこやめてー。あとちょっとでソウルだよーどうしてー」
わー! と思ったので、あまり実感する機会はないがわたしは日本人だな。実感をありがとう。

成田着陸は理由自体は若干こじつけに見えたが、必要な経緯だった。
この時点で抗ウイルス剤や治療薬の確保ができた。治る疫病だから着陸できるはず、となったのだが日本の厚生労働省が発表する。

「このウイルスは中東から入ってきた元のウイルスに人為的に手が加えられていることによって変異している。その抗ウイルス剤や治療薬が効くという保証はない」

たくさんの変異株を見てきた今となっては、厚生労働省が何を言っているのかわたしにもわかる。

そして航空自衛隊が出動して、威嚇射撃をする。

ここでわたしは言いたいことがある。
あくまでわたし個人の感覚だと前置きする。

日本の自衛隊は、こんな突然成田を目指すことになった恐らく短時間の間に、ウイルスが蔓延しているからといって民間機を威嚇でも射撃しないと思うよわたし。
それはやさしさ理由ではなく、
「どうするどうする」
「どうするどうする」
って日本は会議してる最中だからだよ。あなたたちが成田にたどり着いた時にはまだまだ会議中だよ。
短時間に民間機を撃つ判断をするなんてありえないと思うよ。
わたしはそんな日本は結構好きだな。

でも韓国はずっと北朝鮮と戦争状態で、地続きで大きな危険がある国なので、日本の「撃たなさ」は全然ピンとこないと思う。
誰か日本人にこれが現実的に見えるかどうか訊いてみてほしかった。
2021年の映画なので、ロシアによるウクライナ侵攻が始まっていない。
これから先は日本もどうなるかわからない。
それはとても辛いな。

そしてもう一つ言いたい。
これは禍の前に作ろうとした映画なだけでなく、世界設定が禍のない世界になっている。と思う。そこ出てこないので。
だとしたら日本の厚生労働省がホノルルから成田に飛行機が飛んでくる短い時間で、そんな判断できるかな? わたしはできないと思うよ?

日本をそんなに買いかぶらないでください!

この問題は韓国の内省へと帰結するので、登場する他国はまったく侮辱されていないと書き加えておく。
韓国の問題として描かれているのでありえないもしもの展開だけど、もし現実だったら。

「どうするどうする」
「どうするどうする」
「あーどうするどうするって言ってるうちに成田に着陸しちゃったー」
そして日本の対策チームが「どうしよどうしよ」と有耶無耶のうちになんとかしたような気がする。

と、映画館で言いたかった。

『感想』

こうした韓国映画に登場しがちな、ストレスフルで利己的なメインの登場人物が少ないのが印象的だった。
それでも「群衆」は叫んでいるので、
「感染させるのが怖いから当機は着陸しない」
という選択をいったん機内ではする。
その、
「怖い」
を聴いたとき一瞬、
「地上のあなたたちが怖いから」
だと勘違いした。
実際地上の人々は怖かった。
そこが響いた。
突きつけられている気がして、この三年間の自分を振り返った。

『本当に日本の厚生労働省がそんな感じだとわたしが思っているかどうかというと』

この短時間に変異による脅威の判断を出すのは、映画ならではのような気がする。有能だとしても、判断して相手国も納得させて決断するのは難しい気がする。

否応なくプリンセス・ダイヤモンド号のことを思い出した。

あまり目に見えていないところで、日本の何かは結構ちゃんとしていると思った出来事だった。何かが何なのかはわたしにはよくわからない。
大きく報道されたり、専門ではない人がテレビで発言したりすることの外側に、そっと埋まっていることがきっとある。

禍が始まった2020年、地方では「陽性ゼロ」の日々が数か月にわたった。緊迫感がずっと続いたので、わたしはその頃の方が心情的にはしんどかった。最初の一人になりたくないし、魔女狩り的な空気もあったと思う。
その頃福島県の感染症対応病床は8床しかないと、みんなが知っていた。

ところが陽性者が出始めた頃、地域の人から初めて聞いた。
「プリンセス・ダイヤモンド号の患者をあそこの病院で何人か受け入れたから、大丈夫だよ」
と。
それはわたしは知らなかったけれど、地域の人はいつの間にか知っていた。
プリンセス・ダイヤモンド号の件があった当時、大騒ぎにはならなかった。その時はそっと行われた処置だったのかもしれない。
そして地域でもいよいよ陽性者が増え始めた頃に、
「大丈夫だよ」
とその話されて、
「経験しておいてくれてありがたい」
と思った。
このことはわたしは何も知らずに過ごした。
どこの病院が受け入れたのかまで知る人は知っていて、恐らく騒がなかった。
誰で何処なのかわからないけど、信頼に足る人々がそっと動いているのだなと思った出来事だった。

なので、わたしは日本の厚生労働省を信頼もしている。

現実の禍のことに関しては、四年目を迎えて、「結果こうだった」みたいなことを言っても仕方ない。
予防しなかったらどうなっていたのかは、壮大な社会実験をしない限りわからない。

その時々の様子を見て、心身のバランスを取りながら暮らしていく。
『非常宣言』
とてもいい映画だった。

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