もやしし

どうやら子供ができたみたい。彼と一緒になる時が来たのだわ、と浮かれ気分に浸っていたのも束の間、彼にそのことを打ち明けたと同時に期待は崩れ落ちた。

彼は「良かったね。」の一言だけを置いて、瞬く間に去って行った。

子供達だけは私が何とかしなくちゃ。と大きな大きな歯車のの中で今日も今日とてクタクタになるまで働く。

そんな日々が続いたある日。私の前に幸運な話が訪れる。真面目に休むことなく働き続けてきた甲斐があった。これはビックチャンスだ、と疲れもあってか疑うことなく一直線に飛びつき何とも上手いやり口にかかってしまった。どうにか、どうにか、子供がいるんです。と願う。

何度も願うが言葉は通じない。

私はこれからどうなるんだろう。お腹の子達はどうなるんだろう?

あれ?ここはどこ?何だか熱い。ぼーっとしてきてしまった。お腹の中もやけに熱い。意識が飛びそうだ。まるで焼かれるような熱さに負け、私の生涯はここで尽きた。

あれから子供達はどうなったんだろう?何とか生き延びることができているだろうか?こんなことが気になって仕方がない。これじゃあ成仏もできやしない。なんて思っていたら私はどうやら地縛霊になってしまったらしい。私の遺体は今どうなっているの?触れたこともない、無機質で、ツルツルした何かの上にいるみたいだ。辺りは真っ暗。一人でいるにはあまりにも不気味だと思っていれば、なんと隣に私と同じような会ったことのない幽霊さんがいる。

「あなた達は何に未練を残してこうなってしまったの?」

と聞くと

「おそらく貴方も同じよ?私たちが妊娠したことを知り、その時期を狙って子供がいる私たちを焼いて食べようとする恐ろしい生き物がいるのよ。」

そんな恐ろしい話があってたまるか。と思いはしたが、そこでこんな音が聞こえて来る。

「いらっしゃいませ〜」
「これと、、、、294番」
「お会計合わせて980円になります」
「おい」
「?はい」
「最近のコンビニじゃこんなものまで置いてるんだな」
「便利になりましたよね〜」
「また来る」
「ありがとうございました〜」

聞いたことのない生き物の声だった、私の遺体はハンモックの様にゆらりゆらりと15分

「ただいま〜。って、誰もいないか。」

灯りが付いたのだろうか。少し周りが見えるようになった。何もない真っ白な部屋だ。そこには私たちの遺体が3つ並んでいる。とても殺伐とした空気だ。

空に何かの絵が書いてある。見たことない絵だ。

円082 匹3 き焼塩 もやししち持子

何だこれ?

「いただきまーす」


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