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2-⓱ 天皇賞春
メインレース終了後、彼はバレットと共に東京競馬場を後にした。
明日、京都競馬場で開催されるG1レース、天皇賞春に騎乗する為である。
運転するのは、彼のマネージャーの男性2人のうちの1人・・・彼は今年の1月から、東京に本社を置く芸能事務所に所属している。マスコミへの対応や、競馬以外のスケジュール管理等、
「任せれる事は任せてしまいなさい」との師の進言により、その事務所とのマネジメント契約を締結した。
なるべく早く、かつ安全に、彼らを新幹線乗車駅の品川に送り届ねばならない。地の利をもつ運転手は、何よりの味方である。
「それではまた、来週お迎えにあがりますので。お気をつけて」
来週からは、5週連続のG1レース、東京開催である。
厩舎関係者、バレット、マネージャー・・・チーム一丸となって、彼を支え続けていくのである。
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「さすが一流ジョッキー‼︎ダービーの権利をありがとう‼︎明日も頑張れ!」
親友からのLINEだった。
今日東京競馬場で行われたダービートライアル、テレビ東京杯青葉賞で、翔馬は尾形スタリオン生産馬のストロングクーガーに騎乗、中段から追い込んで2着を確保し、見事親友にダービー出走というプレゼントを渡したのである。
その手応えは、今もその手のひらの中にあった。
最後の最後まで目一杯に追えば、首差ぐらいまでには差が詰まったかもしれないが、まだ伸びしろのあるこの馬に無理をさせるよりも、余力残しで権利を取れたのならば、それで良しではないか。
管理する冨士原調教師は、検量室前にて満面の笑みで翔馬を出迎えた。
「ありがとう!」
「いい脚、持ってますね!案外・・・本番の強敵になるような気がして怖いですね」
ニヤリと笑みを浮かべた調教師。
「翔馬君が乗ってくれたらなあ・・・」
「だめですよ先生。無茶言っちゃあ!」
隣にいたベテラン騎手が茶々を入れ、その場が笑いに包まれた。
冨士原調教師が翔馬の肩をポンと叩いて、一瞬、淋しげな笑顔を見せた。
京都駅に着いた翔馬は、スマホの電源をオフにした。
次の戦いは、既に始まっていた。
彼は、超満員の観衆で溢れかえった京都競馬場のスタンドにいた。
親友を見守る為に。
「レース後に会おう。積もる話もあるだろう?」親友からはたった一言。
「わかった」と。
翔馬・・・頼んだぞ。
夢を、力を、そして命を与えてやってくれ・・・彼は、心の中で祈った。
目の前の新緑の絨毯を、16頭の競走馬が颯爽と駆け抜けていった。
2012年・・・翔馬と翼、12歳の春。
乗馬を終えた2人は、お互いの相棒の手入れをしながら、京都競馬場で行われた古馬長距離G1競争の話をしていた。
「なあ、天皇賞春史上でさ、最も強かった馬ってどの馬だと思う?」
相棒の馬体に丁寧にブラッシングをかけながら翼が言った。馬は首を揺らし、気持ちよさげにウトウトしている。
「それはさ、あの馬に決まってるよ!あの馬!」
もし・・・あの馬とあの馬がタイムスリップして一緒に戦ったら、一体どっちが勝つのだろうか?それぞれの思いをぶつけ合う・・・これは競馬ファンにとっては、うってつけの話題であり、ゲームの中でしか果たされない夢である。タイムマシンがあれば別だが。
「じゃあ、せーので言ってみようぜ!」
翼がブラッシングの手を止めて言った。
隣の馬房にいる相棒が、翔馬の手から人参を奪い取り、豪快に咀嚼している。2人は、馬が人参やりんごを咀嚼する音が大好きだ。まさに、《生きている》音だから。
「いいぜ‼︎」翔馬は笑った。
「せえ〜の‼︎」
「ライスシャワー〜‼︎」
偶然の一致か??2人は目を見合わせ大笑いした。
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