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NHK短歌への投稿作・4月号

選者:川野里子先生 題詠「顔」
半世紀仕込みのわれの観相学四角い顔は嘘がつけない
目の前のラーメンライス 猫のえさ一回分は顔の大きさ
年越しの朝顔たしかに生きてゐるだんだん薄く小さくなりても

ひとり手を挙げる反逆、教室に無言の「えーっ」の地響きがする
東京都 稲山博司さん(5月号)

作者はたぶん真面目な生徒で、絶対に反抗的なことはしないと思われていたのでしょう。無言の「えーっ」の地響き巧い。微妙な空気がひろがる景色がみえます。何に対して反逆されたのか。そこが気になります。何でも多数決で決まってゆくことに我慢ならなかった。俺は日和見とちゃうぜと主張したかった。反逆児、いいですねえ、好きですねえ。青春期にはしっかり反逆なさることです。でないと大人になってから反逆しちゃいけないところで反逆児になります。


選者:山崎聡子先生 題詠「傷ついたこと」
言葉に愛されてる君の言い訳は美しい詩のようでだから
「生理通で休みます」ああそうですか言える勇気が私を刺しぬ
「君たちは残業なしで帰ってね」涙かくさず駅へ歩きき

一首目は佳作に採っていただきました。山崎さんありがとうございます!
投稿歌は「ようで だから」一字空きでしたが、空きがないと焦燥、切迫感が増す気がします。


たましいの洗濯板って笑いあう等間隔の手首の傷を
東京都 石川真琴さん(4月号)

袖口にためらい傷をのぞかせてコートの釦を拾ってくれた
石川県 高原すいかさん(5月号)

むかし行った美容院。シャンプーを担当してくれた若い女の子の左手首にリストカットの痕が無数にありました。夏で、半袖。まったく気にする風でなく、普通にたわいもない話をしゃべっている。正直最初、隠さないの? えっと驚きました。でもだんだん、堂々としてる彼女に感動を覚えてきた。
石川さん。たましいの洗濯板。言葉のチョイスがおもしろくてなんか笑ってしまったんですけど、その後でしみじみきました。「悲しみの遠く遠く先に笑いが待っている」誰かが言ってた言葉を思い出しました。
高原さん。ためらい傷が見えてしまうのに、ボタンを拾ってくれたんですね。傷がみえた瞬間にその人の心の一端にふれたような、遠くて近い人に変貌したような印象を持ちました。


選者:吉川宏志先生 題詠「さえ(助詞)」
「命さえあれば」を疑ふわが心叩きのめせり元日大揺れて
おみくじが小吉いつも笑ってる君さえ小吉だからいいかな


日曜の社内チャットに「就業」の緑のマークを数へをりたり
福岡県 犬山裕之さん(5月号)

この歌が優れているのは休日出勤を否定的に、ありきたりには詠んでないところです。事実だけを述べている。内容はまさにうちの状況と同じです。もう今は休日に仕事はしませんが、以前はちょっとだけしてるときありました。
仕事終わってもしばらく緑のマーク消えない人、複数います。たぶん全国たくさんいると思う。そのうち手動で橙(離席中)とか×(オフライン)に変えても仕事やってる。残業の上限が原則月45時間までと法律で決まってはいるが、納期も質も落とせない。
あほやなあと思う反面、私はこれを全て「社畜」とか「やりがい搾取」「仕事中毒」とは捉えたくないのです。お金も大事だけどそれ以上にできるだけお客さんにいいものを届けたいんですね、みんな。もちろん過度なサービス残業は嫌だし、しませんが、お金にならない見えない微細な仕事が他人の心に届くことって、ある(へんな日本語やっ)。そんな気がするのです。


選者:岡野大嗣先生 題詠「コンビニ」
コンビニの特Aランク紙質がよくて印字の濃いプリンター
桃太郎の古里にあるコンビニも葉書と切手もう置いてない

一首目は佳作に採っていただきました。岡野さんありがとうございます!


返信はしなくていいからアメリカっぽいドーナツでも食べて元気だして
岡野大嗣

私、この歌がすごく好きなのでもう一度載せます。仕事で失敗して落ち込んで席に戻ってきたらチョコパイなんかのちょっと豪華めのお菓子がおいてあった。いや飴一個でもいいんです。紙に「どうぞ」とあるだけで名前は書いてない(筆跡でなんとなくわかる)。こういうの非常に泣けてくる。
この歌は「どうぞ」と似てるところがあって、相手に気をつかわせないこんなセリフ、最高やん。悲しいとき、落ち込んだとき、この歌を思い浮かべます。すると岡野さんからアメリカっぽいドーナツを手渡してもらった気分になります。すみません、妄想です。
アメリカのドーナツじゃなくて「アメリカっぽいドーナツ」なのです。カラースプレーがいっぱい乗った、とにかくめちゃ甘い、いかにも元気出そうなドーナツです。