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  3-❸ フェニックス復活

 セーヌ湾を見下ろす広大な牧場の一画に、幅40メートル、全長130メートルの巨大な屋内障害馬場があった。
 馬術に励む1頭と1人の為に家族が知人に建設を依頼し、完成したのが昨年の8月・・・愛する少女への誕生日プレゼントであった。

 午前6時・・・人馬の動きを見つめる一行に緊張が走った。
 ウォーミングアップを終えた人馬がいよいよ戦いに挑むからだ。

 やがて、白馬がスタートした。
駈歩で十完歩程進み、第一障害の高さ50センチのハードルを飛び越えた。
 ふわりと着地し五完歩程進み、反時計回りに周回し、高さ70センチの第二障害に向かう。
 再びフワリと宙を舞った。人馬は第二障害をクリアした。

 反時計回りに周回しスタートの位置へ戻り、再び第一障害、第二障害をクリアし、人馬は最終障害が置かれている中央のコースへと向かった。

 人馬にとって初の挑戦であった。
白馬の瞳は輝きに満ちていた。少女の表情がきりりと引き締まる。

 やがて・・・人馬がタイミングを過つ事なく、高さ1メートルの障害を飛び越えて柔らかく着地した。

 ハードルを僅かに揺らしたのは、人馬の作った風であった。


 少女は金色に輝く長い髪の毛を揺らし、笑みを浮かべた。
 白馬のたてがみを優しく撫で、首筋をポンと叩いた。
 白馬が意気揚々と一行の元へと歩を進めていった。


 フェニックスルージュ・・・不死鳥と命名された白馬であった。
 生死を賭けた大手術を経て、見事に命を繋ぎ、そして今、一行の前で見事な飛越を見せた白馬。誰もが感動の面持ちで人馬を見つめていた。

 白馬は少女に全てを委ねていた。
深い、とても深い絆を感じた。
 白馬の〝生きる!〟と訴えた瞳と、〝彼と共に生きる!〟と決めた人々の決死の献身、そして世界中からのエール・・
・人々が紡いだ奇跡。

 背丈が伸び、やや大人びた少女が笑った。
「今日初めて1メートル飛べたよ!多分、ショーマが、いやカケルが見てくれてるから、フェニックス気合が入ったんじゃないかな?」

 少女は以前、〝夢がある!〟と、翔馬に告白していた。
 少女は幼いままの少女ではなかった。白馬と共に成長を、1歩ずつ階段を上っているのだった。

「凄いよフェニックス!こんなに飛べるようになるなんて・・・」
 翔馬は驚きを禁じえない。
職業柄、不慮の事故でレースを最後まで全うできなかったシーンに遭遇した事も多々ある。当事者になった事も。
 あのような大事故に見舞われ、命をかけた大手術の末に、ここまで回復し、そしてここまで飛べるようになるとは・・・

 噂をされているフェニックスが翔馬に鼻面を寄せ、〝何かくれ!〟と甘えている。
「ハイハイ!今あげますよ!」
陽子がトートバックの中から自ら育てた自家製の特製にんじんを取り出すと、彼は奪い取るかのように豪快に咀嚼を始めた。

 たくさんの笑い声が、屋内馬場に響き渡る。
 朝の、キラキラした陽光が馬場を照らし始めた。


 賑やかな朝食となった。
ローザの焼いたガレットとピザ、ポトフが主役を担い、陽子特製の鮭のマリネ、カレーソース、エリーのおにぎりとアップルパイが食卓に並べられていた。
 一行はモーニングティーで乾杯した。
本日午後に、英国入りをする翔馬とバレットの歩夢、ロッシと秘書のミシェルの為にワインは封印された。

 たくさんの笑顔があった。
バルザ、ローザ、ウッド、陽子、エリー
、ヴェロン、ロッシ・・・5年振りの団欒である。

「それにしても、昨日のドーヴィル競馬場は史上最高の盛り上がりだったね!」
 ガレットにキャビアとカマンベールチーズを乗せながら、バルザが言った。
「そりゃそうさ!翔馬が2日もドーヴィルに現れたんだからな!しかも翔馬見たさに大統領まで現地観戦するとは恐れいったよ!そして、大いなるプレゼント付きだからな〜!」
 ロッシは、カレーソースにピザを浸していた。彼の大好物である。

 翔馬はおにぎりに、鮭のマリネの組み合わせを楽しんでいた。
〝このマリネ、本当に美味しいや!玉ねぎとの組み合わせが絶妙だね!おにぎりの中身は・・・おお!鯖の塩焼きだ!〟でも、どうして大好物を知っているのだろう?〟
 エリーがにんまりと微笑んでいる。

「いやあ、なんだかめちゃめちゃ恥ずかしかったです!」
 それはそうであろう・・・グレードレースでもないのに、翔馬が1着でゴールする度に、競馬場が〝ショーマコール〟に包まれるのだから。

 翔馬は土曜日に5鞍、日曜日に7鞍の騎乗依頼を受けていた。
 土曜日には2勝を挙げた。
土曜のハイライトは、何といっても2勝目を挙げた1戦。

 母は、あの名牝ムーランルージュの血を持つレザンドリー、そしてあの伝説となった1戦を、共に叩きあったマイルG15勝の名馬サンヴァレリーを父に持つフォンテンブローのデビュー戦であった。
 観客の視線が全てフォンテンブローと翔馬に注がれていると言っても過言ではなかった。

 まるで、王様のような走りであった。

〝付いてこれるなら付いてこい〟
スタートから飛び出し、1度も後続に影を踏ませる事なく、彼は悠々と1600メートルを駆け抜けていった。
 あの、フェニックスルージュを彷彿とさせる走りにアナウンサーは絶叫し、観客は総立ちとなった。

 翔馬は彼をクールダウンさせながら、指でステッキを風車のように回しショーマコールに応え、右手を突き上げた。

不死鳥復活🐴🐴💨🔥🔥👏👏


PS・・・いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます😊次回の配信は、10月18日水曜日午前8時です🐴💨翔馬がドーヴィル競馬場で重大発表⁉︎😅それではまたお会いしましょう🤲🙏

          AKIRARIKA

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