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  3-⑫ 鎌倉へ

 抜けるような青い空に雲はほとんどなく、真夏の暑い日差しが広い境内に降り注いでいた。源氏池に浮かぶ中島は、見渡す限りの白い鳩の群れに占拠されている。

 翔馬はその立派な社殿の前に立ち、大きな鈴を静かに鳴らした。
 二度、深々と頭を下げ、そっと二度手を合わせる。
 隣に並ぶ、2歳年上の女性も、神妙な面持ちで願いを神様に伝え、2人は最後に深々と静かに頭を垂れた。

 少年の未来を願ったのだった。


「翔馬・・・頼みがあるんや」

 未来を天国へ見送ってから数日後、翔馬は調教スタンドで朝日師に声を掛けられた。
 たくさんの調教師、騎手仲間から労りの声を掛けられたのだが、馬に触れることで悲しみが癒されるなら・・・と、いつも通りトレセンや厩舎に出入りしていた。

 そんな折の朝日師の一言であった。


「アイツの代わりに鎌倉に行ってくれないか?」
 師は手提げポーチの中から、手の平大の1冊の手帳を取り出した。
 付箋の貼ってある場所を見てくれないか、と言うので翔馬がページをめくると
、〝年末年始の予定〟と書かれた場所があった。
〝美女と野獣の結婚式〟と、書かれてあった。
 その後には何と、
〝2人の結婚式は鎌倉。俺もお邪魔にならないように着いていく!〟とも。

「どうやらアイツ、翔馬とすみれさんの結婚式の後に、一緒に鎌倉に行く予定を立てていたらしいんや」
 確かに事細かに予定が書き込まれていた。
〝アイツ、こんなに几帳面だったかなあ・・・〟翔馬は思わず微笑んだ。
 師も同じ思いを抱いたのか、
「凄いやろ!何回も読んだけれど、そんなん食べれるんかなあって⁉︎」
 確かに・・・。これじゃ減量が大変じゃないのか?けれど、もう・・・。今は天国でたくさん食べているのだろうか?それとも、
〝お前ら、勝手に俺の手帳見てるんじゃねー!〟と、怒っているだろうか?
〝未来・・・悪いな。〟心の中でお詫びをし、翔馬は手帳を読み進めた。       
 メモ帳の一番最後に、一通のエアメールが挟まれていた。切手が貼られており
、宛先は鎌倉、差出人は、もちろん未来である。

「さすがに中を開けるわけにはいかんから、そこに書かれている病院に電話をしてみたんや。そうしたらアイツ・・・8歳の男の子と文通していたんや。5日後に、心臓移植手術でニューヨークに行くと、その子の主治医が言っていた。1年前から文通を始めて、手術費用の援助も行ってくれたと、彼の両親が話してくれた。その子はアメリカで未来と会うのが楽しみと言っているそうや。そう・・・その子は、未来が事故に遭った事をまだ知らないんや。病院側も両親も、今の状態で、未来のことを伝える事はとてもできない・・・と。だから、翔馬に行って欲しいんや。アイツの代わりに・・・」

 差出人は、未来。受取人の男の子も、未来。アイツ・・・会いたかっただろうな

 未来の新たな一面を知った翔馬は、何とかして力になりたかった。嘘をつかねばならないことに心は痛むものの、翔馬は首を縦に振り、強い意志を示した。

「行かせてください‼︎」


 2人にとって初体験の鎌倉の夏。
夏休みは終わっているはずだが、さすがに日曜日ともあれば海へ山へと人々の歩みは止む事は無い、古都鎌倉の賑やかな休日。
 とにかく、今日も未来のスケジュールに従って動かねばならない。そうすることで、あいつが喜んでくれると信じて。

 それにしても、昨日は大変な1日であった。あいつは、本当にこれを実行する予定だったのか?心底恐れ入る。果たして
、胃は持つのか?
 しかし、2人は何とかミッションをクリアした。息も、いや胃も絶え絶えになりながら。

 午前10時に鎌倉駅前のホテルを出発した2人は、第一の目的地、浄明寺に向かった。お寺が目的ではなかった。浄明寺の杉本観音前に、穴子丼の名店があるのだ。既に気温30度、その中を2人は歩く

 安国論寺を越え、名越の切り通しを越え左折、山を登り、そして下り、ようやく見つけた、〝左可井〟の暖簾。
 ホテルの朝食バイキングで摂取したカロリーは、既に消化したのか?2人は穴子丼のセットを注文した。

「なかなかに歩いたねえ」
すみれがウェットティッシュで首筋の汗を拭いている。
「うん!でもまだまだこれからだね!」
翔馬はテーブルの上に置かれた冷水をグッと飲み干した。

 やがて、未来が食べたいと記していた穴子丼セットが目の前に並んだ。
 ふっくら柔らかく炊き込んでいる穴子の香りが胃をくすぐる。卯の花炒り、きゅうりの塩もみ、白花豆の蜜煮、昆布の佃煮に卵焼き。そして、具だくさんのお味噌汁・・・2人は一心不乱に穴子丼セットに向き合った。

 ため息が出るほど、おいしい穴子丼セットであった。

「穴子丼ってこんなに美味しかったんだねえ・・・」
 まさしく目からウロコの、穴子丼初体験の翔馬であった。すみれも、
〝うんうん〟と頷いている。

 まだまだ道半ば。
第二の目的地に向かう為北上し、しばらくして左折、鶴岡八幡宮方面に向かう。
 右手に見える明王院を越えしばらく歩くと、左手に竹のお寺で有名な報国寺が見えてくる。そのまま直進し、浄妙寺、杉本寺を越えて宝戒寺が見えてくれば、若宮大通はもうすぐそこだ。八幡宮の手前を横切り、小町通りをしばらく歩くと行列を発見した。
 カレーパンの名店、お目当ての露西亜亭であった。

 2人はカレーパンを3つ購入し、次の目的地へ向かって歩みを進める。

 太陽はいよいよその全貌を表し、ギンギラギンに輝いていた。

左可井の穴子丼・・・もう食べれないなんて😭

 PS・・・いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥺🙏次回配信は、11月18日土曜日午前8時です。
 朝日未来が歩くはずだった鎌倉の街を、2人が散歩します。暑さにも負けずに未来の代わりのグルメ旅・・・私も歩きました🚶🚶‍♀️😅
 それではまたお会いしましょう!!

PS2・・・ブレイディヴェーグ強かったですね!彼女にローズSで先着し、秋華賞2着のマスクトディーヴァ、そしてリバティアイランド・・・この3頭は、あの伝説の3強!アーモンドアイ、ラヴズオンリーユー、クロノジェネシスの名牝達を思わせる強さを備えています🐴🔥💨💪これからが楽しみですね😊😊

         AKIRARIKA

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