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THINK TWICE 20220102-0108

1月4日(火) BRIDGE OVER TROUBLED HP

夏から準備していた道後の生活雑貨店「BRIDGE」のHP。ディレクションしていた二度目のリニューアル作業が完成。

これまで使っていたBASEは、細かい部分で使い勝手に不自由な点があり、今後の発展性も見据えて、Shopifyに移行。

それゆえ国産車から外国車に乗り換えるような新たな面倒が多々発生。全部をうっちゃって、森の中に逃げ込もうかと思う瞬間もあったけど、新しい知識や経験を吸収していくのは嫌いじゃないので、最後まで楽しく作業できた。*1

*1 BASEやSTORESが最近さかんにテレビCMを打っているのは、Shopifyの"侵略"が本格化してるから。スタートアップはかんたんだし、初期費用もかからない国産のプラットフォームが今はまだおすすめだけど、半年後にどうなってるか。

写真は前回に引き続き阿部健くんにお願いした。BRIDGEの扱っている商品は、使われていくうちに美しさや魅力が増していく……いわゆる「用の美」が潜在している。ただ、その素朴きわまりない美しさを新品の状態からどう写し取るか、というのはすごく難しい。

その問題点を共有し、工夫し、ひとつのイメージにまとめていくパートナーとして、阿部くん以上の適任はいなかった。

そして、今回のリニューアルから読み物の部分も充実させることにした。初回は中田窯への買付に同行して、リポート記事を書いている。ぼく自身もこのHPを利用して、今後もさまざまな発信ができたらと思っている。

なかなか気軽に愛媛においでよ、と言いにくいご時世だ。だからこそ、みなさんの旅情をそそるようなサイトになっていたらうれしい。もちろんたくさん買い物もして欲しい(笑)。


1月6日(木) Submit


期せずして3年がかりのプロジェクトになってしまった『ゆりこたいじゅんはな』の第2巻。原稿の準備ができたので、ついに印刷を発注。

ずっと品切れだった第1巻の方も、もちろん追加発注。表紙まわりや奥付などのデータ以外、触らないつもりだったんだけど、最後に少しだけ本文にも手を入れる。やり始めたらキリが無さそうなので、「てにをは」レベルの最小限だけ。1巻を持ってる方は安心してください。

一応、今後も3巻の発行に向けて執筆は続けるつもり。とはいえ、まずはこの溜まる一方のnoteの日記、ムスタキビのnoteで連載しているReturn To Senderをまとめたい。

音楽に関する本も出したい。ほんとは《シブヤ景》をまとめたかったけど、去年のオリンピックの騒動で景色がガラッと変わってしまったから、どうしたもんか。

あと、実は音楽レーベルをやりたいと思っている。聴かれるべき音楽が聴くべき人にかならずしも届いていないと感じることが多いので。


1月6日(金) 松山のゲンズブール

昨年末、スライ&ロビーのベーシスト、ロビー・シェイクスピアが亡くなった影響で、彼が参加してたアルバムを仕事の傍ら、あれこれ引っ張り出して聴き直していた。

Gainsbourg & The Revolutionaries (1979 / 1980 / 1981 / 2015)

特にリピートしたのは『Gainsbourg & The Revolutionaries』というCD。

レゲエに心酔したセルジュ・ゲンズブールがキングストンへ飛び、スライ&ロビーらと作った『フライ・トゥ・ジャマイカ(Aux armes et cætera)』───たった6日間で作り、50万枚売れたという伝説のアルバム───と、それを引っさげて、スラロビらと行なったパリでのコンサートを収録したライヴ・アルバム『Enregistrement public au Théâtre Le Palace』。

そして、1981年に同じメンバーと作った『星からの悪い知らせ(Mauvaises Nouvelles des étoiles)』が、3枚組で2015年に発売された。

このゲンズブールのレゲエ期は、ちょうど今のぼくと同世代だ。心臓発作で倒れ、ジェーン・バーキンと別離し、21歳のバンブーと付き合い始めた。

ブックレットはこんな感じ。物置にしまっちゃってるので写真は借り物です。

ぼくがこのやや値段の張るCDセットを買ったのは横浜だ。

その日、友だちと中華街で食事の約束をしていた。馬車道駅の改札前で待ち合わせしていると、相手の乗った電車が人身事故に巻き込まれ、携帯に連絡が入った。

しばらくかかりそう、とのことで近くにあったディスクユニオンに立ち寄った。たまたまこのCDセットが目に入り、絵本のような装丁のブックレットが素敵だったし、ちょっと高いなと思ったけど、購入した。たしか5,000円くらい。旅先じゃなければ、たぶんこんな買い物はしてなかった。

ゲンズブールはこの『フライ・トゥ・ジャマイカ』の大ヒットまで、フランス国内で大衆的な人気は無かったそうだ。

《ムッシュ・バーキン(ジェーン・バーキンの夫)》と揶揄され、「マスコミから三浦友和的な扱いを受けて」(川勝正幸「フライ・トゥ・ジャマイカ」ライナーノーツより)いて「デビュー21年目、51歳にして初めて正当な評価を受けた」(同文)とは驚く。

ぼくも出すかな、レゲエのアルバムを(笑)。

余談だが、ゲンズブールにロシアの血が流れていることを知ったのも、川勝正幸さんによるインタビューだ。最初で最後の来日コンサートの折に実現したもので、ゲンズブールは当時、還暦。その3年後に心筋梗塞で亡くなった。

───日本では、シャンソンを、おしゃれな大人の人たちが聴くといった状況があるのですが、あなたのファンだけは違います。パンク・ロックよりパンクだと思って、支持している若い人たちが多いのです。
SG もし俺の歌詞が全部わかったら、ものすごくエロチックな内容に度肝を抜かれるだろう。30年前、俺がブリジッド・バルドーに作った『ジュテーム・モア・ノン・プリュ』は、その頃世界で最も官能的な歌だった。今もそうだし、これからも、自分が作る歌は、ますます過激になっていくだろう。でも、ロマンチックな曲だっていくつか作ってるんだ。それは、俺の中に流れているロシアの血がそうさせるのだと思う。
───ロシアの話が出ましたが、あなたはロシア系ユダヤ人としてのアイデンティティーが強いのですか? それともフランス人としての自覚が、あるいは、コスモポリタンとしての自覚が強いのですか?
SG 俺にルーツはない。知的な意味ではフランス人だけどね。そういうルーツはどうでもいいことだよ。ロシアといっても、祖父母はもういないし、何の関わりもないよ。 もう遅すぎる(と言って、遥か遠くを見るような目つきになる)。
川勝正幸『ポップ中毒者の手記(約10年分)より』
実際にこの役を演じたケネス・ブラナーはとても温厚で
「演技とはいえ女性に暴力を振るうなんて」というタイプらしい。

映画『TENET』の悪役、アンドレイ・セイター。武器の取引で莫大な財を成し、イギリスを拠点にしているロシア人商人。妻はイギリス人の美しい美術鑑定士。夫婦のあいだは冷めきっていて、もはや愛はなく、セイターは暴力で妻を支配している。ロシア……イギリス人の若く美しい妻……彼女への暴力……着崩した白いドレスシャツ……。映画を見ながら「この役、セルジュ・ゲンズブールが演じていたらどうだったろう」なんて途方もないことを考えた(パンツはデニムじゃなかったけど)。

10年前に川勝さんも56歳で亡くなられた。まさか自分がゲンズブールより早くこの世を去るなんて、彼も思ってもみなかっただろう。


1月7日(土) ネイチャー自問

積ん読だった『スペクテイター』最新号を読む。自然って何だろうか───過去最高にデカいテーマ。痺れるね。

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それこそぼくが「自然って何だろうか」と考えるときの基盤となっているのは、寺田寅彦の「日本人の自然観」という随筆だ。

今回の『ス』誌でも語られている、自然対人間、あるいは自然とテクノロジーやエコノミズム。これらが常に二律背反する存在として扱われるべきではないこと、また自然保護と環境負荷に関する冷静な検証の大切さも、この文章のなかで寺田は指摘している。

 もしも自然というものが地球上どこでも同じ相貌そうぼうを呈しているものとしたら、日本の自然も外国の自然も同じであるはずであって、従って上記のごとき問題の内容吟味は不必要であるが、しかし実際には自然の相貌が至るところむしろ驚くべき多様多彩の変化を示していて、ひと口に自然と言ってしまうにはあまりに複雑な変化を見せているのである。

 われわれは通例便宜上自然と人間とを対立させ両方別々の存在のように考える。これが現代の科学的方法の長所であると同時に短所である。
 この両者は実は合して一つの有機体を構成しているのであって究極的には独立に切り離して考えることのできないものである。人類もあらゆる植物や動物と同様に長い長い歳月の間に自然のふところにはぐくまれてその環境に適応するように育て上げられて来たものであって、あらゆる環境の特異性はその中に育って来たものにたとえわずかでもなんらか固有の印銘を残しているであろうと思われる。
寺田寅彦「日本人の自然観」

寺田がこの随筆を書いたのは昭和10年(1935年)だ。テクノロジーといったって、ようやくラジオや電球が各家庭に普及してきたくらいの時代だったのに。天才の思考というのは易々と時空を超えてしまう。

青空文庫やKindleでも無料で読めるのでぜひ。

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